(株)Global Ethics経営研究所
代表取締役社長 石塚隆正 氏
NetIB-NEWSでは、ニュースサイト「OTHER NEWS」に掲載されたDEVNET INTERNATIONALのニュースを紹介している。DEVNET(本部:日本)はECOSOC(国連経済社会理事会)認証カテゴリー1に位置付けられている(一社)。「OTHER NEWS」(本部:イタリア)は世界の有識者約1万4,000名に英語など10言語でニュースを配信している。今回は6月20日掲載の記事を紹介する。
中国製EVとAIバッテリーがもたらす
国家安全保障上の課題
EV(電動自動車)の時代が到来した。この機に瞬く間に世界を席巻したのが、中国製EVである。単に完成車の世界販売シェアの多寡をいうのではない!
SDV(Software Defined Vehicle)というリモートアクセス機能で走行する「ソフトウェア定義型自動車」の技術主権と国家安全保障について語りたいのだ。
EVの命は、いうまでもなく、電動モーターの駆動力の威力と、これを支え走行距離を伸ばすバッテリー(車載蓄電池)の威力だが、そのEV用バッテリーにAI(人工知能)技術を組み込んだ中国製バッテリーが、世界の自動車産業界を知らぬ間に、これまた席巻している。
発展途上国への影響と課題
この状況は、発展途上国にとってとくに深刻な問題を提起している。多くの発展途上国は、自動車産業の育成を経済発展の重要な柱として位置づけているが、中国製AIバッテリーへの依存は、これらの国々の産業自立を阻害し、長期的な経済発展戦略に重大な制約を課す可能性がある。
なぜ重大な国家安全保障上のリスクなのか! 簡単にいえば、走行データの機密性、制御システムの脆弱性、地政学的緊急時の供給リスクなどに絡む国家安全保障上の重大問題が内包されているということだ。
AI機能をバッテリーに組み込むということは、走行時のバッテリー・マネジメント・システム(BMS)とAIが一体化し、走行時のリアルタイム不良診断と自動修正、つまりリモート走行の最適化と、複数所有・複数同時運行車両全体の集中管理等々の高度な統御機能をAIバッテリーに任せているという仕組みだ。
つまり、BMSを通じて収集・送信されるシステムの内部状態を表わすデータ(Telemetry Data)がどこに集中されようと中国のデータ関連法制に支配され、データ主権の問題を引き起こすだけでなく、当然ながら、走行EVへのリモートアクセス機能の発揮により、非常事態にはサイバー攻撃や不正制御が実際にかつ容易に起こせるリスクが内包されているということだ。
発展途上国の経済自立への脅威
発展途上国にとって、この技術依存は経済自立の根幹を揺るがす問題である。自国の自動車産業を育成し、雇用創出と技術移転を通じた経済発展を目指す発展途上国が、核心技術を外国に依存することは、産業政策の自主性を失い、経済的従属関係を深化させるリスクを孕んでいる。
自動車産業は、引き続き世界経済を牽引する主要産業であるが、中国独自の国家政策・独自の法制の下でのEV領域で、中国製AIバッテリーを主要国の自動車業界が必要不可欠な部品として、短期的な競争力確保のために使わざるを得ず、結果として、国家間の独立性の維持を妨げる可能性が極めて大きいということが問題なのだ。
発展途上国支援の必要性
すると、単にEV完成車の販売競争にとどまらず、AIバッテリー・システムが、それを使わざるを得ない世界の自動車業界での中立的技術というのではなく、地政学的あるいは戦略的な国際リスクを内包した国家安全保障技術として、EV業界、就中、AIバッテリー技術を安全保障技術として捉え、世界各国の自律性を安定的に維持・強化するために、各国の技術基盤を強化し、同盟国間の足並みをそろえた安全保障重視の政策を推進することが真に重要となる。
とくに発展途上国に対しては、技術移転、人材育成、資金支援を通じて、自立的なEV産業基盤の構築を支援し、技術主権の確立を促進することが不可欠である。これにより、発展途上国が外部依存から脱却し、持続可能な経済発展を実現できる環境を整備する必要がある。
グローバルなインターネット網に対するサイバー攻撃と同様に、EVを走らせることが、真昼間から追い剥ぎにあい、命まで取られかねないリスクに鑑み、国際社会での意思疎通・詳細議論とグローバル(地球規模)での対応を、各国がそれぞれ、リスクを競争優位に変え、経済的繁栄に結び付けるかたちで強力に推進してもらいたいものである。
結論:包括的な発展途上国支援戦略の必要性
この課題への対応は、先進国の安全保障だけでなく、発展途上国の経済自立支援という観点からも極めて重要である。技術主権の確立と経済自立の実現を両立させる国際協力の枠組みを構築し、すべての国が持続可能で自律的な発展を遂げられる環境を整備することが求められる。