NetIB-Newsでは、「未来トレンド分析シリーズ」の連載でもお馴染みの国際政治経済学者の浜田和幸氏のメルマガ「浜田和幸の世界最新トレンドとビジネスチャンス」の記事を紹介する。
今回は、3月21日付の記事を紹介する。
トランプ大統領の発言はどこまで本気なのか真意を測りかねるケースが多々あります。思い起こせば、大統領に就任する直前まで、「ウクライナ戦争を24時間以内に終わらせる」と豪語していましたが、大統領になると「半年で決着をつける」と軌道修正をしてしまいました。
そしてこのところ、相次いでプーチン大統領やゼレンスキー大統領との電話会談を行い、「ロシアとウクライナを停戦に持ち込むディールをまとめつつある。良い感触だ」と言うではありませんか。
先にゼレンスキー大統領がホワイトハウスを訪れた際には、バンス副大統領も加わり、丁々発止の激論の末、「ロシアとの交渉カードのないウクライナには戦争に勝てる見込みはない。アメリカの支援に感謝し、多少の領土は放棄し、ロシアとの和平交渉を急ぐべきだ」と、ロシア寄りの姿勢を見せたトランプ大統領でした。
しかし、トランプ氏は発言をころころ変えるのもディールの一環と考えているようで、朝言ったことを夕べには覆すなど、毎度のことです。周りのスタッフも閣僚でさえも、そんなトランプ節に右往左往しています。
では、ウクライナ戦争を早期に終結させるというトランプ流の秘策とは何でしょうか。実は、アメリカの投資ファンドや軍産複合体はウクライナの穀物や地下に眠る鉱物資源に狙いを定めているのです。
大豆、小麦、トウモロコシなどの穀物に関しては、ウクライナはヨーロッパ最大の生産量を誇っています。アメリカのブラックロックなど投資ファンドはゼレンスキー大統領に巧みに食い込み、既に穀倉地帯の大半の所有権を獲得しているほどです。
また、ウクライナ東部に大量に眠っているとされるレアアースなど鉱物資源も旧ソ連時代のデータによれば、世界的にも貴重な品質と大規模な埋蔵量が見込まれるとのこと。半導体はじめIT関連製品に欠かせないレアアースですが、アメリカはその大半を中国に依存しています。2023年の時点で、アメリカは400tのレアアースを海外から輸入していますが、そのうち396tを中国から買っているのです。
そのため、表向き中国との敵対姿勢を鮮明にしているアメリカですが、中国を怒らせ、レアアースの輸入をストップされては、アメリカの産業界はお手上げ状態になってしまいます。そこで、トランプ大統領は「中国への依存度をゼロに近づけるためには、ウクライナの地下資源を手に入れるのが近道だ」と判断したようです。
そのため、トランプ大統領曰く「アメリカはウクライナに経済支援や武器弾薬の提供を続けてきた。その総額は5,000億ドルになる。その分を鉱物資源で支払うのが当然だろう。そうしなければ、アメリカはウクライナへの援助をストップする」。得意の「ディール」を持ちかけているのでしょう。
とはいえ、その具体的な中身はまだ明らかにはされていません。ただ、アメリカの政府関係者によれば、「トランプ大統領はウクライナを新たなアメリカの領土に組み込むことを狙っている」とのこと。「カナダをアメリカの51番目の州にする」と“トランプ砲”をぶち上げているわけですが、「ウクライナを52番目の州に組み入れる」との発想に傾いているようで、驚かされます。
そのことを踏まえた上で、トランプ氏はゼレンスキー氏に対して「ロシアに占領されたくなければ、俺が守ってやる。その代わりレアアースを寄こせ」と得意のディールを持ちかけたと見られます。
トランプ大統領とすれば、ロシアや中国の動きを抑えるためにも、ウクライナを自国領に組み込もうとしているわけです。アメリカの支援がなければ生き残れないウクライナの弱みにつけ込み、アメリカの黄金時代に欠かせないレアアースをそっくり手に入れようという魂胆に他なりません。
では、日本はウクライナとどのような関係を築こうとしているのでしょうか。岸田前首相の時には、ご本人はもちろん上川外務大臣もウクライナを訪問し、戦後復興に全面的に協力する意向を示してきました。
あまり知られていませんが、ウクライナは大の親日国です。横綱大鵬の生まれ故郷でもあり、日本がロシアと領土問題で膠着状態を続けている「北方領土」にしても住民の大半はスターリン時代にウクライナから強制的に移住させられたウクライナ人です。
経済的にもつながりは深く、日本たばこ産業にとってウクライナは最大の原料供給国に他なりません。ユニクロに至ってはウクライナに200店舗を展開してきました。また、楽天の三木谷社長もウクライナをたびたび訪問し、戦争終結を見越して、新たな投資案件を協議中とのこと。
現時点ではウクライナに暮らす日本人は200人ほどですが、戦争が終わり、経済復興が軌道に乗れば、日本の持つ技術や資本はウクライナにとって大きな手助けになるはずです。アメリカやロシアが狙う鉱物資源の開発にしても、地雷除去が先決となります。この分野でも日本の持つ経験や技術は大きな期待を集めているところです。日本にはこうした交渉カードがあるわけですから、アメリカやロシアともしっかりと向き合うチャンス到来ではないかと思います。
著者:浜田和幸
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