「最低賃金1 000円」ショック!!生産性上がらなければ退場か
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政府の経済財政諮問会議で安倍晋三首相が「最低賃金1,000円」の目標を打ち出した。年3%程度ずつ引き上げ、現在の全国平均798円(時給)から1,000円をめざすという。
消費拡大のため所得の底上げをはかる狙いだ。
最低賃金時給1,000円の目標は、民主党政権時代に検討されたものだ。当時は、経団連が、生産性向上と合わせた最低賃金引き上げを主張して、頓挫した。それがアベノミクスで復活するとは皮肉なものだ。中小企業の社長から悲鳴上がる
OECDに加盟する先進国では、軒並み最低賃金1,000円は当たり前である。そのうえ、最低賃金の引き上げの動きは、今年、世界で相次いでいる。
4月に全世界で、ファストフード産業の労働者が賃金引上げを求めた「ファストフード世界同時アクション」が行われ、東京・渋谷でも若者らが「時給1,500円が常識」とデモした。
ドイツが全国一律の最低賃金制度を導入し、先進国のなかでもかなり低いと言われる米国においても、オバマ政権2期目が最低賃金を10.10ドルに引き上げるよう提案。ニューヨーク州がファストフード従業員の最低賃金(現在8.75ドル)を段階的に15ドルに引き上げるよう勧告することを決めたと報じられた。そこには、格差と貧困を是正して経済成長を維持しようという動きがある。
だが、「最低賃金1,000円」について、中小企業の社長からはさっそく悲鳴があがっている。
中小企業の人手不足は深刻で、人材確保のために、求人広告の金額も昨年来、じわじわと上がってきた。福岡県の最低賃金は10月4日から時給743円になり、今では、求人の金額は750円よりも800円の方が目立つくらいだ。
それが毎年3%上がるとどうなるのか。2015年の最低賃金引き上げ額は全国平均で18円。798円の3%は24円で、それを上回る大幅なアップになる。時給24円アップには、売上げをいくら増やせばいいか?
たとえば、小さな洋品雑貨店のケースを考えてみよう。
TKC経営指標速報版(小売業)の資料によると、洋品雑貨店の平均売上高は年約1億4,600万円、人件費約3,300万円、平均従業員9.6人。黒字企業は3割。最低賃金のパートだけ賃上げするわけにはいかないので、従業員全員24円ベースアップすると仮定して、いくら売上げアップが必要か試算してみた。
人件費のうち役員報酬と賃金の比率が理想的な2対3とすると、年間の総賃金は1,971万円なので、売上高賃金倍率は、4.4と算出できる。従業員は、正社員2人、パート8人(計算上、パートは2人で正社員1人に換算)。賞与を年間2カ月支給していることにしよう。所定内労働時間は週40時間、月間173.8時間、1人あたり残業月20時間とすると、時給24円アップすると、賃金は1人あたり年間4,771円増、従業員全体で年間約40万円増える。これを売上げに換算すると、その4.4倍の年間176万円売上げを増やさないといけない。月約15万円、1日6,000円の売り上げ増が必要な勘定だ。
だが、TKC経営指標によれば、洋品雑貨店の売上げは前年比やや減少(前年比99.8%)しているので、売り上げ増は容易ではない。
生産性向上、つまり売上げアップができなければ、あとはコストカットしか賃上げ原資は生まれない。労働政策の転換、経済同友会が提言(2014年)
経済同友会はちょうど1年前に労働政策の転換を提言(2014年11月)した。「高い志を持って労働生産性の向上と雇用の質の改善を実現しようとする企業とその経営者の背中を後押しする」ためだ。「労働者の生産性を向上しなければ人手不足に対応することができない」という危機感もあった。そのなかで最低賃金の引き上げを掲げたが、「健全な労働条件を確保できない企業があれば、退出させることもやむを得ない」という覚悟を求めた“劇薬”であった。
覚悟を求められている者を経営者だけにしていたら、多くの会社はおそらく淘汰されるだろう。労使一体となって生産性を上げる風土を作った企業が、人材を確保し、生き残る時代に入っている。【山本 弘之】
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