政府系金融機関の商工組合中央金庫(商工中金)は6月13日、改正商工中金法の施行に伴い民営化へ移行した。これにより、政府が保有していた約46.5%の株式はすべて放出され、同金庫は一般の民間銀行と同等の立場となる。
商工中金は1936年に国と中小企業組合の共同出資で設立され、長らく「半官半民」という特殊な地位を保ってきた。2008年には株式会社化されたものの、その後、リーマン・ショックや東日本大震災、さらに不正融資問題の発覚により、民営化プロセスは停滞を余儀なくされた。しかし近年、新型コロナウイルス禍を契機とした中小企業支援ニーズの増加を受け、再び完全民営化の動きが加速した。
一方、民営化に伴う懸念も根強く指摘されている。とくに、中小企業支援の後退を危惧する声は多く、政府系機関としての「危機時における最後の貸し手」といった伝統的役割が損なわれることへの不安が残る。
また、ガバナンス面での課題も存在する。過去に発覚した不正融資事件の原因の一つとして、半官半民特有の緩やかな経営体質が挙げられてきた。民営化後は経営陣が民間出身者中心となる見通しだが、収益重視の姿勢が過度に強まらないか、引き続き監視が必要となる。政府は民営化後も監督体制を維持し、施行後4年以内に業務内容を再点検する規定を設けている。
一方で地方銀行や信用金庫からは、公的な性格を残しつつ競争力だけを高めることへの不公平感や、地方金融市場におけるシェア争いの激化への懸念が表明されている。これに対して商工中金側は「地域金融機関との協調融資や事業再生支援を推進し、民業圧迫には至らない」との方針を明言している。
今後、商工中金が地域経済と中小企業の真のパートナーとしての役割をはたし、地域金融機関との健全な競争・協調関係を築けるかが注目される。
なお、商工中金は全国すべての都道府県に支店を持ち、25年3月末時点の貸出金残高は9兆6,420億円。参考までに九州の主要地銀グループでは、ふくおかフィナンシャルグループ(FG)が18兆9,703億円、西日本フィナンシャルホールディングス(FH)が9兆9,214億円、九州フィナンシャルグループ(FG)が9兆424億円となっており、商工中金の規模は西日本FHおよび九州FGに匹敵する水準にある。
【緒方克美】