再度顕在化した日本株持たざる恐怖FOMO

 NetIB-NEWSでは、(株)武者リサーチの「ストラテジーブレティン」を掲載している。
 今回は9月22日発刊の第372号「再度顕在化した日本株持たざる恐怖FOMO」を紹介する。

市場最高値更新、5ヶ月で47%の急騰

 トランプ関税ショックによる2割暴落の大底31,200円(4月9日)から5か月後の今日、誰が47%増の45,800円(9月19日)を予想しただろうか。政局の混迷が続いているにもかかわらず、日本株式の史上最高値更新が続いている。ここまで上昇してもなお、日本株は極端な割安状態にあり、更なる上昇の始動と見ることができる。この趨勢は自民党新総裁が市場が期待する高市氏はもとより、小泉氏であっても変わるまい。小泉氏には、岸田内閣で「新しい資本主義」戦略を推進した木原氏がプレーンとしてついている。

 株式は配当利回りだけで2.4%、PERの逆数である益回りは5.7%と国債利回りを大幅に上回り、超割安の状態にある。それなのに日本の家計の1,624兆円の金融資産運用(年金保険の積立金を除く)は68%が利息ほぼゼロの現預金に預けられ、株式と投信はわずか25%にとどまっており著しく非理性的運用態度だと言える。ちなみに米国は94.5兆ドルの家計運用金融資産(年金保険の積立金を除く)の74%は株式と投信で、現預金は16%に過ぎない。今、この日本人のリスク回避に凝り固まった非理性的運用姿勢に深刻な反省が巻き起こっている。

ある投資家からのメッセージ

 あるラジオ番組のリスナーから次のようなメッセージを頂いた。「いつも聞いています。武者代表のコメントはいつも納得させられます。私はパート収入月8万円程度、年金が同じく月額で10万円弱ですが、配当金収入は税引き後で月額20万円です。株式投資を本格的に始めて20年ですが、20年前株式投資を決断した自分自身に感謝しています。去年8月の日銀植田ショック、コロナショック、リーマンショック時は1日で200万円以上下落しましたが、それでも投資を続け配当金収入が給与収入を上回ることが出きました。給料が上がらない、などと愚痴をこぼす前に投資を実行し所得を増やすことを考えたほうがいいのでは。」

株式投資がもたらす格差

 この方が毎月税込み24万円の配当を得ているということは、年間配当額は288万円であり、東証平均配当利回り2.4%から逆算すると1億2,000万円の投資元本をお持ちと推計される。20年前の日経平均は12,000円であったから、今日までに株価は3.75倍上昇した、つまり20年前の投資元本は3,200万円であったと計算できる。では20年前から今日まで、預金だけで運用を続けていたなら3,200万円の投資元本はそのまま、毎月の利息収入もほぼゼロである。この株式運用が分かつ著しい格差は、一人家計だけに止まらない。外国人、年金・保険、企業にも言えることで、日本国民は直面しているのである。

 まさしくFOMO(Fear of Missing Out=株価上昇に取り残される恐怖)を日本人が抱かざるを得なくなっている。日本株のばかげているほどの割安さにようやく人々は気づき、日本株を持たざるリスクを真剣に考えざるを得なくなっている。それは巨額の投資資金が日本株式に向かって奔流を始めることを意味する。

各投資主体の状況を概観してみよう

 (1)最大の投資主体であった外国人投資家は昨年来世界主要市場で最も値上がりした日本株比率を高めるどころかほぼすべてを売ってしまった。植田ショック時の昨年8月から今年4月までに12兆円を売り越し、今買い戻しているが、ようやく売却分の半分が買い戻されたところである。

 (2)個人投資家ではNISA改革が始まり投資ブームが起きている、2025年1~6月で8.8兆円が買い付けられた。年間では20兆円、前年比4倍増のペースである。今のところ買い付けの大半が海外投信だが、日本株への急シフトが起きるだろう。

 (3)事業法人は昨年来自社株買いを大幅に増加させている。PBR1倍以下の是正を求める金融庁・東証の要請、現金の持ち過ぎがM&Aターゲットにされることの恐れ、最も有利な余資運用は自社株であること、等が理由である。東証データによると、企業の株式純取得(1~8月)は、2023年2.8兆円、2024年4.5兆円、2025年7.6兆円と前年比7割増ペースが続いている。

 (4)年金など機関投資家もインフレ定着、金利上昇の下で日本国債投資比率の引き下げと株式シフトを余儀なくされている、政府による国家公務員共済(KKR)など公的年金運用の積極化の要請等、が浸透していく。

 このように全ての投資主体が日本株に向かって押し出されている。日本で株式主体の資金運用体制が怒涛の勢いで始まっていることは疑いない。昨年の植田ショック、石破ショック、今年のトランプ関税ショック等相次ぐ急落の度に、足止めを食らった日本株投資家は再度FOMO(日本株を持たざるリスク)を思い知らされていることだろう。以下の冷厳なデータを参照されたい。特に図表7の日米の歴史的バリュエーション推移を熟考されたい。

図表1 年初来主要国株価指/図表2主要国株価指数リーマンショック以降/図表3日米欧家計金融資産構成

図表4 極から極へと振れた株式対債券リターン/図表5 日本株式主要投資主体累積投資(2011年以降)/図表6 海外投資家日本株累積投資(2023年以降)

図表7 日米株式と債券の長期利回り

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