【特集連載3】うきは市問題~問われる公共事業の公平性(後)
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全国で公営住宅の建替えや長寿命化の取り組みが行われている。福岡県うきは市においても、1961年に建てられた市営団地の再整備が計画され、昨年末、公募型プロポーザル方式で優先事業者が選定されたが、選定過程や事業提案にさまざまな問題点が指摘されている。同市で一体何が起こったのか。
事業者選定で情報流出疑惑
審査過程で重大な疑惑として取り沙汰されているのは、優先交渉権者の決定に至る過程で、事前に情報が外部に流出していた疑いである。
今回、事業者選定は企画競争入札とも呼ばれるプロポーザル方式で行われた。市の職員3人を含む5人の審査委員(審査講評より抜粋)に業務提案書が渡されたのは昨年10月25日で、1カ月後の11月26日に最終審査が行われている。
選定の流れを示した「うきは市営西隈上団地等整備事業 事業者選定基準」を読むと、「仮採点」というものがあった。10月25日に提案書が審査委員に渡されてから約1カ月間、外部に持ち出されていたという。25日の時点では採点業務は行われておらず、5人の委員は持ち帰ってメールで仮採点したものを返信している。こうしたやり方で審査の公平性が担保されるのかも疑問だが、さらに11月26日のプレゼンテーションを含む審査の過程で、採点に大幅な変更が加えられていた。
この審査の問題点は、あるニュースサイトに取り上げられたことで市民の関心を呼んだ。そして、議会の議案質疑でも質問が行われたが、市長公室長は「一連のPFIの審査のなかで法的な瑕疵はないことを確認している」と否定した。
うきは市建設課の担当者は記者の取材に対して、「2人の大学教授は大学の研究室内で仮採点をし、メールで返信していただいた」と認めたうえで「大学は出入りが制限され、鍵の管理もされている」「大学教授の先生は日程の確保が難しく、持ち帰ることはほかの自治体でも行われている」と釈明した。
現在の西隈上団地 軽量鉄骨造とRC造の構造面、性能面の相違
問題はこれだけにとどまらない。地図でわかるように、西隈上団地は川沿いに立地している。近年の水害などを考えると防災の視点が求められるが、その視点で見たときに、NEXTうきはが提案する軽量鉄骨造(プレハブ工法)による建物の耐久性などを懸念する声がある。
軽量鉄骨造と鉄筋コンクリート(RC造)はそれぞれに特徴がある。今回、採用された軽量鉄骨造は材料の軽量さなどの特徴がある。大和ハウスをはじめ大手住宅メーカーの多くはあらかじめ主要な部材を工場で製造しておき、現場で組み立てを行う「プレハブ工法」を採用している。その分工期が短くなるため、建築費用が低く抑えられる。反面、鉄筋コンクリート(RC造)に比べ、遮音性は低く、周りの生活音などが聞こえやすい。
一方、RC造は、建築コストがかかるが、多くの公営住宅で採用されており、災害に対する強靭さという点で、縦方向と横方向いずれからの圧力にも十分に耐えられる構造であり、耐震性に優れている特徴がある。
大和ハウスは、公営住宅を手がけるのは今回が初めてではない。東日本大震災で被災した地域の公営住宅や、近隣では熊本地震の被災者向けに整備した災害公営住宅「市営南熊本第二団地」(80戸)も同社が手がけている。
福岡県内の複数のゼネコン関係者に話を聞いてみると「頑丈さはRC造であるが、工期などを考えると鉄骨造を採用したのだろう」との声や「住宅は長期生活するものだから、耐久性は不可欠で、耐火性にも優れるのはRCだ」などの声が聞かれた。
市が公表した審査公表にも、「鉄骨造の提案であるが、鉄筋コンクリート(RC造)に比べて遮音性能を確保できるか不安視する意見があった」とある。耐久性や遮音性は、長く住宅に住むことを考えると重要な観点であることはいうまでもない。
市議会から続出した疑問
こうしたこともあって、市議会でも疑問の声が挙がっていた。3月5日の市議会の議案質疑のなかで複数の市議から質問が出された。論点を上げると「地域貢献度をどの程度勘案するか」「地元企業育成をこのなかでどう考えるのか」「仮採点をしている手続きに問題はなかったか」などである。
長くなるが、質問内容をいくつか紹介したい。副議長を務める熊懐和明議員は、地元林産材の活用について指摘した。
「木材は使わないということですが、そのことをお聞きしたい。うきは市は森林資源を生かすためにも木材を学校や市営住宅に使っていくことを本格に始めていくとお聞きしていた。西隈上は、木材は多く使われるか、使われないのか」。
建設課長の答弁は次の通り。
「メンテナンスが容易でライフサイクルコストを安く抑えつつ、恒久な構造物をというところで考えたところ、木材の活用が条件に合わなかった。木材は一部使用するが外構の一部になる」。
熊懐議員は再質問し、地元業者の苦境を述べつつ、西隈上団地ではなぜ木材の活用がないのか質している。
権藤市長は「市内の製材業、林業の皆さんの産業の育成という部分では議員のおっしゃる通り」と認めつつ「直近の高見団地は5階の建物。西隈上は3階で木造でもいけるが、今回、脱炭素先行地域に選考されたなかで補助金を活用してPFIで行っており、要件から、木造は除かせていただいた。市内の林産業の育成という点では、高見団地と西隈上団地以外は市内の木材をしっかり活用した木造もしくは軽量鉄骨を用いた住宅である」と、他の市営住宅では木材を活用しており、問題はないとの認識を示した。
市長も認めたRC造の耐久性
前述した建物の構造に関する質問もあった。組坂公明議員は、今回、軽量鉄骨が使われることに疑問を呈した。
「調べたが、軽量鉄骨は19年、鉄筋コンクリートは47年。19年で家がだめになるというわけではないが、あまりにも違いがあるなかで屋上に太陽光パネルを設置するならば強固な建物ではないといけないのではないか。消防の経験から軽量鉄骨では、延焼する恐れがある。鉄は熱に弱い」。
建設課長の答弁は次の通り。
「耐久性でいえばより長いものの、かたちで対応する。これによって75年から90年、持つ構造になるという提案を受けた。耐火性は国交省の性能評価規定で試験を実施したものを使われる」。
耐久性や耐火性に問題はないとの認識である。
組坂議員は市長の答弁も求めた。市長は「RCか、S造(鉄骨)かについて。たしかにRCは強い」と組坂議員の指摘に同意しつつも「浮羽中学校は、50年で鉄筋の建物だが、今、腐食がかなり進んでいる。雨風に晒されて、能登地震でも顕著だが、大きな鉄筋の建物が倒れている。一度コンクリートにひびが入ると、そこから空気や水が入って鉄筋が腐食してしまうと構造の耐える力が落ちてしまう弱点もある」と学校の事例を引き合いにして今回の結果を擁護する答弁を行った。
最終的に議長を除く12人で採決が行われ、7対5で、執行部の提案通り可決された。
議会で可決されたが、賛成した議員のなかにも直前まで賛否を迷ったことを言明した議員もいた。市長や建設課長の答弁で、問題点や疑惑が解消されたわけではない。
議会において権藤市長は「地場企業の育成」の重要性を強調し「たしかにRCは強い」とも述べている。そうであるならば、今からでも事業を見直すべきではないだろうか。
前市長から引き継いだ継続案件
そもそも今回の事業は、髙木典雄前市長時代に計画・方針が決定していたものだ。24年3月に「西隈上団地PFI事業(予定)に係る実施方針の策定の見通し」がホームページ上で公開され、24年度予算に盛り込まれた西隈上団地PFIアドバイザリー業務委託料など関連予算を議会も承認している。
髙木前市長は旧浮羽町出身で、地元の県立高校を卒業後、旧建設省九州地方建設局に入省し、1994年から98年まで旧浮羽町助役として出向した経験をもつ。その後、国土交通省福岡国道事務所副所長などを歴任し、2012年の市長選で当選し3期務めた。
市長時代の髙木氏が事業にどこまで関わっていたかは定かではないが、うきは市として初めてのPFI事業を行うことを決めたのは間違いなく髙木氏だ。古巣の国土交通省は民間活力を活用して自治体の財政の効率的運用を行う手法としてPFIを推進してきた。そして西隈上団地の事業は市長選の間も進められていた。
市長選が行われる時期は以前からわかっていたはずだ。選挙を挟んだ時期に大型の事業を組むのは、行政の継続性の観点から間違いとはいえないが、次の市長が中身を十分検討する時間的余裕はないことになる。在任中積み残した仕事を、次の市長に任せて退任したともいえる。
髙木氏は昨年3月、4期目の不出馬を宣言した。24年6月30日に行われた市長選で当選したのが、元市議でもある権藤英樹市長だ。3人が立候補したが、地元代議士の鳩山二郎氏は農政連系の元県議を応援し、髙木氏が後継者として応援したのが権藤氏であった。
久留米を「地元」と考える市長
なお、権藤氏は、議会でも答弁しているが市議時代にPFI事業として西隈上団地の整備が行われる経緯は認識していた。若く改革志向の市長であり、地元出身でもある。
市長としての立場はあるとして、本音のところは、どうなのか。なぜ、今回の結果になったのか。市長としての見解を聞くために、市に取材を申し込んだところ、2月5日に権藤市長と電話での取材を行った。30分ほどのやり取りであった。市としての公式な見解を述べていたが、市民が知れば反発が出かねない発言もあった。
記者が「久留米市の企業も地元という受け止め方をされているのですか」と問うと、権藤市長は次のような回答であった。
「広域的に、いわゆる筑後地域だとか、とくに久留米・うきはは広域連携、都市圏でもありますから、この地域全体にお金が循環するようになっていくことが1つの考え方だと思っている」。一瞬耳を疑った。「久留米市も広域的な意味で、同一圏内で問題はない」という認識を示したからだ。
続けてこう述べた。「当然大前提としてはやっぱりうきは市内の事業者さんがそういう意味ではいいのかもしれないですけども、たとえて言うならばまったく遠くの関東圏だとか、北海道だとかそんなところではなくて。地元という意味合いではそういうふうなところかなと思っています」。
権藤市長が言う「地元という意味合い」とは、久留米の企業も地元との認識をもっているということだ。たしかに久留米とうきはは隣接しているが、あくまでも事業所の所在地は別である。地元企業であれば、税金もうきは市に納めてくれるが、久留米に本拠地があれば久留米に流れていくことになる。市長がこのような認識では「地元軽視になっていないか」と批判の声が挙がるのも無理からぬことだ。
市長への取材でも、議会での答弁でもそうだが、自分が決めたわけではないからというニュアンスが端々に感じられる表現が気になった。
問われる市長の責任
冒頭書いたようにうきは市は、人口減少や経済活性化が大きな課題となっている。うきは市のトップセールスを行う市長が、久留米市の事業者でもよいとの認識や、RC造と鉄骨造とでは耐久性などに差があることを認識しながら、結果の正当性を繰り返し、真摯な反省は感じられなかった。
西隈上団地をめぐっては、議案に賛成した議員からも市民の不安の声を代弁する発言があった。同一の企業による施工・管理ではチェックが働かないのではないかとの指摘もあった。また公営住宅は、収入などの入居要件などがある。高齢者や単身世帯の入居が想定されているが、そのことへの配慮はあるのかとの声が出された。
市は、バリアフリーに対応した手すりの設置を行うなど安心して生活できると説明しているが、そうした配慮は当然のことで、住環境にとって重要なのは安全性である。RC造と鉄骨造では、RC造のほうが耐久性や遮音性、耐火性に優れていることは、権藤市長も認めているところである。にもかかわらず、今回の顛末となった。
憶測は控えるべきだが、取材を進めていくなかで、列挙してきた問題点、とくに不透明な審査過程を踏まえると前市長時代からある程度の結論がすでにあったのではないかと思われる。現市長が議会での議決前に見直すこともできたはずだ。当該問題は多くのうきは市民の関心を集めているが、トップリーダーとしての権藤市長の責任は大きい。
(了)
【近藤将勝】
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