香椎川で福岡市初の地下河川 流域治水の試金石に(前)
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香椎川地下河川工事シールド発進式 掘削作業が本格始動
福岡市は東区香椎地区を流れる香椎川の河川改修工事を、川底の下にトンネル状の地下河川(バイパス水路)を整備する方式で進めている。
今回進められている「準用香椎川河川改修(地下河川)工事」は、2022年12月からシールド工法で整備が進められているもので、福岡市にとって初めての地下河川となる。施工は前田建設工業・日本国土開発・羽野組・サンコービルドJVが担当し、工期は26年3月13日までを予定している。
今年1月23日には、東区香椎駅前1丁目に設置された発進基地防音ハウス内で、シールド発進式が執り行われた。発進式には、高島宗一郎・福岡市長や加藤智博・国土交通省九州地方整備局河川部長、打越基安・福岡市議会議長、藤田和仁・香椎校区自治協議会会長、花岡信一・前田建設工業(株)九州支店執行役員支店長らが出席。シールドマシンの起動ボタンが押され、掘削作業が本格始動した。
地下河川方式を採用
香椎川が流れる香椎地区ではこれまで、区画整理や市街化などの施策を通じて、土地利用の高度化が進められてきた。一方で、博多駅周辺などの市中心部で大規模な浸水被害が発生した1999年6月29日の記録的な豪雨時には、香椎川周辺でも河川の氾濫によって多くの家屋や道路に浸水被害が発生。流下能力を超える大量の雨が一気に流入したことが、氾濫の原因とされている。そのため、大雨発生時の河川氾濫を防止して浸水被害の発生を未然に防ぐことで、香椎川流域の安全・安心を確保し、まちを水害から守ることを目的として、今回の改修工事が進められることになった。
一般的な河川改修では、道路規制をともなう河道拡幅や川底掘下げによって行われる。しかし、今回の工事区間にはJR鹿児島本線と香椎線の2つの鉄道路線および国道3号博多バイパスが香椎川上空を横断しているほか、周辺には戸建住宅や集合住宅が密集していることで、長期におよぶ通行止めは日常生活への影響が大きくなると予想。市はそのほかにも複合的な要因を考慮し、地下河川方式が最適であると判断した。
今回の地下河川整備では、香椎川上流側と下流側にそれぞれ流入口と放流口を設け、香椎川の直下約10mに内径4.5m、延長712mの地下河川トンネルを築造する。これにより、あらかじめ定められた水位を超えた場合の増加分の水量を上流側の流入口から取り込み、地下河川トンネルを通じて下流側で放流する、新たな河川バイパスができあがる。地下河川への流入口は、流量が増加する香椎川と宮北川の合流地点に設置され、制水門によりいったん水をせき止めることで、流入口に水が流れ込むように誘導。取り込んだ水は流入口に接続されたマンホールに流れ込み、地下河川トンネルを通じて、下流の放流口から放流される仕組みだ。
なお、現況の香椎川の排水能力は、1時間あたりの降水量約30mmに対応。だが、地下河川整備後の排水能力は大幅に向上し、1時間あたり降水量約70mm規模の大雨による氾濫防止と浸水被害の軽減が可能となる見込みだ。
シールド工法で掘削
シールドマシン 今回の地下河川の整備にあたっては、シールド工法が採用された。シールド工法とは、福岡市地下鉄七隈線の延伸事業(天神南~博多間)でも採用された工法で、シールドマシンで地盤を掘り進めるとともに、その後方でコンクリート製や鋼製のブロックを円形に組み立てながらトンネルをつくっていくもの。地下を掘り進むため地上への影響が少なく、騒音や振動も緩和されることで、都心部での道路トンネルや地下鉄、上下水道などの工事で多くの実績がある。また、今回の香椎川のように周辺への工事の影響を最小限に抑えなければならない状況下では、他工法(開削工法やNATM、切削工法など)と比べて経済性や工期の面での優位性もある。
掘削作業を進めるにあたっては、まずシールドマシンが堀進を始めるための「立坑」を築造し、その内側にマンホールを構築していく。流入口のマンホールはライナープレート工法(土留め工法の1つ)で施工され、一定幅の補強壁が組み上がった段階でさらに掘り下げていき、新たなプレートを下方に継ぎ足していく。所定の深さまで到達した後、内部で型枠を組んでコンクリートを打設し、マンホール完成となる。なお、マンホール内部は流れ落ちる水の勢いを弱めるため、らせん状の滑り台のような形状となる。これには騒音を抑えるとともに、構造物の摩耗を防ぐ効果もある。
放流口のマンホールは、流入口とは違うSMW工法(ソイルミキシングウォール工法)で施工される。3連のスクリューを装備した機械によって掘下げていき、掘った土とセメントを混合し壁を構築する工法で、広い地下空間をつくるのに適している工法でもある。
トンネル部分の掘削は、立坑から横向きにシールドマシンを発進させ、掘削と土砂の排出、同時にトンネル構造の構築をすべてシールドマシンで行っていく。トンネル部分では、「セグメント」と呼ばれる6つのパーツを組み上げることで1リングが形成され、これを繰り返し接続していくことでトンネル(外径5.05m、内径4.50m)を形成。なお、セグメントには直線部用(コンクリートセグメント)と急曲線部用(鋼製セグメント)の2種類が用いられる。実際の施工作業は、シールドマシンの前面にあるカッターヘッドをゆっくり回転させ、組み上がったセグメントをシールドジャッキで押しながら掘り進めていく。土砂は、圧送ポンプで地上の土砂仮置場に送り出される。セグメントの幅分(1.2m)を掘り進めると、カッターヘッドの回転をいったん止め、シールドジャッキを縮めることで空間を確保し、その空間に新たなセグメントを継ぎ足してトンネルを延伸していくことになる。
(つづく)
【内山義之】
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