糸島の未来を描く──月形市長が語る4期目への挑戦と都市ビジョン

糸島氏 月形市長

 1市2町(前原市・志摩町・二丈町)の合併から15年を経て、人口10万人を超える都市へと成長を遂げた糸島市は、将来を見据えたさらなる都市機能の充実と市民生活の質的向上を目指している。月形市長は3期12年の成果とその分配による、訪れてよし、住んでよし、そして働いてよしの糸島実現への決意を新たに、4期目への挑戦を表明した。

防災拠点としての都市機能整備

 ──3期目に新市役所ならびに糸島市運動公園が竣工を迎えました。

 月形市長(以下、月形) 糸島市役所の建て替えと糸島市運動公園の整備は、合計で100億円を超える投資となり、市の財政的には厳しい状況下での決断となりました。しかし、両施設は災害発生時に防災拠点としての役割をはたします。災害が激甚化する時代において、新たな防災拠点の整備は都市の生命線を守るためにも必要不可欠でした。

 旧市役所は主要設備が地下に集約されており、大雨による浸水リスクを抱えていました。災害発生時に司令塔として機能できなくなる可能性があり、そうなれば市民生活への影響は免れません。運動公園の整備についても、当初から市のスポーツ振興という側面だけでなく、防災機能を重視し、大規模災害発生時の避難所として機能するように戦略的に計画を進めていました。

2024年1月に開庁した糸島市役所
2024年1月に開庁した糸島市役所

 ──運動公園は幅広い世代が利用している印象を受けます。

 月形 これまで県大会などの大規模なスポーツイベントを開催したくても、市に適切な施設がなく、断念せざるを得ない状況が続いていました。また、誰もが楽しめる運動公園を求める声も多数寄せられており、こうした市民の皆さまのご要望に応えられる運動公園が、実際に多くの皆さまから利用されていることを嬉しく思います。今年8月にはピックルボール国際大会の会場にも選定され、世界的な大会も開催できる施設としての認知も広がったと思います。オリンピック・パラリンピック選手を4名輩出している市としても、運動公園が市民のスポーツへの参加意欲の向上や健康増進に寄与することを期待しています。

※ピックルボール…テニス、バドミントン、卓球を組み合わせたアメリカ発祥のスポーツ。老若男女問わず、誰もが気軽にプレーできる。 ^

2023年7月にオープンした糸島市運動公園
2023年7月にオープンした糸島市運動公園

高まる学研都市としての存在感

 ──九州大学伊都キャンパスの誕生以降、九大との連携も定着してきたと感じます。

 月形 手探りの状態から始まった九州大学との連携でしたが、地域のお祭りなどの伝統行事を学生が一緒に盛り上げてくれる光景を目にする機会も増えました。地域住民との交流や関係性の構築は、着実に進んでいると思います。

 市としては九大の立地自治体という枠にとどまらず、市民と学生がお互いを応援し合える相互支援の関係が築かれた都市を目指していきたいと考えています。卒業後に市の職員として働きはじめた学生もいます。第二の故郷として糸島に愛着をもってくれれば、市の人材基盤の強化も進むはずです。

 学術的知見や先端技術を地域の課題解決に活かす取り組みとして、産学官金連携でSVI(糸島サイエンス・ヴィレッジ)構想も進行中です。構想段階ですが、対象エリアでは学生街や研究施設など、それぞれ特徴をもった区域が設けられる方針であり、まずは26ha程度を整備し、将来的には60ha規模まで拡大していければと考えています。同エリアでは実証実験を通じて、ローカル5G通信や直流マイクログリッドなどの先端技術の実証実験が進んでおり、こうした知的資源の実用化・事業化に向けた取り組みは、国の政策方針にも合致した地方創生のロールモデルになれる可能性を秘めています。

SVI構想で示された歩行可能な15分都市イメージ
SVI構想で示された歩行可能な15分都市イメージ

立地優位性と充実したインフラ

 ──糸島市への企業進出が目立ちます。昨年はAPL(アジア・パシフィック・ランド)グループによる大型データセンターの建設が決定しました。

 月形 市への企業進出が続いている背景としては、立地条件の優位性が考えられます。

 博多・天神といった福岡市の中心部から電車や高速道路の利用で30分程度、福岡空港からも40分程度であり、物流面でも好条件を備えていると思います。データセンターに関しては、九州電力伊都変電所からの高圧電力供給が受けられる点も、安心材料になっていると思います。ソフトバンクが進める国際海底ケーブルE2Aの新たな陸揚げ拠点に選定されたことで、高速通信インフラの充実を通じた、情報産業の立地自治体としてさらなる存在感の向上も期待されます。前原IC側の産業団地には次世代ディスプレイに使用される量子ドット材料で世界的シェアを誇る昭栄化学工業(株)や、医療用の麻酔針で高い知名度を有する(株)ユニシスなど、グローバル企業の進出も続いています。

 もちろん、糸島の基幹産業が農林水産業であり、糸島の魅力の核心であることは変わりません。豊かな自然が育む新鮮な農水産物や美しい景観。これらの魅力を維持しながら、先端産業を誘致し、多様な雇用機会を創出していくことが重要であると考えています。

※E2A…アジアと北米を結ぶ、総延長約1万2,500kmの太平洋横断光海底ケーブル。AIアプリケーションやデータセンターなどを支えるインフラとして期待されている。 ^

4期目への挑戦、持続可能性とウォーカブルシティへの転換

 ──さまざまな成果が目に見えるかたちとして現れるなかで、4期目への挑戦を表明されました。

 月形 近年市の人口は10万人超で安定推移を見せていますが、将来的に減少期に入ることは避けられず、そのときに備えたまちづくりに今から取り組んでいく必要があります。都市機能の集約化、子育て支援の充実、行政サービスの効率化など、人口が安定推移を見せている今だからこそできる投資を行っていくことが大切です。

 たとえば、糸島市内で子育てに必要な機能が完結できる環境を整えることで、子育て世代の定住を促進し、人口減少のスピードを緩やかにすることが可能です。また、現在JR筑前前原駅周辺の40haを対象に都市再生整備計画を実施中です。この計画で目指しているのは、ウォーカブルシティ(歩きやすいまち)の実現です。高齢化社会の進展にともない、バリアフリー化をはじめ、免許を返納した高齢者の方でも、徒歩で日常生活に必要なすべてのサービスを享受できるような、利便性の高い都市空間の整備を目指しています。

 回遊性の向上など歩行者空間の充実を図る目的で、歩道の幅員拡大や移動の途中で休憩できるような公園や広場も整備する計画です。このほか、無電柱化による景観の向上と、災害時発生時の電柱倒壊による道路の寸断防止(輸送ネットワークの確保)も考慮されています。これまでの都市計画は、どちらかといえば自動車中心のアメリカ型のモデルを参考にしてきたと思います。しかし、これからは公共交通機関や歩行者を優先したヨーロッパ型のモデルを参考にまちづくりを行っていく必要があると考えています。市役所、警察署、図書館、文化会館といった公共施設が集積するこのエリアに、歩行者空間の充実による新たな憩いの場を創出することで、同エリアを糸島市の顔となるシンボリックなエリアにしていきたいと考えています。

JR筑前前原駅周辺には古き良き時代の町並みも残されている 左の写真はランチも楽しめる古材の森(旧・西原邸)
JR筑前前原駅周辺には古き良き時代の町並みも残されている
左の写真はランチも楽しめる古材の森(旧・西原邸)

 糸島には年間約700万人の方にお越しいただいており、市の人口も増加傾向で推移してきました。訪れてよし、住んでよしという目標については何とか実現できたのではないかと思います。

 3つ目の目標である働いてよしを実現するために、今後は市民の皆さまが活躍できる機会や場所の創出が重要になります。先のAPLグループの進出も含め、次世代を担う若い人材が糸島で頑張ってみよう、そう思えるようなまちづくりを推進していきたいと考えています。そして、糸島の顔である農林水産業の魅力を、従事者の皆様自身が広く国内外に向けて情報発信できる、そうした支援体制、機能の充実にも合わせて取り組んでいきたいと考えています。

 誰もが糸島で暮らし続けることができる、その実現のために市民の皆さまが活躍できる機会や場所を提供していく、それが次の4年間で達成したい目標です。

<プロフィール>
月形祐二
(つきがた・ゆうじ)
1958年6月生まれ。糸島郡志摩町桜井(現・糸島市志摩桜井)出身。西南学院高等学校、西南学院大学法学部を卒業後、(株)モリタに入社。その後、86年から2002年11月まで衆議院議員太田誠一氏の秘書を務め、03年4月の福岡県議会議員選挙で初当選し、福岡県議会議員を3期10年務めた。14年2月に糸島市長に初当選し、現在3期目。

【代源太朗】

法人名

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