【特集連載2】うきは市問題~問われる公共事業の公平性(前)

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 全国で公営住宅の建替えや長寿命化の取り組みが行われている。福岡県うきは市においても、1961年に建てられた市営団地の再整備が計画され、昨年末、公募型プロポーザル方式で優先事業者が選定されたが、選定過程や事業提案にさまざまな問題点が指摘されている。同市で一体何が起こったのか。

老朽化による市営団地再整備

 うきは市は福岡県南部に位置し、人口は2025年2月末時点で2万7,273人。福岡都市圏から車で1時間も満たない近距離にありながら、水と緑に恵まれており、風光明媚な自然環境、田園風景が広がる農村地域である。市街地のうちJR筑後吉井駅周辺には古い町並みも残り、多くの観光客が訪れている。

 一方で他の福岡県南地域と同じく、人口減少も進んでおり、地域経済の活性化が急務である。福岡都市圏に近いことから定住人口を増やすことが十分可能な地域だ。そこで必要になってくるのは、交通インフラと住環境の整備だが、うきは市の市営団地も建設から年数が経過し、老朽化などから再整備時期を迎えている。

 なかでも1966年から71年にかけて整備された西隈上団地(うきは市浮羽町朝田)は老朽化しており、27棟の市営住宅と集会所の建替えが急務となっていた。極めて公共性の高い事業であるが、今、同団地の整備事業の事業者選定や事業の中身をめぐって疑義が呈されている。結論を先にいえば、行政のトップである市長の責任が大きい。

団地整備事業の概要

団地整備概要 NEXTうきは提案資料より
団地整備概要
NEXTうきは提案資料より

 まず、事業概要をみていきたい。同団地はJR久大本線・うきは駅近くに位置し、総戸数は112戸で、現在の入居戸数 51 戸である。入居率は43.8%。世帯人数別では、単身世帯53.1%、2人世帯34.7%となっており、高齢者の世帯が少なくない。

 市は2024年4月24日、「市営西隈上団地等整備事業に係る実施方針」を公表し、同団地の再整備を行う方針を明らかにした。市営住宅の建替えにあたって、集約化によって生じる余剰地の有効活用を含めてPFIなどの民間活力を使って事業を行う方針とした。整備を行う住宅を含む敷地面積は約2万1,370m2である。

 実施方針によると、既存の住宅などを撤去し、新たに市営住宅・広場・シェアスペース・分譲宅地を整備することとした。分譲宅地は、住宅などの解体を行い更地にしたうえで事業者が市から土地を取得し、住宅地として整備・販売を行うことになる。

評価で大差なかった2つの応募グループ

 これまでの経過は次の通り。市は24年6月3日に「市営西隈上団地等整備事業」を特定事業として選定し、事業者の募集を開始した。同月現地見学会を開催し、7月31日まで事業者を公募している。8月16日に第1次審査を行い、参加資格などを確認した。事業者による技術提案書の提出期限は10月18日で、2グループが公募に応じた。

 1つは大和ハウス工業(株)九州支社を代表とするグループ「NEXTうきは」と、もう1つは地場企業の山﨑建設(株)を代表とするグループ(以下、山﨑建設グループ)である。

 両グループは10月25日の審査と11月26日のプレゼンテーション審査を経て、12月25日に優先交渉権者として大和ハウス工業・九州支社を中心とするNEXTうきはに決定したことが発表された。

 だが取材のなかで審査過程の不可解さがみえてきた。まずは公表された評価の結果を見てみたい(【表】参照)。11ある評価項目のうち、8項目でNEXTうきは(優先交渉権者)が山﨑建設グループを上回っていた。

事業者審査結果
【表】事業者審査結果(市ホームページより)

 しかし、評価の配点を見ると、「建替住宅の計画に関する提案」や「施工計画に関する提案」など、NEXTうきはに対して山﨑建設グループの配点は遜色がない。なぜこの点がひっかかるのかというと、国土交通省は08年に地場の建設企業の育成を含めた「公共工事の品質確保に関する当面の対策について」という通知を各地方整備局長あてに出している。各自治体も国の方針を受けて、地場企業の育成の観点から地元業者優先発注の方針を打ち出してきた。西隈上団地整備の実施方針では、地元業者を優遇するとの方針は必ずしも示されていないが、公共事業である以上、地場企業の育成は重要な観点だ。

配慮不足の地元企業の育成

 そうした視点で見ると、両グループ間における評価項目(2)の「地元産業への貢献に関する提案」の得点差が目立つ。

 NEXTうきは3.20ポイントに対して、山﨑建設グループ7.60ポイントで、両グループの得点には2倍以上の差がある。評価はAを最良(具体的でとくに優れた提案)、Eを可(要求水準は満たしているが、具体的な提案がない)とする5段階評価で、5名の審査員はNEXTうきはに対してE・D・B・C・Cの評価を、山﨑建設グループに対してはA・A・B・A・Aの評価をそれぞれ下している。地域貢献度が高いのはどの提案か、一目瞭然である。

 最終的に、分譲宅地に関する提案などの評価項目でNEXTうきはが山﨑建設グループを上回り、2.3ポイント差で優先交渉権者に選定された。しかし、市有地である西隈上団地には27棟の市営住宅、集会場、広場が整備されており、長年にわたって維持・管理に市内の事業者や市民が納める税金が充てられてきた。公共事業は税金が投入される以上、地元への還元が求められるが、各評価項目の配点が適切だったのか。議会でも疑問の声が挙がっていた。

 NEXTうきはの代表企業は大和ハウス工業・九州支社だが、現場の担当者は集合住宅事業部・久留米営業所で、構成企業のトップフィールド不動産も山一建設工業㈱も久留米市に本社があり、実質的に久留米に拠点を置く事業者といってよい。

 一方の山﨑建設グループは、設計を担う㈱手島建築設計事務所は福岡市だが、山﨑建設をはじめ(株)総建・(株)稲富組・筑水建設(株)の4社はうきは市に本社があり、長年市のまちづくりに貢献してきた地元企業ばかりである。

 NEXTうきはの提案内容をみると、集合住宅の北棟(30戸)・南棟(25戸)や分譲宅地(16区画)、憩いの場としての芝生広場やシェアスペース(シェアオフィス、子ども向けの屋内遊び場など)、歩行者が安全にエリア内を歩けるようにプロムナードが整備される予定となっている。

 NEXTうきはの提案価格は19億1,400万円(税込)(市が定めた上限額19億2,000万円(同))。なお、山﨑建設グループの提案価格は19億1,900万円(同)で、提案価格でみるとNEXTうきはのほうが費用は低く抑えられるが、近年の建築資材価格の高騰などを考えると、当初の予算内で収まるだろうか。予定より膨らむ可能性は大きい。

(つづく)

【近藤将勝】

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