福岡県知事選の争点になった「ワンヘルス」事業を考える

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

 終盤に差しかかっている福岡県知事選。今回の選挙では福岡県が重点施策として進めるワンヘルス事業の是非が争点となっている。県民の間でも賛否がわかれるが、改めて考察していくことにする。

政治家による私物化との批判

 今回立候補しているのは、届け出順に無所属新人で弁護士の吉田幸一郎氏(共産支持)、再選を目指す無所属現職の服部誠太郎氏(自民・立憲・国民・公明・社民推薦)、無所属新人で自営業の藤丸貴裕氏、諸派新人で政治団体代表の新藤伸夫氏の4人。

 このうち、現職の服部氏以外の3人の候補者はいずれも、ワンヘルス事業を無駄だとして、事業の即時中止を訴えている。

 とくにワンヘルスに対し批判を展開しているのは吉田氏で、ホームページに「服部知事は、次の4年も蔵内氏のワンヘルス政策をより進めていくことを公約としました。誰が、3億円のモニュメントをつくって欲しいと言ったのでしょうか?誰が、100億円のワンヘルス政策を希望したのでしょうか?県民ではありません。政治家です。『行政の私物化』です」という文章を掲載。街頭演説や集会でも服部氏が公約に掲げたワンヘルス事業に重点を置いた批判を展開している。

 吉田氏がいう「3億円のモニュメント」とは「県営筑後広域公園」に建てられた「ワンヘルス・カーボンゲート」のことである。筑後広域公園は、世界獣医師会会長で、福岡県政に強い影響力をもつ蔵内勇夫県議の地元・筑後市にある。

筑後広域公園にあるワンヘルス・カーボンゲート
筑後広域公園にあるワンヘルス・カーボンゲート

    「ワンヘルス」とは、人と動物の健康と環境の健全性を1つの健康と捉え、一体的に守っていく考え方のことである。福岡県だけでなく、国も取り組んでおり、厚生労働省では、ホームページで「ワンヘルスの考え方を広く普及・啓発するとともに、分野間の連携を推進しています」と紹介し、環境省や農林水産省と連携した取り組みを行っている。

 吉田氏を支持する共産党やふくおか緑の党などのリベラル左派は医療や環境問題に熱心で、支持してもおかしくなさそうなテーマであるが、「問題は特定の政治家のためにあること」なのだという。

福岡県にとってチャンスとの声

 こうした批判に対し、知事選告示後、各地の集会で服部氏は「ワンヘルスは特定の政治家のためにあるものではない」ことを強調し、事業の意義を語っている。

 服部県政の下での2022~25年度のワンヘルス関連事業費は約102億円(当初予算分など)におよぶ。たとえばワンヘルスの理念に沿って生産される県産の農林水産物を認証する「ワンヘルス認証」の創設や、犬や猫の致死処分の削減やワンヘルスの教育支援など領域は幅広い。

 25年度予算では、約46億円をかけて県南のみやま市にあるワンヘルスセンターも整備される。県によると太宰府にある県保健環境研究所の老朽化による建て替えの必要が生じたことから、みやま市の旧保健医療経営大学跡地に整備するもので、23年7月、同市は、市議会の議決を経て福岡県に同物件を無償譲渡する協定を交わしている。

 反対の声がある一方で、積極的に支持する声もある。筑後市議会議員の鶴佑季子議員は「ワンヘルスは福岡県にとってチャンス」と述べたうえで「私のライフワークである動物愛護活動もワンヘルス推進が始まりやっとさまざまな予算が出てきました。現在ある動物行政のさまざまな事業拡充を検討しているなかで、人と動物の共生を進めているワンヘルスをなくすなんてことは考えられません」と語った。

 服部氏の前任である小川洋前知事と、自民党県議団は対立関係にあったが、小川氏の辞任による服部県政誕生の経緯もあり、県議会内で自民党県議団に配慮する動きが目立つのは事実だ。しかし、リベラル系で労働組合が支持基盤の立憲民主党や国民民主党、社民党の県議で構成する民主県政県議団とも良好な関係にあり、「人権や労働政策などでバランスある県政になっている」(県議会関係者)との声も聞かれる。

 強調しておきたいが、人獣共通感染症や環境問題は、今やグローバルなテーマであり、ワンヘルスの理念は重要なことである。

 一方で県民の税金が事業に投入される以上、その事業内容が公共性に叶うものでなければならない。元県議が収賄容疑で逮捕されたケア・トランポリン事業もそうだが、行政が行うさまざまな施策が、ある意味で「お墨付き」を与えているという側面があることは留意すべきだろう。

 23日に投開票される福岡県知事選では、ワンヘルス事業の是非を含め、県政のリーダーへの審判が下されることになる。

【近藤将勝】

関連キーワード

関連記事