【鮫島タイムス別館(37)】自民惨敗、進次郎人気に限界 都議選が映す参院選の行方
進次郎効果は限定的 自民・公明に都民の厳しい審判
東京都議選(6月22日投開票)は、7月の参院選に向けた各党の現況をくっきり映し出す結果となった。
自民党は過去最低の21議席にとどまり、都議会第1党から陥落した。しかも裏金事件で非公認とした3人を開票直後に追加公認する「水増し」付きである。歴史的惨敗だ。東京は、裏金事件が直撃した旧安倍派の萩生田光一氏や下村博文氏の地元。さらには都議会自民党でも同様の裏金事件が発覚した。都民は裏金問題を忘れていなかったのだ。
マスコミ各社の出口調査では、自民支持層の5〜6割程度しか固められていない様子が伝わってくる。小泉進次郎農水相の「備蓄米の無制限放出」と「コメ増産」に国民世論は拍手喝采し、内閣支持率も自民党支持率も上昇に転じていたが、少なくとも首都・東京では「進次郎人気」は自民党から離れた人々を引き戻すほどの効果はなかったのである。
自民党内には進次郎の登場で「参院選を乗り切れる」との楽観論が広がりつつあったが、「都議選ショック」で冷や水を浴びせられた格好だ。「進次郎人気」の限界を可視化して自民党復調の空気を一変させたことは、今回の都議選が参院選に与えた最大の効果かもしれない。
連立相手の公明党も惨敗した。創価学会の本拠地である東京の選挙は、公明党にとって特別である。都議選は過去8回連続で「全員当選」だった。落選者を出して学会員たちを落胆させないように、緻密な選挙分析で「勝てる候補」を絞り込んで全員当選を期すことは、公明党の至上命令である。今回は前回から1人減らして22人を擁立し、万全の体制をとったはずだった。ところが、まさかの3人落選。全員当選の連続記録はあっさり途絶えた。公明党の「全員当選神話」は崩れつつある。
自民との連立政権発足から四半世紀。与党病が蔓延し、自民党に追従する場面が目立つ。創価学会の高齢化も進み、国政選挙ごとに得票数を減らしている。今回の参院選での大苦戦を予感させる都議選となったのだ。
リベラルも伸び悩み 維新・れいわ・国民に広がる失速感
同じく惨敗したのは、共産党だ。都議会では立憲民主党を上回る第4党だったが、5議席減の14議席にとどまった。公明党と同様、支持層の高齢化に直面して無党派層への広がりがほとんどみられず、党勢は衰退の一途をたどっている。2つの老舗組織政党の凋落ぶりは、ついに「昭和」政治が完全に閉幕することを物語っているのかもしれない。
立憲民主党は15議席から17議席へ、国民民主党はゼロから9議席へ、勢力を拡大した。マスコミにはこれを「勝利」と位置付ける報道もある。しかし私は「伸び悩み」と判定している。立憲はそもそも都議会第5党だった。2議席を増やしたとはいえ、国政の野党第一党として自公批判票の受け皿になっているとすれば、もっと議席を積み増したはずだ。この2議席増は共産党凋落の反作用でしかない。つまり、リベラル勢力内での票の移動に過ぎないと私はみている。
それに比べ、国民民主党の「9議席」は、自公批判票を吸収したものだろう。しかし、そもそもの目標は「11議席」だった。山尾志桜里氏の参院選擁立をめぐる大騒動や、玉木雄一郎代表の「備蓄米は1年経ったら動物の餌」という失言で支持率が急落していなければ、2桁の議席獲得は確実とみられていた。その意味で今回の都議選は、国民民主党の失速を映し出す結果だったといえる。
擁立候補が全滅したのが、日本維新の会、れいわ新選組、そして、石丸伸二氏が旗揚げした再生の道である。維新は6人が全員落選した。大阪以外では勝てない政党になりつつある。全国政党から撤退し、大阪の地域政党へ立ち戻る可能性さえ出てきたといえるだろう。れいわは3人が全員落選した。昨年の総選挙で減税を掲げる国民民主党と並んで躍進し、政党支持率でも維新を上回る状況が続いて、参院選の台風の目になるとみられてきた。ところが、ここ数カ月で支持率が一転して低迷したのである。最大の要因は、参政党の台頭だ。れいわ支持から参政党支持へ移る人が増えている。既存政党に批判的な新興勢力の中核ポジションを、参政党に奪われつつあるのだ。
石丸旋風の終焉と参政党・都ファの浮上が示す新潮流
最も話題を呼んだのは、再生の道の全員落選だった。昨年夏の都知事選で旋風を巻き起こした石丸氏が飛びかけた都議選の公募には1,128人が殺到。自民党と並んで最多の42人を擁立したが、まさかの「全滅」である。石丸旋風は完全に終焉したといっていい。
石丸氏は「政治参加を促すため、候補者擁立が目的だった」と強がったが、擁立するだけで当選にはこだわらないと明言する政党から出馬しようという人は、今後はほとんど現れないだろう。再生の道は〈消滅への道〉をたどるのではないか。
以上、都民からNOを突きつけられた政党について縷々述べた。自公与党は見放されているものの、立憲や国民も受け皿となりきれていない。既存の国政政党は総崩れの様相である。唯一の勝者は、小池百合子知事が率いる地域政党「都民ファースト」と、台風の目に急浮上した新興勢力の参政党だった。
都民ファーストは31議席に躍進して第1党を奪った。自公批判票を最も引き寄せた結果である。国民民主党の失速で玉木代表の人気が急落するなかで、小池知事の国政復帰待望論が再燃する可能性もあるだろう。参政党は4人中3人が当選。全滅した維新やれいわ、再生の道を横目に「新興勢力の雄」に躍り出たといっていい。参政党は若年世代を中心に支持を広げ、都議選直前の兵庫県尼崎市議選で擁立候補がトップ当選した。参院選でも全選挙区に候補者を擁立しており、地力をつけつつある。
自公はもうイヤ、国民には落胆した、立憲にも抵抗がある…そんな思いで都民ファーストに流れた大量の浮動票は、参院選でどこへ向かうのか。勝敗を左右する大きなポイントだ。
【ジャーナリスト/鮫島浩】
<プロフィール>
鮫島浩(さめじま・ひろし)
1994年に京都大学法学部を卒業し、朝日新聞に入社。99年に政治部へ。菅直人、竹中平蔵、古賀誠、町村信孝、与謝野馨や幅広い政治家を担当し、39歳で異例の政治部デスクに。2013年に原発事故をめぐる「手抜き除染」スクープ報道で新聞協会賞受賞。21年に独立し『SAMEJIMA TIMES』を創刊。YouTubeでも政治解説を連日発信し、登録者数は約15万人。著書に『朝日新聞政治部』(講談社、22年)、『政治はケンカだ!明石市長の12年』(泉房穂氏と共著、講談社、23年)、『あきらめない政治』(那須里山舎、24年)。
▶ 新しいニュースのかたち│SAMEJIMA TIMES
▶ Samejima Times YouTubeチャンネル
▶ 鮫島タイムス別館(NetIB-NEWS)