木造非住宅の普及をリードする「木造設計アドバイザー」とは(後)
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(株)ウッディファーム
代表取締役 坂田雅孝 氏熊本県では、県が施工あるいは補助を行う3階建以下の公共建築物などについて、原則木造とするという方針を打ち出しており、多くの建築物の木造・木質化が進められてきた。そして現在は、民間の事業所など「非住宅」においても同様の動きを推進している。そのなかで重要な役割を担っているのが、「木造設計アドバイザー」の存在だ。そこで今回は、木造設計アドバイザーの第1号認定者で、中大規模木造建築物の建築の在り方にも詳しい、(株)ウッディファーム・代表取締役の坂田雅孝氏に話を聞いた。
計画初期から関与
──具体的にはどのような役割を担い、アドバイスをされるのでしょうか。
坂田 木造建築物の設計・木材調達・工事の流れは【図】のようなイメージです。アドバイザーが、全体スケジュールの早い段階から関わることがおわかりいただけると思います。
設計の段階では、木材情報の提供や木材調達の助言のほか、木材の物性の確認(耐久性や乾燥、強度、供給)、維持管理計画の策定などについても携わります。設計に基づき全体の見積もり額が決まりますから、そうすることで入札後に大きく受注額が変わることがなくなります。
また、素材調達にあたっては、林業関係者と丸太の量についての打ち合わせを行いますから、入札後に木材調達ができない、あるいは木材価格が高くて十分な量を調達できないなどという事態を極力回避できますし、林業関係者にとっても比較的無理のない体制を組むことができます。木材産業は今、人手不足などで大変な状況で、中大規模になると調達量が多いので、「急に木材を調達してほしい」などと言われても、対応がしづらいのです。
さらに詳しく説明しますと、設計段階で4回アドバイスを行います。1回目には、たとえば熊本県産材利用にあたって、各部材に求められる樹種の選定や生産量などについても説明します。木造軸組(在来工法)住宅に使われる一般流通製材の規格や価格の状況なども説明しますが、それは設計者が流通材のことと、JAS材について理解していないことが多いからです。一言で木材や製材などといいますが、スギ、ヒノキなど品種、乾燥の度合いの違いによっても強度や耐久性が変わってきますから、そうした点も考慮した助言を行います。
たとえば、一般的に強度は辺材が強く、耐久性はヒノキのほうが高いと言われていますが、それは心材部の話で、辺材部については少なくとも耐久性ではスギと大差がない、などといったことです。また、繊維・接線・半径方向では乾燥すると収縮率が異なります。そういった木材の特徴についての知識も伝えています。2回目以降では、熊本県産材や地域材が使用された木造建築物の現場見学会なども行います。もちろん、県の営繕課や林業振興課などの関係機関と協力・調整しながら実施するものとなっています。
技術者不足も課題
──木造非住宅の普及において、とくに重大な課題は何でしょうか。
坂田 大きく分けて3つがあります。1つ目は、大学などで木造を専門的に学んでいない設計者が多く、そのため構造設計者や大空間設計における木造・木質化の技術者が不足していることです。そのため、構造計算が難しい高さやスパン(柱間)が大きな建築物は、鉄骨造やRC造が主流になってきた経緯があります。2つ目は、木材調達体制の整備が行き届いていないこと。中大規模の木造建築物では地元産材を使うことが求められるケースが多いのですが、伐採時期や加工場の能力、JAS認定など、原木から施工現場までの流通ルートを考慮した計画が必要になり、それは経験や知識がないと至難の業です。3つ目は、補助制度の扱いを含むコスト管理。補助金はあるものの、手続きが複雑だったり、設計段階で明確にしておかなければ追加のコスト負担が生じることがあります。「木造建築物は鉄骨造やRC造より高額になる」と思われがちですが、住宅は木造のほうが安く、中大規模になると高くなるのはおかしいのです。
本社ビルも木造で建てられている ──御社では民間の事業用建築物の木造化にも取り組んでいます。
坂田 高齢者福祉施設や保育施設など、木造との親和性が高い分野ではかなり建設実績が増えてきました。ただし、防火・耐火基準のクリア、内装制限との調整などが複雑で、苦労するケースも多いです。幼稚園、保育園は管轄が文科省と厚労省に分かれていたりしますし、建築法令だけでなく運用上の基準が重なることもあり、計画段階でしっかりとした調整と設計が欠かせません。
成功事例の周知が大切
本社ビルに隣接する倉庫の内部 ──中高層のビルなどを木造で実現する動きも見られ始めています。
坂田 10階以上をCLTや鉄骨造などとの「ハイブリッド木造」で実現する事例が、首都圏を中心に全国で増えつつあります。ですが、九州においては需要が少ないことと技術者不足があり、本格的な普及はまだ先になりそうです。とくに、構造設計を引き受けられる技術者は大半が東京などの中央に集中していて、地方には少ないのが実情です。地方ではまず、設計・施工の面で住宅の延長として対応しやすい、一般流通材を活用した3~4階建てに注力すべきです。
一番重要なのは、各地域で試験的なプロジェクトを立ち上げ、その成功事例を広く周知することだと思います。行政や民間が連携し、3・4階建以上の木造ビルを少なくとも1棟はモデル的に建築する。そこに構造設計者や施工者を集め、実践で学べる環境をつくるのです。そうした実例ができれば、「高い」「難しい」「時間がかかる」といったネガティブなイメージを払拭できますし、設計者やプレカット工場のスキルも蓄積されるはずです。
(了)
【田中直輝】
<COMPANY INFORMATION>
代 表:坂田雅孝
所在地:熊本市南区近見8-10-1
設 立:1994年1月
資本金:1,000万円<プロフィール>
1977年、千葉工業大学経営工学科卒。繊維会社を経て熊本の製材所、集成材工場などでの勤務後、94年に(株)ウッディファームを設立。木材接着士、木材乾燥士、大断面集成材管理士などの資格を有する。熊本県木造設計アドバイザーの第1号認定者。「木を生かす推進協議会」講師でもある。月刊まちづくりに記事を書きませんか?
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