木造非住宅の普及をリードする「木造設計アドバイザー」とは(前)
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(株)ウッディファーム
代表取締役 坂田雅孝 氏熊本県では、県が施工あるいは補助を行う3階建以下の公共建築物などについて、原則木造とするという方針を打ち出しており、多くの建築物の木造・木質化が進められてきた。そして現在は、民間の事業所など「非住宅」においても同様の動きを推進している。そのなかで重要な役割を担っているのが、「木造設計アドバイザー」の存在だ。そこで今回は、木造設計アドバイザーの第1号認定者で、中大規模木造建築物の建築の在り方にも詳しい、(株)ウッディファーム・代表取締役の坂田雅孝氏に話を聞いた。
住宅建築からシフト
──御社の事業内容や、現在中心的に取り組んでいることを教えてください。
坂田 当社は、製材品、加工木材および住宅資材の企画販売や住宅建築などを行ってきましたが、30年ほど前から中大規模の木造建築、木造非住宅にも深く携わってきました。間違った木材の取付・施工法が多いため、現在は公共施設や事業用の木造建築の専門工事会社として注力し、施設系の木造建築の可能性をもっと広げる方向にシフトしてきたのです。これまでに関わってきた木造・木質建築物には、文化施設や教育施設、駅の公共空間、熊本地震関連のミュージアムなど、多数の公共系の建築物があります。また、コンクールなどに出ているような大規模・特殊な施設も手がけています。
とくに、熊本県では1988年からスタートした「くまもとアートポリス」(※)事業において、木造建築物も数多く建設されてきました。事業では121カ所(2月1日現在)の建築物や施設などが建設されていますが、たとえば23年7月にオープンした「熊本地震震災ミュージアム体験・展示施設」(阿蘇郡南阿蘇村)は木造建築物で、当社が関わったものの1つです。なお、民間の建物では、老人福祉施設や保育園なども手がけています。機能性や大空間の必要性などを考慮し、鉄骨やコンクリートの部分的な併用も行いながら、できるだけ木の魅力を生かす木造・木質化を心がけています。
熊本地震震災ミュージアム-体験・展示施設
(熊本県ホームページより)※88年当時知事だった細川護煕氏が、「熊本らしい田園文化圏の創造」を目標として掲げ、後世に残し得る文化を熊本県で実現させることを目指し始まった事業。国内はもとより、海外のメディアからこの事業により「県全体が建築博物館である世界にも類を見ない地域」になっていると紹介されるなど、海外からの評価も高い。 ^
──「木造設計アドバイザー」としても活躍されています。
坂田 2010年10月に「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」が施行されたことを受けて、熊本県では公共建築を基本的に木造化しようとする機運が強まり、その際に設計事務所や施工者などの関係者へ助言を行うために、12年度からスタートしたのが「木造設計アドバイザー」制度です。私はその第1号認定者で、県内には現在、私を含めて4人が活動しています。
公共建築物の木造化促進についての課題として、「中大規模となる可能性が高い」「単年度会計の制約がある」「木材調達に関する懸念」「法的な面での制約の懸念」「建築コストの懸念」が浮き彫りになってきました。たとえば、中大規模な建築物の場合、計画策定時に木材を調達する時期について考慮する必要があります。年間でも木材が高い時期とそうでない時期があるからです。これらの課題を解消しながらスムーズに実現するためには、構造設計や木材の調達、品質、コストなどの面で相談を受け、問題が起こらないようサポートする仕組みが必要ということで、木造設計アドバイザーの制度が生まれたわけです。
縦と横をつなぐ
──建築物の木造化にはさまざまな段階があり、多様な立場の関係者が関わりますから、その調整はたしかに非常に重要ですね。
坂田 川上(森林組合など林業関係者など)・川中(製材関連事業者など)・川下(設計事務所や建設会社など)の事業者がそれぞれの立場で木材活用の検討を進めており、こういった縦割り構造が障害となってきました。また、川下の設計事務所でも、事業者間に技術設計の差があり、それも木造建築物の普及において障害になっていました。木造設計アドバイザーはそれら関係者の間に立ち、横の連携をつくり出して、適切なかたちで木造建築を進められるよう調整します。
他県にも似たような制度設計の動きはありますが、まだ機能していない、あるいは形式的になっているケースがあるようです。それは、知識や経験が十分にない人がアドバイスすることで、設計事務所の間で疑問を生じさせたり、施工側への利益誘導と誤解されたりすることなどがあるからです。そうした状況をうまく調整し、すべての立場を尊重しながら成果を出すには、豊富な経験と中立的なスタンスが重要なのです。
(つづく)
【田中直輝】
<COMPANY INFORMATION>
代 表:坂田雅孝
所在地:熊本市南区近見8-10-1
設 立:1994年1月
資本金:1,000万円<プロフィール>
1977年、千葉工業大学経営工学科卒。繊維会社を経て熊本の製材所、集成材工場などでの勤務後、94年に(株)ウッディファームを設立。木材接着士、木材乾燥士、大断面集成材管理士などの資格を有する。熊本県木造設計アドバイザーの第1号認定者。「木を生かす推進協議会」講師でもある。月刊まちづくりに記事を書きませんか?
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