自然災害リスクと同居する日本人(前)
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拓殖大学 地方政治行政研究所 客員教授 濱口 和久
地震予測と防災行動の乖離
東京大学地震研究所の試算に基づき、平成24(2012)年1月にメディアが報じた「首都直下型の地震の発生確率は4年以内に70パーセント」との予測を知った人のうち、具体的な対策として講じたもので、最も高かった項目は「防災について家族で話し合った」の10.5パーセントで、次いで「備蓄の状況を調べた」が9.2パーセント、「家具を固定した」は5.9パーセント、「家の耐震性を調べた」は4パーセントにとどまったことが、慶応大学などの研究チームの調査でわかった。
研究チームは、この結果を受けて、「情報への信頼」を約7割が示したにもかかわらず、実際の防災行動に結びついていないとしている(産経新聞平成27年10月26日付)。このことは人間が経験のないことには鈍感である(考えたくない)ことを物語っている。
災害がひとたび起これば、経験したことのないことが連続で起きる可能性が高い。東京都は今年9月1日から、都民の防災意識を高めるため、『東京防災』というハンドブックを都内全戸に無料で配布した。スイス政府版『民間防衛』のハンドブックを参考にして制作された『東京防災』は、対テロ対策や国民保護の領域にまで言及した内容となっている。本来は日本政府が国民に配布するべきものであるが、東京都が最初に都民に配布したことで、次は日本政府版『国民防災』の配布を期待したい。日本人に身近な地震・火山・土砂災害
一般的に、戦争や紛争は、人種、民族、国家間同士の対立から起こるものであり、人間に理性が働けば、回避することは可能である。それに対して、自然が引き起こす災害には、人間は無力でしかない。地球物理学者の寺田寅彦氏は「災害(天災)は忘れたころにやってくる」という言葉を残したが、私たちが暮らす日本列島に限っては、近年の自然災害の発生頻度を見ると、「災害は忘れる前にやってくる」時代に突入しているということを日本人一人ひとりが認識しなければならない。
実際、日本列島では身体に感じない地震を合わせると、1日に300回の地震が起きている。また、世界各地で起きている地震の約10パーセント、マグニチュード6クラスの地震の約4分の1が、日本列島に集中している。日本列島には110の活火山が存在する。これは世界にある火山の総数1,500の約7パーセントにあたる。数字だけでは実感がわかないが、日本の陸地面積(38万平方キロメートル)は世界の0.1パーセントしかない。「火山密度」という統計があれば、日本の「火山密度」はズバ抜けて高い数字になる。火山は私たちに美しい景観や温泉などの自然の恵みを与えてくれる一方、常に噴火という危険と隣り合わせなのだ。
さらに言えば、日本列島には、「土砂災害警戒区域」が20万カ所を超え、都道府県が選んだ「土砂災害危険箇所」も52万5,307カ所もある。私たちは常に土砂災害の危険性とも隣り合わせで暮らしているということを知っておくべきだ。
(つづく)
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