日鉄興和、JR九州らの虎ノ門再開発「虎ノ門アルセアタワー」オフィスは9割内定

 東京都心部のオフィス需要は、コロナ禍後のオフィス回帰需要をつかんで底堅いものがある。日鉄興和不動産(株)らは、東京・虎ノ門の再開発ビル「虎ノ門アルセアタワー」(地上38階・地下2階建、高さ約180m)をこのほど公開した。基準階面積約1,000坪・天井高2,900mmで、上下階を内階段でつなぐことを可能にした設計で、「分散したオフィスをワンフロアに集約する移転ニーズ」(日鉄興和不動産都市事業本部ビル事業第三部の佐藤博之氏)をつかみ、約9割(6月30日時点)のリーシング契約が内定済みだ。

虎ノ門病院と隣接する虎ノ門アルセアタワー
虎ノ門病院と隣接する虎ノ門アルセアタワー

病院などと一体開発

 「虎ノ門アルセアタワー」は、旧国立印刷局、虎ノ門病院、共同通信会館を一体的・段階的に開発する「虎ノ門二丁目地区第一種市街地再開発事業」のオフィス棟で、2025年2月に竣工した。「国内有数の医療機関である虎ノ門病院の機能を停止することなく更新することは、再開発事業として大きなポイントだった」(佐藤氏)という。

 19年に虎ノ門病院が完成し、25年に虎ノ門アルセアタワーが完成。現在は、共同通信会館の解体が行われており、再開発事業全体の完了は30年度を予定している。併せて、虎ノ門ヒルズから「虎ノ門二丁目地区第一種市街地再開発事業」を通り、赤坂1丁目の「赤坂インターシティAIR」にかけて歩いていける緑道の整備なども森ビル(株)などと協議して進めている。

 「虎ノ門二丁目地区第一種市街地再開発事業」の特徴は、①国際競争力を強化する取り組み、②大規模病院の機能更新と良好な都市基盤整備、③防災力の強化―の3つ。具体的には、虎ノ門病院との連携による国際水準の医療サービスの提供や、都内でも最高レベルの災害時の治療・収容拠点の整備、周辺地域をつなぐ歩行者ネットワークの整備などを掲げている。

 「虎ノ門アルセアタワー」は、隣接する「虎ノ門ヒルズ ステーションタワー」を通り、歩行者デッキを通じて東京メトロ日比谷線「虎ノ門ヒルズ」駅と接続。旧虎ノ門病院跡地に建設した。オフィスは5~38階に配置し、延床面積11万800m2と虎ノ門エリア最大規模となっている。3階にシェアオフィス、コンファレンス、フィットネス、2階にバイリンガル対応のコンシェルジュ、1階に予約制のバイクステーションを配置し、外国人ビジネスマンなどに対応できる国際ビジネスサービスセンターとした。1・2階には、マルシェや店舗などの商業施設も配置する。

約1,000㎡のオフィスフロア。上下階をつなぐ内階段を簡単に設置できる部分が2カ所用意されている。ほとんどのテナントがワンフロアすべてを使っているという
約1,000㎡のオフィスフロア。上下階をつなぐ内階段を簡単に設置できる部分が2カ所用意されている。ほとんどのテナントがワンフロアすべてを使っているという

医療と地域防災拠点に

 今回の再開発の特徴である医療体制・防災体制の構築と歩行者ネットワークの整備のうち、「虎ノ門アルセアタワー」は医療体制・防災体制の構築を担う。具体的には、隣接する虎ノ門病院と連携して、屋上に設けたヘリポートで災害時には傷病者を受け入れる。そのほか、低層のエントランスホールやコンファレンス施設などを使って約2,500m2の空間を確保することで、約1,500人の軽傷者を受け入れる。地域の防災体制を強化する使命をもったビルという特徴がある。

 オフィスは隣接する「虎ノ門ヒルズ ステーションタワー」と同規模の基準階面積約1,000坪で、この広さのオフィスは虎ノ門エリアにおいては希少であるため、外資系企業などの引き合いも多いという。オフィスを集約することで「従業員のエンゲージメント(企業への愛着・貢献意識)やコミュニケーションを活性化する要望が強い」(佐藤氏)ため、年内の満床を見込んでいる。ホンダの本社も青山本社ビル建替えにともない、「虎ノ門アルセアタワー」に入居している。

 そのほか、3階に入居する会員制シェアオフィス「WAW虎ノ門アルセアタワー」は、1~5人用を中心に最大約20人まで対応可能な個室とオープンエリアを併設した施設。Web会議ブースの一時利用も可能となっており、スタートアップ企業だけでなく、大企業のプロジェクト別のオフィスや分室としての利用もできる。

 「虎ノ門アルセアタワー コンファレンス」は、多様なビジネスイベントに適した大小7室の機能的な貸し会議室で、8~84人の収容が可能。また、7月オープンのフィットネス施設「モビリティケアプラス虎ノ門ジム」は、ワークライフバランスを支えていく施設という位置付けで、トレーニングジムに加え、身体の可動域をケアするモビリティケアの手法を採用している。この施設は地域にも開放し、地域住民の健康支援を行う。

 2階の「アルセサロン」には、テナント専用のバイリンガル対応コンシェルジュが常駐。外国人ワーカーに対して、生活情報や来客対応、タクシーの手配などの幅広いサービスを提供する。また、サロン内のスペースは、地域の人が利用することも可能だ。

2階の「アルセサロン」には、テナント向けのコンシェルジュサービスのほか、地域にも開放するラウンジスペースも用意
2階の「アルセサロン」には、テナント向けのコンシェルジュサービスのほか、地域にも開放するラウンジスペースも用意

JR九州なども参画

 「虎ノ門二丁目地区第一種市街地再開発事業」の施行体制は、病院の施行者である国家公務員共済組合連合会、代表施行者である(独)都市再生機構、オフィス棟の設計・施工や保留床の取得などを行う民間企業で構成される特定業務代行者で構成。参画する民間企業は、日鉄興和不動産、第一生命保険(株)、JR九州(九州旅客鉄道(株))、大成建設(株)、T2特定目的会社で、5者共同で今回の再開発事業を行っている。


<プロフィール>
桑島良紀
(くわじま・よしのり)
1967年生まれ。早稲田大学卒業後、大和証券入社。退職後、コンビニエンスストア専門紙記者、転職情報誌「type」編集部を経て、約25年間、住宅・不動産の専門紙に勤務。戸建住宅専門紙「住宅産業新聞」編集長、「住宅新報」執行役員編集長を歴任し2024年に退職。明海大学不動産学研究科博士課程に在籍中、工学修士(東京大学)。

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