【連載】コミュニティの自律経営(52)~もやい九州と僕

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 元福岡市職員で、故・山崎広太郎元市長を政策秘書などの立場で支えてきた吉村慎一氏が、2024年7月に上梓した自伝『コミュニティの自律経営 広太郎さんとジェットコースター人生』(梓書院)。著者・吉村氏が、福岡市の成長時期に市長を務めた山崎氏との日々を振り返るだけでなく、福岡県知事選や九州大学の移転、アイランドシティの建設などの内幕や人間模様などについても語られている同書を、NetIBで連載していく。
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【第五章】もやい九州とともに

もやい九州と僕

 20世紀の知の巨人P・F・ドラッカーは「コミュニティは人間にとって不可欠のものである」といっているが、僕の人生にとって、もやい九州というコミュニティは不可欠のものだった。

 もやい九州が発足して22年目を迎えているが、もやい九州なかりせば、僕のジェットコースター人生はただ怖いばっかりの殺風景なものだけだったかもしれないし、これほどの彩りに溢れた車窓風景にはならなかっただろうと思う。もやい九州のメンバーは多士済々で、彼ら/彼女らの「この指止まれ」は常に僕に位置づけと役割(=居場所と出番)を与えてきてくれた。コミュニティの価値はそのコミュニティに属する一人ひとりに位置づけと役割(居場所と出番)を与えることだと思うが、もやい九州は正にそのような場だった。そして、「この指止まれ」というもやい九州の行動原理は、ジョハリの窓などでいわれる「自己開示」そのものだと思う。自己開示が大きければ大きいほど、そのフィードバックは大きく、未知の窓が開かれていく。こんなこと言ったら笑われるかな、誰も止まってくれないかなとか思いがちだけど、何よりもやい九州は、いつでも「この指止まれ」で手が上げられる安心/安全な場であり続けているし、皆で育ててきたと思っている。

 僕はマージナルマンという生き方を大切にしてきた。これは「一つの足を帰属する企業・組織におき、そこでの役割を心を込めて果たしつつ、一方で組織に埋没することなく、もう一つの足を社会に置き、世界のあり方や社会の中での自分の役割を見つめるといういきかた。それをマージナルマンという」(『世界を知る力』203p 寺島実郎 PHP新書 2009)というもので、もやい九州の意義そのものだと思う。

 さらにこの精神は、公務員にこそ求められると思ってきた。公務員の使命は公共の福祉=社会共通の利益の実現。であればこそ、公務員は机の上で物を考え、役所の窓から社会を見るのではなく、もう一方の足を組織の外に置いて、社会が求める価値を知らなければ、その使命の達成はおぼつかないと思うのである。もやい九州はそのような足場でもあった。

もやい九州の発足

 もやい九州は、行政経営フォーラム九州部会として、平成14年(2002)4月13日キックオフミーティングを開催、発足している。平成9年(1997)に発足した行政経営フォーラムも会員数が確か400人を超えてきて、地域ごとに部会をつくろうということになり、九州出身者や九州に縁のあるメンバーが集まり、九州部会として発足した。当日の参加者は18 名(最高値280名位、現在105名)、会の名前は「行政経営フォーラム九州/未来創造クラブ」通称を「もやい九州」としたが、あっという間に「もやい九州」がメンバー共通の名前となった。

もやい九州の歩み

 もやい九州が発足して、22年目を迎えているが、10、15、20周年の節目のメッセージをここに再掲し、活動の振り返りとしたい。

<もやい九州設立10周年の想い/2012>

 もやい九州は2002年4月13日、F市役所の会議室で設立総会を行い、共同CEOに当時佐賀市長の木下敏之さん、現多久市長の横尾俊彦さんのお二人、顧問に当時九州大学大学院教授の今里滋さんという豪華布陣でスタートしました。といってもメンバーは10数人、当初はあくまで行政経営フォーラムの九州支部という位置づけで、非営利組織の経営改革に取り組んでいこうというのがミッションでした。とにかく実践だということで、当時今里さんと親交のあった中嶋玲子杷木町長(九州初の女性町長/現福岡県議)を応援しようと、三セク「ガマダス」の経営改革に取り組みました。さらには、「もやいキャラバン」を編成し、熊本県人吉市役所の職員研修に出かけたりしました(今考えれば、かなりの冷や汗ものだったかもしれない……)。また、韓国IT事情を視察したコロンブス・ツアーは佐賀市長であった木下敏之さんが団長であったこともあり、その後の佐賀市のIT改革の端緒ともなりました。

 もやい九州のモットーは「大人の部活」、大人の分別をもちつつ?仕事とは違う世界を愉しむということ?春の大花見大会、夏・秋の合宿、年末の大望年会、MLもやたら活発で年間2,000通を数えていたこともあり、今や会員数は280人を超え、ちょっとバブル?年中行事は〇△迎撃会!そして、行動原理は「この指止まれ!」。言い出しっぺのこれをやりたい!という思いがつながって、気がついてみたらソーシャル・アントレプレナーだったりして。共有・共感・共働・共創、ローカル・マニフェスト運動、まちの駅、市民と議員の条例づくり交流会議、そして八木澤商店支援プロジェクト。今泉さんからのSOSコール、あっという間に集まった支援物資、お中元・お歳暮パックの取り組みへの発展は見事でした。今回の三陸・被災地フロントライン研修は、ドンピシャでもやい九州設立10周年の日の4月13日に出発することができ、何よりの記念事業となりました。駆け足でしたが、垣間見えた被災地の現実は大変厳しく、それだけに「被災地を忘れないでください」というメッセージは心に沁みました。

 もやい九州、新たな10年のスタート。さあ、この指止まれで始めよう!

(つづく)


<著者プロフィール>
吉村慎一
(よしむら・しんいち)
1952年生まれ。福岡高校、中央大学法学部、九州大学大学院法学研究科卒業(2003年)。75年福岡市役所採用。94年同退職。衆議院議員政策担当秘書就任。99年福岡市役所選考採用。市長室行政経営推進担当課長、同経営補佐部長、議会事務局次長、中央区区政推進部長を務め、2013年3月定年退職。社会福祉法人暖家の丘事務長を経て、同法人理事。
香住ヶ丘6丁目3区町内会長/香住丘校区自治協議会事務局次長/&Reprentm特別顧問/防災士/一般社団法人コーチングプラットホーム 認定コーチ/全米NLP協会 マスタープラクティショナー
著書:『パブリックセクターの経済経営学』(共著、NTT出版03年)

『コミュニティの自律経営 広太郎さんとジェットコースター人生』
著 者:吉村慎一
発 行:2024年7月31日
総ページ数:332
判サイズ:A5判
出 版:梓書院
https://azusashoin.shop-pro.jp/?pid=181693411

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