【川口市外国人問題視察レポート】外国人共生の先進地・埼玉県川口市を歩いて 懸念される排外主義の問題を考える
7月の参院選では「日本人ファースト」を掲げた参政党が躍進するなど、外国人政策がクローズアップされた。近年埼玉県川口市においてトルコ国籍のクルド人をめぐり、住民との摩擦やヘイトスピーチの問題が取り沙汰されている。SNSでは過激で差別的な情報もあふれており、社会の分断も懸念されている。現地取材を通じて外国人共生を考える。
韓流ブームを通じ深化した
新大久保エリア
福岡市においても在留外国人の数は増加をたどっているが、福岡市の在留外国人は約5万5,000人(2025年4月時点)で、アジア系を中心にさまざまな国・地域の言語、文化に触れる機会が増えている。世界・地域のグローバル化が進むなか、不可欠である外国人との共生を考えるうえで現地の反応を直に見たいと考え、8月23日から上京し、川口市と隣の蕨市、そして在留外国人の多い東京・新宿区新大久保を訪ねた。
記者は23日午前の便で成田空港に到着した。同空港は国際空港であるため、さまざまな国籍の人々が往来している。京成電鉄のスカイライナーで山手線との乗換駅である日暮里駅まで約36分で到着し、山手線で新大久保のある新宿まで移動した。この日は、土曜日ということもあり、歌舞伎町、新大久保のエリアも多くの人であふれていたが、若い世代やインバウンドの外国人が目立った。女性の売春行為で問題となっている大久保公園を抜けると、新大久保である。新大久保は日本屈指のコリアンタウンとして知られるが、いたるところにハングル文字の看板を掲げた店舗がある。
新大久保がコリアンタウンと呼ばれるようになったのは2002年の日韓ワールドカップで翌年韓流ドラマブームのきっかけとなった「冬のソナタ」が大ヒットしたことで、多くの日本人が訪れるようになった。歌舞伎町と新大久保を隔てる職安通りに面したカフェに入ると客層はほとんどが日本人の若い女性で、周辺の店で焼き肉を食べた後に休憩に入る人が多い。K-POPアイドルのグッズを販売するショップも多いこともあり、「推し活」の聖地といえるエリアでもある。
冷静な議論が展開された
外国人問題シンポジウム

新大久保は新宿エリアという場所柄、ビジネスや観光地の要素も強く、福岡でいえば天神に近いといってよい。やはり、日常生活のなかで外国人とともに暮らしていく現実を考える必要がある。川口市に以前住んでいた同僚からどのあたりを取材すべきかアドバイスを受け、翌24日、川口市を訪ねた。
同市は新宿から埼京線に乗り、東京最北の赤羽駅から京浜東北線に乗り換えて約30分である。この日は川口駅近くで「川口の外国人問題の核心を語る」と題してシンポジウムが行われていた。地元の川口市民オンブズマンの主催で行われたシンポジウムには約100人の市民が集まった。(一社)日本クルド友好協会の木下顕伸氏や川口市議会議員・碇康雄氏、言論誌「維新と興亜」の編集長で川口市民でもある坪内隆彦氏らが、クルド人をめぐる問題やデマが飛び交う状況、日本の保守は本来排外主義ではないことなど約2時間にわたり議論が交わされた。今回のシンポは保守系とリベラル系が同席し議論しあう全国でも珍しい取り組みであった(近日、Net-IB NEWSに掲載)。
日本クルド友好協会の木下氏は、外国人犯罪対策や国の縦割り行政の見直しなどを提案した。そのうえで労働力の問題について若い世代がいわゆる3kと呼ばれる労働に従事しない現状を踏まえ、未就労の若者の就労を進める必要性も語った。
「維新と興亜」編集長・坪内氏は、日本が第一次世界大戦後、人種平等決議案を提案したことや戦前に黒人やユダヤ人に対する差別と闘った日本人の存在を紹介し、「一部のことを民族全体のことと語るのはおかしいのではないか」と排外主義的な保守派の主張に懸念を示した。坪内氏は元日本経済新聞の記者で、マレーシアのマハティール元首相の取材を行ったことから、日本の自立や民族精神を考えるようになったという。
会場からもさまざまな意見が出されたが、いずれも冷静な意見や質問で、ヘイトスピーチが飛び交う場面はなかった。会場には、川口在住のクルド人も参加しており、後日インタビューを行うことを快諾いただいた。
全国的に注目される
団地の取り組み
24、26日両日、在留クルド人が多いことから「ワラビスタン」とも呼ばれる川口・蕨両市を、駅前を中心に商店街や住宅地を歩いたが、SNSで盛んにいわれるコンビニ前でたむろする光景などは見られなかった。
川口市では、就労できない仮放免者や就労不可の特定活動のクルド人が解体業を中心に約数百人とみられるが不法就労している実態がある。23年以降、来日してすぐ難民申請をするクルド人(トルコ国籍)が一挙に増えたという。しかし、クルド人による駅前のパトロールや地域の交流など互いに融和していく動きも活発に行われている。
蕨駅至近の「芝園団地」は中国人を中心に多くの外国人が住んでおり、中国語の看板の店舗もあった。団地内を歩くと日本語と中国語が聞こえてくる。自治会による共生の取り組みが全国的にも注目されている。
川口や蕨について「若い女性の夜道の1人歩きは危ない」など風評が広がっているが、日本人にも犯罪行為や問題行為を行う人間がいるように、坪内氏も指摘していたが、一部の行動だけで全体がそうであるかのように判断するのは間違いである。
報道された川口市の県警武南署で県議らの車をクルド人が取り囲んで怒声を浴びせたという騒ぎなども、お互いのコミュニケーションが不足している面がある。自身が外国人から直接、何らかの被害を受けた経験はない人が、SNSの情報だけで外国人嫌悪を強めるのは、お互いに不幸なことだ。今回の取材でも感じたのは、現地に足を運び話をするところから始まるように思う。
一方、政府は、外国人受け入れ政策の見直しに動き出している。外国人の急激な増加で排斥論が高まり、社会が分断されることを危惧するからであるが、人権の観点も重要で、日本の信用を国際社会で落とすことがないよう政策の見直しは慎重に考える必要がある。
【近藤将勝】