東京・日本橋川の上を走る首都高速都心環状線。日本橋を覆うかたちでかかる約1.8km区間の高架橋を撤去して、地下化することが計画されている。東京駅からもほど近いこのエリアで、複数の大型再開発が進んでいる。首都高速の地下化にともなって、再開発エリアに隣接する日本橋川の川沿いを、歩ける空間として整備する予定だ。また、このエリアとの隣接地に、日本一高いビルの建設が進んでいる。2030年代にかけて複数の大型プロジェクトが次々に竣工する、都内でも注目のエリアだ。

「日本橋リバーウォーク」のイメージ
高度金融人材を育成
首都高速日本橋区間の高架橋は2040年ごろをメドに撤去を完了し、幅約100m・長さ約1,200mにわたる川沿いの景観と自然を楽しむことができる親水空間「日本橋リバーウォーク」を整備する計画となっている。
東京駅に近く、「日本橋リバーウォーク」の玄関口として位置付けられているのが、東京建物(株)と東京ガス不動産(株)が手がける「八重洲一丁目北地区」(呉服橋プロジェクト)だ。南街区と北街区に分かれており、南街区は基準階面積約860坪のオフィスを中心とする高層棟(高さ約218m、地上44階・地下2階建)を、北街区は首都高の地下化にともない整備される日本橋川沿いの水辺空間と、水辺空間に連続する低層の商業施設をそれぞれ配置する。24年12月に工事が着工され、南街区が29年に、北街区が32年に竣工する予定となっている。
南街区のオフィスビルの低層部に、高度金融人材を育成するサポート施設を配置するのが大きな特徴だ。これは、東京都による「国際金融都市・東京」構想の実現の一端を担うもの。外資系金融機関のオフィスが集まる大手町や、東京証券取引所がある兜町からも近い立地特性を生かした。国際的な高度金融人材の活動支援の場として機能するよう、商談やビジネス交流、懇親会などのアフターコンベンションといった、多様なビジネスシーンでの利用や滞在ができる施設整備を行う予定だ。
先行的な施設として、日本橋にある既存ビル内に5月に開設したのが、デジタル金融を担う人材を育成する会員制施設「FIAN(東京フィナンシャル庵)」。25席のシェアオフィスと4室の有料個室、最大70人収容のセミナールームを整備した。「他業態の大企業やベンチャー企業と連携しやすい」(東京建物の和泉晃副社長)という立地特性を生かし、会員間のコミュニケーションを重視している。
現在、金融業界の次世代リーダーの育成に取り組んでおり、オックスフォード大学と共同で開発したデジタル金融に関するプログラムを、会員となった金融機関の幹部候補が学んでいる。
FIANを開設するにあたって、東京建物が海外事例やヒアリング調査した結果、東京は欧米やアジアと比べて、高度な人材教育の機能が不足していることがわかった。東京都が進める国際金融都市を実現するため、不足している人材育成の機能をFIANが担うことになる。
「呉服橋プロジェクト」の南街区のオフィスビル竣工後は、高度金融人材のサポート施設の1つとして低層部にFIANも移転する予定だ。
日本一の高層ビル建設
日本橋川にかかる常盤橋。東京駅にも隣接する場所に、日本一となる358mの高さを誇る「Torch Tower(トーチ・タワー)」が建設中だ。「トーチ・タワー」を含む再開発エリア「TOKYO TORCH(トウキョウ・トーチ)」は、「呉服橋プロジェクト」の隣に位置している。敷地面積は約3万m2超であり、すでに21年に竣工した常盤橋タワーがある。開発を手がけているのは三菱地所(株)だ。
「トーチ・タワー」は23年9月に着工、25年6月には地下最深部に到達した。東京駅の地下通路やJR線の高架線路が隣接するなかで、10階建てマンションの高さに相当する深さ約33mの地下工事は、施工を担当する清水建設(株)が「麻布台ヒルズ」でも行った独自工法を採用。さらに、高さ日本一のビルを支えるため、新たに高耐久杭を開発して外周部に埋め込んでいる。竣工時期が当初予定の28年3月末から5月へと2カ月遅れることも、6月16日に公表した。
竣工時期のずれ込みが、約5,000億円とされている工事費へ影響を与えたかについて、三菱地所の上田寛TOKYO TORCH事業部部長は「当初契約した通り」だと話す。清水建設の竹原直規建設所長は、「工事の全体の進捗率は6%程度で、2カ月の遅れ以外は順調」とし、竣工時期のずれ込み以外の影響は今のところないとしている。
「トーチ・タワー」は、地上62階・地下4階建のビルに、基準階約2,000坪のオフィス、大規模商業施設と広場、都心展望施設、賃貸住宅、超高級ホテル、大型エンタメホールを整備する。日本一の高さを生かして、61階~屋上には都心展望施設を整備。東京の新たなシンボルとして、年間来場者は300万~400万人を見込んでいる。
半野外空間の「SKY HILL」から、ホテルロビーにつながる。ホテルは、アジア初進出となる5つ星ホテル「Dorchester Collection」を53~58階に誘致。世界のVIPを迎え入れることが可能なウルトララグジュアリーホテルで、「都心観光の核」としての役割を担う。

「SKY-HILL」(出所=三菱地所設計)
59~60階は大手町・丸の内・有楽町エリアとして初となるラグジュアリー賃貸住宅を整備する計画で、7~52階をオフィスとする。オフィステナントの就労者に向けて、3つのスカイロビーに共用空間を整備。就業者の生活を昼も夜もサポートするため、専用のカフェテリアやワーカーラウンジ、会議室、フィットネスなどの設備を充実させる。
地上6階~地下4階は大型商業施設と広場、エンタメホールなどを整備する。野外空間として街区全体で約2haにおよぶ野外広場を整備し、居心地の良い空間や各種イベントに使い勝手が良い空間とする。1~6階部分へは、広場から建物の外周を歩いて登れる「空中散歩道」を設ける予定だ。
3~6階部分には、都心型MICEおよび文化発信拠点となる約2,000席の大規模ホールを整備する。大型商業施設は、丸ビルや新丸ビルと同等規模となる約4,500坪・100店舗で、飲食店のほか、エンタメを中心とした店舗や温浴施設を計画している。
「トウキョウ・トーチ」の全体コンセプトとして、「未来を想うまちづくり」を掲げている。広場などにおいて日本全国の地方自治体と連携した名産品の紹介やイベントなどの情報発信を実施。特定の地域と継続的に多様なかたちで関わる「関係人口」の増加を通じて、都市と地方の交流を促すことを狙っている。
5つの再開発で初竣工
「日本橋リバーウォーク」は、5つの再開発事業が関与している。この5つの再開発事業は、「呉服橋プロジェクト」(参画デベロッパー:東京建物、東京ガス不動産)、「日本橋室町一丁目地区第一種市街地再開発事業」(同:三井不動産(株))、「日本橋一丁目東地区第一種市街地再開発事業」(同:三井不動産、東急不動産(株)、日鉄興和不動産(株))、「日本橋一丁目1・2番地区第一種市街地再開発事業」(同:三井不動産)、「日本橋一丁目中地区第一種市街地再開発事業」(同:三井不動産、野村不動産(株))。なお、「トウキョウ・トーチ」は含まれない。
5つの再開発事業は26~38年度に順次竣工し、最も早く竣工するのが26年竣工予定の「日本橋一丁目中地区」で、5つの再開発事業のリーディングプロジェクトという位置付けだ。このプロジェクトは街の象徴である「日本橋」に隣接しており、日本橋エリアの新たなランドマークとなることが期待されている。また、このエリアは野村不動産の発祥の地でもある。
「日本橋一丁目中地区」は、A~Cの3街区で構成。メインタワー(地上52階・地下5階建、高さ約284m)が位置するC街区は、オフィス・ホテル・居住施設・商業施設・MICE・ビジネス支援施設の6つの用途により構成された大規模ミクストユース施設となる。
オフィスは、低層部(10~20階、基準階面積約1,900坪)と高層部(22~38階、基準階面積約1,300坪)で構成。ホテルは、ヒルトンが運営する最上級ラグジュアリーブランド「ウォルドーフ・アストリア東京日本橋」(客室数全197室)が26年に開業予定だ。48~51階には、国内外のビジネスパーソンの中長期的な滞在にも対応し、コンシェルジュサービスも備えた約100戸の居住施設を予定している。5~8階には、MICE施設として国際会議などのビジネスイベントやアフターコンベンションに対応する合計約3,000人の2つの大型ホールと、会議室、ビジネス交流機能を設ける。地下1階は、地下歩道を通じて東京メトロ銀座線・東西線「日本橋」駅に直結。さらに、将来的には周辺街区の開発にともない、東京駅日本橋口より日本橋駅まで地下通路が整備される予定だ。
日本橋一丁目中地区
A街区:1930年に竣工し、野村證券(株)の本社だった「日本橋野村ビル旧館」は、貴重な近代建築物として中央区指定有形文化財に指定されている。日本橋野村ビル旧館の風格ある外観を保存活用する
B街区:中央区指定有形文化財であるA街区との一体感ある景観を醸成し、日本橋川の水辺空間にふさわしい街並み形成を行う。7階建の建物はC街区と地上3階レベルでデッキ接続しており、日本橋川沿いの賑わいにつながる商業施設の整備と、多様なライフスタイルに対応可能な約50戸の住宅の整備を予定している
情報発信拠点も
5つの再開発に関連するデベロッパーは、首都高速道路とともにまちづくりのプレゼンテーション拠点「VISTA」を開設した。「VISTA」に参画しているのは、首都高速道路(株)、東京建物、東急不動産、三井不動産。映像や模型、展示物などを使って、「日本橋リバーウォーク」が目指す未来や特徴をアピールする。
エリアのまちづくりを進める「(一社)日本橋リバーウォークエリアマネジメント」が25年春に設立された。このエリアが“水都”としての東京の新しい顔になるよう、さまざまな取り組みを今後、「VISTA」と連携して情報発信をしていくとしている。複数の再開発プロジェクトが、共同で情報発信を行う例は珍しい。
日本橋に本社を置く三井不動産は、5つの再開発のうち4つに関わっている。同社は「日本橋再生計画」第3ステージとして、これらの再開発や情報発信に取り組んでいる。
<プロフィール>
桑島良紀(くわじま・よしのり)
1967年生まれ。早稲田大学卒業後、大和証券入社。退職後、コンビニエンスストア専門紙記者、転職情報誌「type」編集部を経て、約25年間、住宅・不動産の専門紙に勤務。戸建住宅専門紙「住宅産業新聞」編集長、「住宅新報」執行役員編集長を歴任し2024年に退職。明海大学不動産学研究科博士課程に在籍中、工学修士(東京大学)。

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