【川口市外国人問題視察レポート】異国の地で暮らすクルド人の真実を多くの日本人に伝えたい
(一社)日本クルド文化協会
事務局長 ワッカス・チョーラク 氏
クルド人は、「国をもたない最大の民族」と呼ばれ、諸外国の思惑に翻弄されてきた。日本にはおよそ2,500人が暮らすが、昨今のヘイトスピーチによる差別や偏見により、必ずしもその真実の姿は伝えられていない。異郷の地・日本でクルドの同胞のために奮闘する日本クルド文化協会事務局長のワッカス・チョーラク氏に話をうかがった。
日本との出会いは
クルド人の映画監督

事務局長 ワッカス・チョーラク 氏
──川口市はクルドの方々が多く住まれていますが、ワッカスさんの来日のきっかけは。
ワッカス・チョーラク氏(以下、ワッカス) トルコ南部の生まれで、マレーシア留学を経て2009年に親戚がいる東京に来ました。リーダーシップで国を発展させた当時のマハティール首相の成功を見て、これからのモデルになるのではないかと考えて、マレーシアの大学院に留学しました。初めての外国生活でしたが、アジアの成長を感じました。しかし私たちクルド人はトルコをはじめイラク・シリア・イランにまたがって暮らしていますが、国をもっていません。
日本に興味をもったのは、イラクのクルド人映画監督であるシャウキャット・アミンさんとの出会いでした。映画のPRで日本を訪れており、私は09年に日本に移り住みました。来日後「日本クルド友好協会」で通訳の仕事を行い、日本の皆さんにクルドについて伝える活動をしてきました。
日本には約2,500人のクルド人がいますが、約2,000人が川口市に住んでいます。日本にあるトルコ料理のレストランはクルド人が経営しているものが多いです。そこで私も17年にクルドの文化を伝え、クルドの料理を日本の皆さんに食べていただくお店を東京都内につくりました。クルドのことをもっと多くの日本人に知ってもらいたいと思います。
川口や蕨で住民と
パトロール活動
──飲食店経営以外の活動はどのようなものでしょうか。
ワッカス 東京外国語大学の市民向け講座でクルド語を教えるほか、メディアや官公庁、NGOなど幅広い場でクルドのことを伝える仕事もしています。13年に日本国内のクルド人コミュニティを代表する団体である「日本クルド文化協会」の結成に携わり、現在事務局長をしています。
──協会の活動はどのようなものですか。
ワッカス 日本に暮らすクルド人が自らの文化的価値を保ち、それを次世代に伝えることや、多文化共生を進めることを掲げています。クルド文化に関するイベントや講演会などを開催し、日本の皆さんにクルド文化を伝えることなどに取り組んでいます。また協会のメンバーで、川口駅や蕨駅周辺で警察や住民の方々と協力して安全パトロールも行っています。
SNSや一部政治家による
外国人優遇はデマ
──今、SNSなどで差別的なデマといってよい情報が流布されています。当事者としてそのことをどのように受け止めていますか。
ワッカス まず「何人、どこ人」といわれますが、私たちは人種差別というものが許せません。人間にファーストもセカンドもありません。
私たちは自分で人種・国籍を選んだわけではありません。もちろんどこの国でも自分の国民が第一であることは事実だと思います。でもほかの人はセカンドクラスにするというのも違うと思います。人間は人種や国籍など問わず人として皆平等です。日本で滞在する場合、日本人と同じではない部分もありますが、法的には同じ扱いで、私たち外国人も同じ税金を払っていますし、同じ国民健康保険、国民年金に加入して同じ保険料と年金を払っています。
最近、インターネットや一部の政党などが主張する「外国人は日本人より優遇されている」というのは明らかに事実に基づかないデマです。私も40歳過ぎたので介護保険料も支払っています。会社員は源泉徴収で引かれるので、税金や保険料の仕組みを知らず、簡単にデマにひっかかってしまうと思います。ヘイトスピーチで、クルドの子どもたちも苦しんでいます。彼らは日本で生まれ、日本語で教育を受け、日本のことも外国のことも理解できます。彼らを社会できちんと受け入れ、サポートしてほしい。川口の人たちがヘイトのデマで大変苦労されています。日本政府としても、きちんと偽情報に対応していただきたいと思います。
──SNSでデマを広める人たちをどのように見ていますか。
ワッカス インターネットは、たとえば、普通の会社員をはじめ、朝8時から夕方まで働いている人はしょっちゅうパソコンやスマホを見ていません。でも、一部のインフルエンサーなどは、ネットのアクセスやインプレッションを稼ぐために、嘘でも相手のことを考えずにそれをエアコンの効いた部屋やカフェで仕事、稼ぎの手段として行っているように思います。地元の多くの方は、ネット情報は事実ではないとわかっています。
クルド人がクローズアップされるのは、「政治的理由」があると思います。クルドは国がなく、外交的トラブルが少なく、大使館など守ってくれるバックがないのでたたきやすいのです。たとえば、特定技能として来日している中国人やベトナム人に対して同じことを行えば、両国政府も黙っていないし、もし両国民を引き上げるとなれば日本経済は一気に傾きます。
──残念ですが一部で住民との摩擦や迷惑行為といったトラブルがあることについては。
ワッカス そのことは事実です。トラブルは人間が暮らしていくなかでどこでもあることであり、外国人に限らず日本人同士でもあります。本来それはお互いに話ができて、会話、対話ができて、それで解決できるものだと思います。一部で「外国人と共生できない」という声がありますが、私たちはそうは考えていません。外国人も同じ人間でフレンドリーに挨拶したり「お茶でも飲みましょう」とおつきあいできるのです。そうすれば日常トラブルも自然となくなります。私たちは日本の皆さんにクルドの歴史や文化を伝え、日本とクルドとの友好関係を深めていきたいと思います。
【近藤将勝】
<プロフィール>
ワッカス・チョーラク
1981年トルコ生まれ。2006年トルコ・ディジュレ大学でトルコ語・トルコ文学学士、教育学修士を取得。マレーシア留学を経て09年から日本で暮らす。13年に東京都内でクルド料理の飲食店を開業。現在日本クルド文化協会事務局長、東京外国語大学の市民向け講座でクルド語講師も務めるほか、各種メディアへの出演や市民団体などで講演するなどクルド人を伝える活動を展開している。