トリビュートの不動産再生(11) 事業用不動産と外国人

外国人の住居取得
参院選でも規制論点に

    7月の参院選では、住宅価格の高騰は「外国人の投資目的の購入が一因」として、外国人の不動産購入規制が争点の1つになった。首都圏で供給される新築分譲マンションの何割かは外国人投資家が取得しているとの指摘もあり、国交省は5月に登記情報の住所から、購入者が外国人かどうかを把握していくことを発表していた。東京都内のマンションを中心に、過去数年分を調査し、外国人購入者の割合や増減の傾向などを分析するという。自国民以外の不動産購入を制限する政策として、シンガポールでは住宅の購入には不動産価格の60%が課税されるほか、カナダでは住宅購入が禁止となっている。これら諸外国の事例を参考に、規制を検討していくと見られる。

 このように、規制対象は住宅がメインと見られるが、賃貸マンションやオフィスビル、ホテルなどの事業用不動産でも、外国人投資家の存在感が高まっている。事業用不動産のプレイヤーは主にファンドを含む法人であり、「外国人」として規制することは現実的に難しいだろう。

住居と異なる事業用
外資の商慣習と選好

 福岡や東京などで外資系不動産会社との取引実績がある(株)トリビュート(福岡市中央区)の田中稔眞社長に、外国人の不動産購入規制について話を聞いた。

 ──外国資本の企業との取引に、変化はありますか。

 田中 CBREが発表したレポートによれば、2025年第2四半期は海外投資家の取得額が2.4倍(前年同期比)になったといいます。当社は外資との取引が主力ではありませんが、当社が取り扱う物件への外国人からの問い合わせ、内覧数も、かなり増加してきました。当社が取引しているのは、外資の日本法人で、香港やシンガポール、マカオの方々です。商慣習は異なる部分もありますが、法律を守るという点においては、日本人より高い意識をもっているように思います。

 ──たとえば、どのようなところでしょう。

 田中 日本の不動産取引において、「買付証明書(購入申込書)」「売渡承諾書」はそれなりに意味のある書面として使われますが、彼らにとってはほとんど意味がありません。契約前であれば、当然のように交渉が続きます。また、立地に関して非常にシビアな目線をもっているのが特徴です。福岡市でいえば、天神・博多から1駅より、天神駅・博多駅から徒歩圏内を好みます。また、ランドマーク的な物件に強い関心を示しますが、都心部から離れると、いかにスペックが高くともほとんど興味を示しません。

 ──外国人の不動産購入規制については、どのように考えていますか。

 田中 基本的に、強い規制はかけるべきではないと考えていますが、とくに東京都心部の分譲マンションは、外国人投資家が価格高騰を牽引している面もあるでしょう。たしかに、一般的な日本人には手の届かない価格帯になっているのも事実です。また、懸念されているように、税金の不払いや分譲マンションの管理不全リスクも、日本人に比べれば大きいと見られます。住宅価格や家賃の高騰を防ぐためにも、外国人の住宅取得に規制をかけるというのは、選択肢として検討する意義があるとも思います。シンガポールのように課税することで、実質的に転売できないように規制するほか、カナダのように空室税を導入する議論もありますが、一定の効果がありそうに思います。

【永上隼人】

入居者としても存在感

    トリビュートは6月に、東京都板橋区の新築賃貸マンションを取得した。同物件の入居者は9割が外国人だという。

 トリビュートのグループ会社・(株)TRホールディングスの専務取締役・永田誠氏は、「約20m2の1ルーム、全14戸の賃貸マンションですが、竣工直後に満室となりました。最寄り駅まで徒歩6分、外国人に人気の池袋にもアクセスしやすい立地で、賃料も管理費込み9~10万円と決して安くはありません。坪単価でいえば1万5,000円にもなります」と話す。

 新築とはいえ、約20m2で10万円。給与水準が上がったとはいえ、日本人の新社会人には手を出しにくい価格帯だ。東京という立地もあるが、こういった単身向け賃貸マンションの需要の中心でも、外国人は存在感を示している。

<COMPANY INFORMATION>
代 表:田中稔眞
所在地:福岡市中央区渡辺通1-1-1
    サンセルコビル6F
設 立:2009年4月
資本金:1,600万円
TEL:092-292-2313
FAX:092-292-2314

< 前の記事
(10)

月刊まちづくりに記事を書きませんか?

福岡のまちに関すること、建設・不動産業界に関すること、再開発に関することなどをテーマにオリジナル記事を執筆いただける方を募集しております。

記事の内容は、インタビュー、エリア紹介、業界の課題、統計情報の分析などです。詳しくは掲載実績をご参照ください。

記事の企画から取材、写真撮影、執筆までできる方を募集しております。また、こちらから内容をオーダーすることもございます。報酬は別途ご相談。
現在、業界に身を置いている方や趣味で建築、土木、設計、再開発に興味がある方なども大歓迎です。
また、業界経験のある方や研究者の方であれば、例えば下記のような記事企画も募集しております。
・よりよい建物をつくるために不要な法令
・まちの景観を美しくするために必要な規制
・芸術と都市開発の歴史
・日本の土木工事の歴史(連載企画)

ご応募いただける場合は、こちらまで。不明点ございましたらお気軽にお問い合わせください。
(返信にお時間いただく可能性がございます)

関連記事