住商混在する西鉄沿線エリア 大橋&高宮

 ともに西鉄天神大牟田線の駅を中心とし、都心部・天神からの交通利便性の高さによって、それぞれが住宅と商業が入り組んだ土地利用となっている南区の大橋エリアと高宮エリア。同じ西鉄沿線という立地であり、隣接する駅同士でありながらも、それぞれが微妙に異なるエリア特性を有している。今回は両エリアの概要をそれぞれ見ていこう。

大橋エリア

駅前に新ランドマーク
「OHASHI HILL」開業

 今年4月、西鉄・大橋駅前で、新たな複合商業施設「OHASHI HILL」が一部開業を迎えた。

 「ゆめアール大橋」(大橋音楽・演劇練習場、南区おおはし子どもプラザ)の跡地において、(株)えんホールディングスによって開発された「OHASHI HILL」は、S造・地上6階建で、立体的・重層的に組み合わせた植栽が特徴。屋上にはトラックやベンチなどを備えた多様な人々が憩い・遊べる広場「スターパーク」が整備され、1階部分にはアートベンチやデジタルサイネージを設置した半屋外の空間「木かげ広場」も整備されている。6月には1・2階部分に「ドン・キホーテ大橋駅前店」がオープン。駅前立地やドン・キホーテの集客効果もあって、施設内外には相応の人の姿が見られ、まだ開業から半年も経っていないにもかかわらず、すでに大橋駅前の新たなランドマークとして定着しつつあるようだ。

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 西鉄・大橋駅を起点として、徒歩約10分、半径800m~1kmの範囲を大橋エリアと呼んで差し支えないだろう。弊誌vol.80(2025年1月末発刊)でも触れているが、同エリアは福岡市の基本計画において市の南部広域拠点に位置付けられている。そのため、エリア内にさまざまな機能や性質が集約。南区の中心部としての役割をはたしてきた。

区画整理で基盤形成
用途は商業&住居地域

 現在の大橋エリアの大部分は、かつての「塩原地区土地区画整理事業」(施行期間:72年3月~87年1月)によって整備されたものだ。西鉄の平尾駅~大橋駅間の連続立体交差事業と併せて行われた同区画整理事業では、大橋駅を中心とした施行面積約153.9haで行われ、2,300戸におよぶ建物の移転、鉄道高架化と周辺道路の整備、下水道幹線の整備、駅移転を契機とした商業環境の再編、行政機関を始めとするコミュニティセンター機能の強化など、実に多岐にわたる要素が盛り込まれた。まさに、現在の大橋エリアのまちとしての基盤は、この区画整理事業によって形成されたといっていい。

 現在の大橋エリアを住所表記上で細分化していくと、「大橋1~4丁目」「向野2丁目」「筑紫丘1丁目」「塩原1~4丁目」「大橋団地」になる。福岡市の都市計画による用途地域では、エリア内のとくに駅周辺や幹線道路沿いは商業地域(建ぺい率80%/容積率400%)となっている。そのほかは、幹線道路沿いが準住居地域(建ぺい率60%/容積率200%)や第2種住居地域(建ぺい率60%/容積率200%)、近隣商業地域(建ぺい率80%/容積率300%)が配置されているほか、幹線道路から入った部分が第1種住居地域(建ぺい率60%/容積率200%)となっており、これらの用途地域に沿ってエリア内の建物配置がなされている。

 エリアの中心は何といっても大橋駅だ。西鉄天神大牟田線では「西鉄福岡(天神)」「薬院」に次いで第3位の乗降客数(24年度1日平均4万753人)を誇る同駅は、天神まで特急で2駅・約6分と都心へのアクセスにも優れているうえに、駅東口にはバスターミナルが設けられ、福岡空港国際線やららぽーと福岡などへの直行便もある。また、北へ約1.1kmとやや距離があるものの、JR竹下駅を利用することも可能。さらにエリア内には国道385号(日赤通り/みやけ通り)をはじめ、県道31号(高宮通り)や長浜太宰府線、御供所井尻1号線などの複数の幹線道路が通過しており、交通結節点の様相も呈している。

駅チカは商業集積
少し離れて住宅街形成

 エリア内を細分化して特性を見ていくと、大橋1丁目は駅を挟んで東西にまたがっており、エリアの玄関口として、交通および商業集積が進んでいる。駅西側は、蛇行した車道が特徴的な「大橋ショッピングモール」として整備されており、主に商店・飲食店が軒を連ねる商店街となっている。2~5階建の雑居ビルが多く、1・2階部分が店舗になっているほか、3階以上の階層はオフィスや住居という構成が目立つ。また、大橋エリアの高い居住ニーズを満たすべく、雑居ビルに交じって、単身者向けの賃貸マンションなどもいくつか見受けられる。一方で、大橋1丁目の駅東口側にはロータリーが整備されてバス停が設置され、鉄道とバスに乗り換える交通結節点の様相を呈しており、大橋駅の表玄関といった佇まいだ。冒頭の「OHASHI HILL」も駅東口側の日赤通り沿いにある。

 また、駅東側の塩原2・3丁目の日赤通り沿いには、南区役所や南区保健福祉センター、福岡市南体育館、南市民センター、福岡市南図書館などの行政機関や公共施設、2次救急指定病院や地域医療支援病院である九州中央病院などの医療施設がそろっている。また、そうした公共施設の背後には、閑静な住宅街が形成。マンションやアパートなどもいくつか見られるが、多いのは戸建住宅で、なかでも2階建が多いものの、平屋建や3階建などの戸建住宅も散見される。住宅街の一角には、塩原中央公園や塩原西公園などの中規模の都市公園も存在しており、エリア内の居住環境向上に寄与しているようだ。

 そして大橋2~4丁目や大橋団地、塩原1・4丁目、向野2丁目、筑紫丘1丁目には、戸建から低層の集合住宅、マンションまで多彩な住居が所狭しと軒を連ねる住宅街となっており、その合間に企業事務所なども点在。近隣には公園や溜池が点在して水と緑に恵まれるほか、スーパーや商店、銀行などもそろっていることで、生活利便性にも優れている。

 さらにエリア内および周辺には、九州大学芸術工学部(旧・九州芸術工科大学)や第一薬科大学、純真学園大学、香蘭女子短期大学などの複数の大学があるほか、福岡市公立高校“御三家”の一角である筑紫丘高等学校も存在し、文教地区としての顔も有している。

 こうして見る限り、大橋エリアは南区の中心部として、主に商業・住居系の土地利用がされているようだ

マンションを中心に
旺盛な開発が進行中

 交通利便性に優れ、コンパクトな範囲内に生活利便施設から公共施設、医療施設などのさまざまな要素がそろっている大橋エリアは、福岡市内でも人気の高い居住区として認知されている。福岡市の住民基本台帳に基づく公称町別の人口および世帯数では、大橋エリア(大橋1~4丁目、向野2丁目、筑紫丘1丁目、塩原1~4丁目、大橋団地)は25年8月末現在で人口2万9,020人、1万7,281世帯となっている。過去のデータから比較すると、人口および世帯数とも10年ごとに約1.1~1.2倍ずつ順調に増加。また、1世帯あたりの人数は約1.7~1.8人程度で推移しており、大学などが多く学生街の性質も帯びているため、大橋エリアには単身世帯が多い模様だ。

 こうした人口増を背景とした高い居住ニーズを満たすべく、エリア内ではマンション開発および供給が断続的に行われている。

 大橋4丁目の長浜太宰府線に隣接する場所では現在、(株)アライアンスによる分譲マンション「CLUB THE. HOUSE 大橋テラス」の開発が進んでいる。RC造・地上10階建、総戸数33戸の同マンションは、同社のマンションブランドとして最上位の「CLUB THE. HOUSE」を冠し、1フロア1~4邸の全邸が角住戸で開放的な住戸レイアウトなのが特長。ホテルライクな内廊下設計で2WAYエレベーターを備え、電動スライドゲート付きの敷地内全戸平置き駐車場を完備。大橋駅まで徒歩約8分の距離にあって交通利便性が高く、周辺には各種施設が充実しているため生活利便性も高い。設計・監理は(株)エムクラフト、施工は日建建設(株)がそれぞれ担当し、27年2月中旬の竣工を予定している。

 大橋2丁目の福岡筑紫野2号線沿い、西鉄線路と挟まれた場所では、千島土地(株)(大阪市中央区)による「(仮称)大橋2丁目マンション計画新築工事」が計画されている。RC造・地上14階建、総戸数65戸で、今年10月頃の着工を予定している。

 大橋3丁目の高宮通り沿いでは、(株)LANDICによる「(仮称)大橋3丁目計画新築工事」の開発が進んでいる。RC造・10階建の共同住宅で、設計・監理は(株)司建築設計事務所、施工は西部ガス建設(株)がそれぞれ担当。26年3月末の竣工を予定している。

 向野2丁目の高宮通り沿い、旧「オートバックス 大橋店」跡地では、(株)オートバックスセブン(東京都江東区)による「(仮称)南区向野2丁目計画 新築工事」の開発が進んでいる。建物の用途は共同住宅・店舗で、RC造・地上4階建、住戸数はワンルームタイプ外15戸。設計者はスターツCAM(株)大阪支店で、8月着工を予定している。

 そのほか、塩原3・4丁目などでは、「(仮称)時永ビルⅡ 新築工事」や「塩原GD D-ROOM様邸新築工事」「有限会社ティ・エム企画様SHM新築工事」などの賃貸住宅物件の開発も散見。さらに住居以外では、大橋1丁目の駅前で福徳興産による「(仮称)大橋1丁目テナントビル新築工事」の開発が進んでいるほか、向野2丁目では(株)OMPによる「(仮称)向野2丁目事務所新築工事[OMP向野2丁目]」が25年5月着工予定で進められようとしている。このように大橋エリアでは、住居だけでなくさまざまな開発が活発に進行している印象だ。

【坂田憲治】

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