山田正彦元農水大臣、「日本の食と農業を守ろう」と訴える

 筑紫野市の温泉旅館・大観荘大ホールで22日、元農林水産大臣で弁護士の山田正彦氏による講演会が開催された。講演は福岡県議会議員・原竹岩海氏(民主県政クラブ県議団)の県政報告会のなかで行われた。

超党派の議員や市民が参集

 会には、国会議員、宗像市や糸島市などの地方議員、農業関係者を中心に、幅広い分野から約300人が来場した。司会は、元アナウンサーでもある室屋美香・福岡県議会議員が務めた。

来賓あいさつする大曲福岡県副知事
来賓あいさつする大曲福岡県副知事

    来賓あいさつでは大曲昭恵・福岡県副知事が原竹県議の取り組みに触れ、「農業以外でも産業廃棄物処理問題や、聴覚障害者の皆さまの思いを受けての手話言語条例の制定など生活者の視点で取り組んでいただいている」と述べ、「何よりも明るく元気な原竹先生に皆さまよりお力をいただき、県政の発展に共に尽力してまいりたい」と語った。

あいさつする野田国義氏
あいさつする野田国義氏

    地元・筑紫野市議会からは上村和男市議があいさつに立ち、「農業の問題は私たち日本の生き方の問題」と指摘。「食糧問題にとどまらず、私たちの暮らし・命にかかわる問題として党派を超えて考える必要がある」と訴えた。

 このほか、楠田大蔵・太宰府市長、野田国義・古賀之士両参議院議員もあいさつを行った。

いじめ問題に果敢に取り組む

 原竹県議は、県政報告として、県議任期前半では文教常任委員会に所属し、いじめ問題に取り組んだことを紹介。「夢と希望をもって学校に入った子どもがいじめで命を絶った。愛する子を失ったお母さんの悲痛な思いを受け、やらなければならないと決意し、会派の後輩議員任せにせず、文教委員会で発言を行うことができた」と述べた。

県政報告を行う原竹岩海県議
県政報告を行う原竹岩海県議

 また観光政策について、県は海外からの観光客について中東地域からの誘客を進めており、ハラル(イスラム法で許容される食品やサービス)対応の推進などに取り組んでいることが紹介された。

 5月に行われた委員会改選により、原竹県議は農林水産委員会に所属することとなり、今回の報告はこれまで以上に力が入っていた。

 「世界は天候や災害、人口増加により2025年には深刻な水不足や食料不足が懸念される」と指摘。「日本は、ウクライナなどから小麦を輸入(約90%)しているが、輸入すればいいという環境ではなくなっている」と述べたうえで、「今後日本は最悪の事態となった場合、米を食べることができず、イモを食べることになる。イモは飽きたといってもそれしか食べることができなくなる」と危機感を表明した。

農水省はコメ不足を認識していた

 原竹氏の県政報告での発言を受けて、山田元農水大臣の講演が行われた。山田正彦氏は菅直人政権時代(2010年)に農林水産大臣を務め、農家に対する個別所得補償を創設したことで知られる。また『売り渡される食の安全』(角川新書)など著書も数多く執筆し、アメリカの圧力により日本の食の安全が脅かされていることに警鐘を鳴らしてきた。

 山田氏は、農林水産省の資料を示しながら4年前からコメの生産量を消費量が上回っており、「コメ不足になることを農水省も認識していた」と指摘した。

講演で熱く語る山田元農水大臣
講演で熱く語る山田元農水大臣

 日本の食料自給率は、カロリーベースで38%と低い。その背景にはアメリカとの関係がある。戦後、アメリカの要求により小麦や大豆などの輸入を受け入れたが、「日本政府は要求を断るべきであった。政府の失政・責任である」と批判した。

 コメについては、毎年77万tのコメを無関税で義務的に輸入しており、このうち10万tは主食用として民間に入札で販売されている。山田氏は「ミニマムアクセスとして行われている輸入はあくまで、輸入機会だが日本政府は長年義務だと言い張ってきた」と述べ、「輸入は行う必要はない」「水田は私たちの祖先がつくった遺産」で「ぜひ水田を守るよう声を上げていただきたい」と語った。

 山田氏は農水大臣在任中に減反政策を中止し、農家への個別所得補償制度を設けたことで知られる。「減反政策をやめれば現在も1,250万tのコメは生産可能」「農家はどこの国でも厳しいので、個別所得補償を行っており日本でも行うべき」と訴えた。

 世界的な戦争や食糧危機に対する対応として、各国は食糧備蓄を行っている。中国は約14億人の人口を抱えるが、「1年半国民を飢えさせない食糧備蓄をしている」(山田氏)という。「日本は、わずかに1カ月分しか備蓄がない。大臣時代に300万tの食糧備蓄をやりたかったが実現させることができなかった」と述懐し、「今の日本は約800万tの備蓄が必要」と述べた。

 質疑応答も活発に行われ、「中山間農家としてどうあるべきか」「農薬のグリホサートの安全性に対する懸念」といった質問に対し、原竹氏と山田氏がそれぞれの立場から回答した。

 山田氏が語った日本の危機的状況に対し「一主婦の立場だが何とかしなければならない」と涙ながら訴える参加者もおり、1人ひとりがそれぞれの立場で何ができるかを深く考えさせられた講演であった(※山田氏のインタビュー内容は近く紹介予定)。

質疑応答に答える山田・原竹両氏
質疑応答に答える山田・原竹両氏

【近藤将勝】

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