日本を代表するサイエンスパーク構築 三井不、半導体産業にかける

三井不動産の山下和則常務執行役員(左)と名古屋大学の天野浩教授(右)
三井不動産の山下和則常務執行役員(左)と名古屋大学の天野浩教授(右)

 三井不動産(株)(東証プライム)が、東京や九州で半導体産業を軸としたまちづくりに注力している。ノーベル賞受賞者の天野浩・名古屋大教授を理事長に据え、会員制の半導体産業支援コミュニティ「(一社)RISE-A(ライズ・エー)」を立ち上げた。三井不動産はTSMCの工場がある熊本県菊陽町で、「RISE-Aでのニーズなどをまちづくりに投入し、日本を代表するサイエンスパークを形成できるのはないか」(山下和則・三井不動産常務執行役員)とし、半導体を主体とした「サイエンスパーク構想」を具体化する意向を示した。

水平分業進める場に

 国内での半導体産業の活性化の流れを背景に、多様なプレイヤーが交わる“共創の場”の形成が重要なテーマとなっている。半導体の産業構造は、さまざまな企業が設計、前工程、後工程に対応する水平分業型が特徴。電気自動車や再生可能エネルギーの効率化に不可欠で、電力を効率的に制御・変換する「パワー半導体」の開発などのために、さまざまな企業などが参加できる会員制の組織としてRISE-Aを設立した。

 RISE-Aは、異業種参入などの半導体のユーザー、新技術・新素材開発やスタートアップなどの半導体供給者、研究機関やベンチャーキャピタル、政府・自治体などによる新たな技術発掘や支援体制の充実といった、半導体とあらゆる産業をつなぐバリューチェーンとして機能することを目指す。会員は年100件の入会を目指すとしている。

 三井不動産(株)は、半導体産業のイノベーションを推進するエコシステムを構築。そのための交流する「場」と「機会」を提供する。このアプローチは、三井不動産がこれまでライフサイエンスや宇宙産業分野に対して行ってきた、産業支援の取り組みを反映した。

10月、日本橋に拠点開設

「RISE GATE NIHONBASHI」が入居する東京・日本橋のスルガビル
「RISE GATE NIHONBASHI」が入居する
東京・日本橋のスルガビル

 「場」の提供については、RISE-Aの活動拠点として、10月に東京・日本橋の「スルガビル」7階に「RISE GATE NIHONBASHI」を開設する。234m2のラウンジを始め、4つのカンファレンスルーム、サービスオフィス区画、会員やオフィス入居者用の会議室を備える。RISE-Aでは、会員企業に対する土地・工場などの不動産の提供、サプライチェーン構築時のサポートを含めた包括的な産業支援を行っていく。

 「機会」の提供については、会員が企画するイベント・情報発信への支援のほか、RISE-Aが企画するイベントや情報発信などで、ネットワーキングの機会を提供する予定だ。RISE-Aの設立時に、ベルギーに本拠地を置く世界有数の研究・イノベーション拠点「imec」、台湾最大の産業技術研究・開発機関「工業技術研究院(ITRI)」、半導体領域を中心に技術資産の提供などを行う「AIST Solutions」「OpenSUSI」と産業促進の活動に関する連携協定を締結。これら海外の連携パートナーがもつネットワーク・ノウハウを活用して、新たなイベント・プログラムの企画立案や会員企業へのアドバイス、ネットワーク形成などに活用していく。

 東京の賃貸ラボ・オフィス事業においても、スタートアップ企業の半導体ニーズも支援する。4月には、ライフサイエンス領域に加え、半導体を含むより多様な領域の研究開発ニーズをサポートする賃貸ラボ・オフィス「(仮称)三井リンクラボ東陽町1」を着工。工業専用地域の特性を生かして、大型機器の搬入・設置や、大容量の電気供給や効率的なダクトルートの確保に対応することにより、半導体領域などさまざまな事業領域の研究開発ニーズを包括的に支援する予定だ。

10月に開設する「RISE GATE NIHONBASHI」のラウンジイメージ(提供=三井不動産)
10月に開設する「RISE GATE NIHONBASHI」の
ラウンジイメージ(提供=三井不動産)

菊陽町で先進まちづくり

 三井不動産は、熊本でのサイエンスパーク構築に向け、産官学で連携して具体化に取り組んでいる。2024年7月には、日本での半導体クラスターを核としたサイエンスパーク構築に関して、台湾のアカデミア、研究機関それぞれと連携協定を締結。加えて、九州旅客鉄道(株)(東証プライム/以下、JR九州)とともに同年11月22日、菊陽町が募集する「(仮称)原水駅周辺土地区画整理事業に係る将来ビジョン具体化検討業務」の受託候補者として特定された。代表企業である三井不動産は、菊陽町による半導体集積地としてふさわしい先進的なまちづくりの将来像を描いた「将来ビジョン」の具体化を後押しする。

 JR九州は、モビリティサービスを軸にしたまちづくりの強みを生かして、JR豊肥本線三里木駅と原水駅間の新駅設置や、熊本空港アクセス鉄道に関して、熊本県と連携しながら検討を進めているという。なお、三井不動産は20年から「阿蘇くまもと空港」の運営に携わっている。

2024年11月に菊陽町で行われた「将来ビジョン具体化に向けた事業検討パートナー協定」締結式の様子(提供=三井不動産)
2024年11月に菊陽町で行われた
「将来ビジョン具体化に向けた事業検討パートナー協定」締結式の様子
(提供=三井不動産)

 サイエンスパーク構想は、まちづくりの側面をもつ。三井不動産は、九州大学都市研究センターおよび菊陽町と、スポーツによるウェルビーイングなまちづくりに関する包括連携協定を締結している。菊陽町は、半導体企業の集積にともなう今後の経済発展や人口増加に対応するため、JR豊肥本線の新駅設置や駅を中心とした市街地の整備に加え、地域住民の健康づくりを見据えたアーバンスポーツ施設の整備を推進していくとしている。

 今回の取り組みは、大都市と地方、海外を結びつけるハブ(結節点)となるべく、東京と九州を舞台にした不動産業の新たな挑戦といえる。


<プロフィール>
桑島良紀
(くわじま・よしのり)
1967年生まれ。早稲田大学卒業後、大和証券入社。退職後、コンビニエンスストア専門紙記者、転職情報誌「type」編集部を経て、約25年間、住宅・不動産の専門紙に勤務。戸建住宅専門紙「住宅産業新聞」編集長、「住宅新報」執行役員編集長を歴任し2024年に退職。明海大学不動産学研究科博士課程に在籍中、工学修士(東京大学)。

月刊まちづくりに記事を書きませんか?

福岡のまちに関すること、建設・不動産業界に関すること、再開発に関することなどをテーマにオリジナル記事を執筆いただける方を募集しております。

記事の内容は、インタビュー、エリア紹介、業界の課題、統計情報の分析などです。詳しくは掲載実績をご参照ください。

記事の企画から取材、写真撮影、執筆までできる方を募集しております。また、こちらから内容をオーダーすることもございます。報酬は別途ご相談。
現在、業界に身を置いている方や趣味で建築、土木、設計、再開発に興味がある方なども大歓迎です。
また、業界経験のある方や研究者の方であれば、例えば下記のような記事企画も募集しております。
・よりよい建物をつくるために不要な法令
・まちの景観を美しくするために必要な規制
・芸術と都市開発の歴史
・日本の土木工事の歴史(連載企画)

ご応募いただける場合は、こちらまで。不明点ございましたらお気軽にお問い合わせください。
(返信にお時間いただく可能性がございます)

関連記事