福博の街を形成する新旧二大巨頭の今~紙与産業
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2015年9月1日現在の人口153万1,919人。今なお人口が増え続けている福岡市。この九州最大都市が形成されるプロセスにおいて、決して忘れてはならないのが、紙与産業と福岡地所の2社である。明治時代から福岡市の発展に多大な貢献を収め地名にその名を残した渡邉家の紙与産業グループ。そして、複数の大規模商業施設とオフィスビルで、福岡市の都市機能を力強くバックアップする福岡地所。ここでは紙与産業のオフィスビルを中心に調査を行い、各種データから推定の年間賃料収入を試算。それぞれの沿革と現状と共に検証した。
まちづくりとともに巨大な資産を形成
福岡・博多の地で、一際目立つ一等地に建つ数々のオフィスビルを所有する紙与産業グループ。その創業者一族である渡邉家は、福岡市の都市開発の歴史において重要な役割を果たしてきた。創業の歴史は、1825年、初代・與助氏が博多で開業した紙与呉服店がルーツ。幕末、混乱期にあった大阪で投げ売りされていた呉服や反物を大量に仕入れ、それを九州で売って大儲けし、他に並ぶ者がいない九州一の呉服屋、福博トップの金持ちと呼ばれるまでに発展した。その成功を土台として、1889(明治22)年に3代目として家督を継いだ渡邉與八郎氏は、当時行われていたさまざまな都市開発に多大な貢献を収めていく。
1910(明治43)年、福岡市で開かれた第13回九州・沖縄八県連合共進会。明治政府の殖産興業政策の一環として産業技術交流を目的としたもので、本開催では5万5,735点が出品され、半年間で約100万人が入場する盛況ぶりであったという。その会場となった旧因幡町が湿地帯であったため、因幡山を削って埋め立てる費用を與八郎氏が負担した。旧因幡町とは、現在のアクロス福岡から天神中央公園、福岡市役所、天神イムズなど天神の中心地一帯。天神地区が発展を遂げる大きなきっかけとも言われている。
その後、與八郎氏は、都市の生命線である交通インフラの整備、具体的には路面電車の創設に情熱を注いでいく。共進会に合わせて開通した「福博電車」(福沢桃介、松永安左エ門らが設立)に続く、地場資本の電車の開通を目指した。天神から、現在の渡辺通りを通って博多駅へ、そして築港を通って天神へ戻る循環線「博軌電車」である。
「電車が通れば自分の家は倒れてもいい」と言うほどであった與八郎氏は、電車を走らせるための土地の買収を行っていく。前出の共進会の敷地の埋め立てで福岡市から電車軌道の幅だけをもらったのが現在の渡辺通り。今の天神・博多エリアからは想像つかないが、当時の市人口は7万人。土地の多くは田や畑。さすがに、電車幅だけの買収というわけにはいかず、與八郎氏は田畑ごと買い取っていったという。そして1911(明治44)年10月2日、「博軌電車」(博多電気軌道)が開業。悲運にも、電車開通の直後、與八郎氏は急病(ワイルス氏病)に倒れ、同月29日に亡くなる。享年46歳。死後、その功績が讃えられ、「渡辺通り」にその名を残した。路面電車開業の副産物が、今なお渡邉家が所有する不動産資産であるとも考えられる。何もないところに自ら投資を行い、都市の成長とともに子孫の代で莫大な資産を築いていった実業家・與八郎氏の才覚の凄まじさには脱帽である。
天神・博多の一等地にオフィスビルと駐車場
3代目・與八郎氏の貢献により、一大商業地区としての産声をあげた天神・博多エリア。同エリアには、渡邉家(紙与産業グループ)の関連ビルであるオフィスビル10棟、駐車場ビル4棟(【表Ⅰ・Ⅱ】参照)が所在する。紙与産業グループは、紙与産業(株)、紙与不動産(株)、渡辺地所(株)、(株)サンライトで構成される。15年8月15日、紙与産業の代表取締役相談役を務めていた與八郎氏の孫・渡邉與三郎氏が老衰のため死去した。享年90歳。
12月上旬から同月中旬にかけて実施した今回の調査では7棟で空室のテナント募集がなされており、坪単価が判明。いずれも福岡市のオフィス相場(【表Ⅲ】参照)よりも高く、好立地とビル自体のブランドの価値が付加されていると言える。
代表的なビルである紙与渡辺ビルは、1954年に建てられた旧・渡辺ビルを、2000年に解体し、建て替えた建物。場所は、渡辺通りの起点であり昭和通りと交わる天神橋口交差点の角地。なお、同ビルに本社を置く紙与産業は、紙与博多ビルも所有。このほか、自走式立体駐車場【表Ⅱ】を4棟所有し、オフィスビルの賃料収入と駐車場収入などで15年3月期は売上高21億9,795万円となっている。グループで最も多くオフィスビルを所有しているのは紙与不動産(ただし、博多管弦ビルは住友商事(株)と2分の1ずつ所有)。紙与天神ビルは、05年3月に、共有者であった松下興産(株)の持ち分(100万分の58万4,143)を売買で取得。(株)西日本新聞会館との共同ビルである西日本渡辺ビルは、大丸福岡天神店が入る地元ではお馴染みの建物。(株)博多大丸は、本館(31,258㎡)を西日本新聞会館と紙与不動産から賃借しており、年12億6,200万円の賃料を支払っている。同社は15年3月期、家賃収入などで売上高15億6,000万円を計上。このほか、同期において、渡辺地所(株)は売上6億1,100万円、(株)サンライトは売上2億9,343万円を計上。グループ全体の15年3月期の売上高は合計46億6,239万円となる。以上をふまえ、グループ全体のオフィスビルについては、賃料収入を35億円と試算。最近の地下高騰を受け、実際はもっと上であることも考えられるが、その資産価値は、少なく見積もって550億円と推定する。
渡邉與八郎氏が実業家人生を賭した循環線「博軌電車」は、初代がリスクをとって築き上げた渡邉一族の莫大な財産を投じて創られた。その電車が都市の発展に大きく寄与し、都市の発展が、渡邉家の不動産の価値を上げていった。この循環が、渡邉家の巨万の富を生んだと言えるだろう。今なお天神・博多エリアに静かに存在感を放っている数々の紙与ビルは、與八郎氏の魂を宿し、福岡市を見守り続けているのかもしれない。
【山下 康太】
▼関連リンク
・オフィスビル収入で福岡地所が抜く
・福博の街を形成する新旧二大巨頭の今~福岡地所参考文献:西日本シティ銀行発行「博多に強くなろうシリーズNo.1チンチン電車と渡辺与八郎氏」(対談:帯谷瑛之介氏、西島伊三雄氏、四島司氏、小山泰氏)
<COMPANY INFORMATION>
紙与産業(株)
代 表:渡邉 與之
所在地:福岡市中央区天神1-12-14
設 立:1920年3月(創業1825年)
資本金:5,000万円
業 種:不動産管理、貸ビル・駐車場の経営
売上高:(15/3)21億9,795万円法人名
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