NetIB-Newsでは、日本ビジネスインテリジェンス協会理事長・中川十郎氏の「BIS論壇」を掲載している。
今回は8月1日の記事を紹介する。
恒例の米コロンビア大学ビジネススクール・日本経済経営研究所夏季講座が、7月28日に東京都内で開催された。今回は17回目の研究会で、国内外から100名以上が参加し、盛況だった。筆者は2002~03年度に、訪問学者・在外客員研究員として本研究所に留学した。
国際ビジネス、マーケティング、ビジネスインテリジェンスを研究。以来、毎年この夏季セミナーに参加し、当時の留学仲間と旧交を温めている。
本年の主題は『激動する世界経済における日本の役割』~「金融」「安全保障」「資本市場」~であり、活発な討論が行われ、得るところ大なるものがあった。
開会あいさつでデイビッド・ワインスタイン所長は、中国に対する日米連携の現状、および1990年代の世界2位の経済大国だった日本が自動車の自主規制などで対応。今回も25%の高関税が15%に削減されたことから、日米貿易の動向に注目することが肝要との見解を表明された。
基調講演は加藤勝信財務大臣兼金融担当大臣が行い、若い人のNISAへの投資が活発になっていることに言及し、2040年にむけてGDP1,000兆円を目指すと表明した。今後は日本の人口減少社会での対応が肝心と力説された。15%への日米関税合意については、JBICなどの政府金融機関も活用し、投資、融資にも注力するとの発言もあった。パネル討論では「日米およびグローバル資本市場の課題」「AI」「ブロックチェーン」「暗号資産」から読み解くデジタル経済の最前線と題し、今川拓郎・総務省審議官、松本大マネックスグループ会長、ユバル・ルーズDigital Asset最高経営責任者などの討論が有益であった。また小池百合子東京都知事からは今後、国連機関の東京都への誘致、ベンチャー企業誘致にも力を注ぎたいとの話があった。
筆者が興味をもった対談『国際貿易の将来』に関しては、メリット・ジェイノー コロンビア大学国際関係公共政策大学院名誉学院長、兵頭誠之住友商事会長、デイビッド・ワインスタイン・コロンビア大学ビジネススクール日本経済経営研究所所長などの熱のこもった討論が行われた。鉄鋼、アルミ、銅などへの50%の高関税が及ぼす影響。米国の中国からの輸入が2017年 24%、24年14%、25年1~5月においては10%に縮小しつつあり、中国は第三国経由の対米輸出に注力している実情も注意すべきである。対米貿易については中国、EU、メキシコ、カナダ、日本、韓国、ベトナムの動向に注目すべきこと。とくに中国、EU、カナダ、メキシコ、アジアの対米貿易動向を注目することが肝要との意見が大勢を占めた。WTO上級委員も務めたことのあるジェイノー教授は長期的な視点からのサプライチェーンの変容、政治経済的な観点からの考究、グローバリゼーションの変容について注目することが肝要と強調された。
なお、7月29日にIMFが発表した最新世界経済見通しでは25年の世界全体の成長は3.0%、米国1.9%、EU1.0%、中国4.8%、好調のインドは6.4%。これに対し日本は最低の0.7%でトランプの自動車高関税などで日本の25年の成長率のさらなる悪化が憂慮される次第だ。
<プロフィール>
中川十郎(なかがわ・ じゅうろう)
鹿児島ラサール高等学校卒。東京外国語大学イタリア学科・国際関係専修課程卒業後、ニチメン(現:双日)入社。海外駐在20年。業務本部米州部長補佐、米国ニチメン・ニューヨーク開発担当副社長、愛知学院大学商学部教授、東京経済大学経営学部教授、同大学院教授、国際貿易、ビジネスコミュニケーション論、グローバルマーケティング研究。2006年4月より日本大学国際関係学部講師(国際マーケティング論、国際経営論入門、経営学原論)、2007年4月より日本大学大学院グローバルビジネス研究科講師(競争と情報、テクノロジーインテリジェンス)。