【新春トップインタビュー】九州を元気に、そして九州から日本を動かす 地方創生の新たなモデル確立へ、九州経済の挑戦

(一社)九州経済連合会
会長 池辺和弘 氏

 (一社)九州経済連合会の池辺和弘会長は、就任から半年の活動を振り返りつつ、九州が直面する課題に対し「既存の制度の枠内で頑張るだけでは不十分だ」と語る。農林水産業の再生、スマート農業や輸出支援、観光・交通ネットワークの強化、子ども・若者を軸にした地域づくり、そして地方創生2.0が掲げる広域リージョン連携──。九経連ならではの視点で、九州に合った新しいルールと成長モデルを描こうとしている。

年頭所感

(一社)九州経済連合会 会長 池辺和弘 氏
(一社)九州経済連合会
会長 池辺和弘 氏

    新春を迎え、謹んでお慶びを申し上げます。

 会長に就任して半年が過ぎました。

 今年は、九経連の活動指針「九州将来ビジョン2030」の第2期中期計画(2024~26)の最終年度であり、明るい未来へのしっかりとした道筋を示さなければなりません。

 九経連会長として私に与えられた使命は、とにかく「九州を元気にする」ことです。そのためには、まず、地域の実情を知らなければなりませんし、九経連の取り組みについてもっと多くの皆さまにも知ってもらう必要があります。

 昨年9月に、九経連の公式インスタグラムを始めましたが、そこでは単にイベント報告のみならず、各地の隠れた名所や文化・産業、グルメなどを直接、訪問・体験し、その魅力を発信しています。こうした活動を通じて、地域の強みや弱みなどを知れば知るほど、改めて会長としての重責を確認すると同時に、やりがいを感じています。

 九州地域は、我が国の食料および経済安全保障上、大変重要な役割を担っています。TSMCの熊本進出を契機とした半導体関連産業の集積は、九州はもとより日本の将来を支える成長エンジンとして、しっかりとした戦略の下で取り組んでいく必要があります。また、農林水産業についても、スマート技術の導入等による生産性向上や、輸出促進支援など生産者所得の向上を図ることで、後継者不足に歯止めをかけ、魅力ある産業にしていかなければなりません。

 さらに、第3回目となる国際サイクルレース「ツール・ド・九州」を開催いたしましたが、昨年は大分・熊本・福岡に加えて長崎・宮崎が、今年はさらに佐賀も加わる予定で、文字通り九州を舞台とするレースとして定着しつつあり、九州のプレゼンス向上につなげてまいります。

 「九州MaaS」についても、サービス開始から1年半が経ちますが、観光分野も含む円滑な移動ツールとして、さらなる利便性向上と機能拡充を図ってまいります。

 これらは、いずれも九州が一丸となって進めていかなければならない重要な取り組みであり、幸いにも九州には「九州地域戦略会議」に象徴されるまとまりの良さがあります。産学官の力を結集してしっかりとした戦略の下で実践し、成長と分配の好循環をつくり上げていかなければなりません。その結果、地域の魅力が高まり、自ずと九州に人が集まってくるといった地方創生の新たなモデルを確立してまいりたいと考えています。

 本年も、変わらぬご理解とご協力をお願い申し上げます。


 昨年6月、新会長に就任した池辺氏に九経連として重点的に取り組むべき課題について話をうかがった。昨年9月に掲載したトップインタビューの補足的な内容となっている。合わせてご覧いただきたい。
(聞き手:(株)データ・マックス 代表取締役会長 児玉直)

時代と地域に合った
新しいルールを模索する

 ──九経連の役割をどのようなものと認識していますか。

 池辺和弘氏(以下、池辺) 九経連の役割は「九州を元気にすること」です。そのために必要なこととして、「今あるルールの範囲内で頑張る」だけではなく、「そもそも今のルールが本当に最適なのか」を問い直すことが必要ではないかと考えています。世の中が複雑化するなかで、地域ごとに抱えている悩みは違います。全国一律の制度をそのまま当てはめようとすると、どうしても無理や無駄、そして「こぼれ落ちる人」が出てしまいます。道州圏域構想なのか、地域特区のようなかたちなのかはまだわかりませんが、九州に合った新しいルールを模索していきたいと考えています。

若者に選ばれる農林水産業に
スマート農業と労働力支援がカギ

 ──第一次産業、とりわけ農業の再生は九州にとって最重要課題の1つだと思います。

 池辺 九州の農業は高齢化と担い手不足という厳しい現実に直面しています。また、国内市場の縮小や適正な価格形成に向けた仕組みの構築、国際ルールの強化への対応など、課題は多岐にわたりますが、九経連は4つの柱で取り組んでいます。

 第一の柱は、域外企業の九州農業への参入です。経団連と共催で、2013年から「農業活性化に向けた企業タイアップセミナー」を続けています。東京・経団連会館で、農業参入の成功事例の共有や、九州各県の農政部局によるプレゼン、県ブースでのマッチングなどを行っており、25年度はリアル開催で約80人が参加しました。異業種が農業に入ってこないと、若者から選ばれる産業にはなれないという問題意識があります。後継者難の個人農家に対して、企業参入や企業からの人的支援を通して役立つことを目指しています。

 第二の柱は、九州中山間地域における耕作放棄地対策のモデルづくりです。日本の農地は1961年から181万ha減少し、2022年には耕作放棄地を含む荒廃農地が25.3万haに達しています。なかでも九州・山口地域では、荒廃農地が7.1万ha、農地面積の12.2%を占めるなど、荒廃農地が全国平均の2倍の割合で発生しており、深刻な状況です。荒廃農地拡大の主因は、高齢化や病気による離農、労働力不足です。そこで農研機構と共同で、企業の農業参入によって耕作放棄地の再生に取り組む先進企業の事例を調査し、対策モデルを取りまとめました。①地域貢献を重視する企業トップの経営理念、②生産性向上や製品差別化を実現するイノベーション、③ヒト・モノ・カネの確保戦略、という3つの要素から構成される経営モデルです。このモデルは、25年7月九州農政局主催の「九州スマート農業技術情報連絡会議」において各県農政部へ共有し、地域での活用を働きかけています。

 第三の柱は、農家の労働力支援と担い手不足の下支えです。九経連は22年に農林中金、JA全農ふくれんと三者協定を結び、援農マッチングアプリ「daywork」の活用や異業種交流を兼ねたアグリボランティアの実施などによる労働力支援に取り組んでいます。企業の社員が副業やボランティア、新入社員研修として農作業に参加する仕組みで、開始から3年で延べ会社数24社、延べ人数158人が参加しました。社員の農作業体験を企業が後押しすることで、連続休暇の取得やコミュニケーション能力の向上、健康面の効果なども期待されています。

 第四の柱は、海外への市場拡大です。政府は30年までに農林水産物・食品の輸出額5兆円(24年実績1.5兆円)という目標を掲げており、九経連はその一翼を担おうとしています。15年には輸出商社「九州農水産物直販」を立ち上げ、産地やメーカー、卸から直接仕入れて、海外小売店へ中間マージンを抑えた販売を展開し、24年度の売上は16億円に達しました。

 さらに、20年には九州の地域商社5社による「九州の食輸出協議会」を設立し、日本商品が少ない海外現地スーパーをターゲットとして、これまでに台湾、香港、マレーシア、カンボジア、アメリカなどで「九州フェア」を開催しています。

 25年5月には「九州の食」輸出促進プロジェクトが官民共同でスタートし、九州商工会議所連合会(リーダー)と九経連を事務局として、「食のワンチームKyushu」というプラットフォームを設置し取り組みを開始しています。

観光・インフラ・MaaS
「西のゴールデンルート」確立へ

 ──インバウンドや観光、インフラ整備についてはどうですか。

 池辺 九州がさらに飛躍するには、観光だけでなくビジネスの利便性も含めた交通ネットワークの充実が欠かせません。25年3月に福岡空港の第二滑走路が運用を開始したことは、福岡はもちろん九州全体にとって大きな意味を持つ出来事です。課題はまだ多いですが、福岡空港が「九州のハブ空港」として世界を含む広域からの集客を担い、九州周遊の起点になることを期待しています。いわゆる「西のゴールデンルート」の確立にもつながるだろうと考えています。

 九経連も、九州MaaSやツール・ド・九州を通じて、九州周遊の仕組みづくりに取り組んでいます。ツール・ド・九州は、25年の第3回大会から長崎、福岡、熊本、大分、宮崎の5県に開催地が拡大しました。今年は佐賀を加えた6県での開催を予定しており、インバウンドの効果を九州全域に波及させていきます。

 インフラ全体で見ると、高速道路網の整備も重要です。東西軸を強化する九州中央道や中九州横断道路は、TSMCの熊本進出効果を九州全域へ波及させるうえでも、南海トラフ巨大地震などの際の避難経路としても大きなポテンシャルをもちます。福岡空港への高速道路の直接乗り入れが完成すれば、シームレスな交通網が整い、交通渋滞の緩和やリダンダンシー確保にもつながります。

 新幹線も地方創生の切り札と位置づけています。ゴールデンルートの認知度向上にも寄与する西九州新幹線や、九州の「陸の孤島」ともいえる東九州における東九州新幹線構想など、財源負担スキームなどの政治的な判断も含め、前に進むための議論を進めてほしいと考えています。

 さらに、関門海峡を川幅700m~2kmの川にたとえると、19kmの区間に横断箇所が2つしかないという現状は、物流や災害リスクの観点から見て脆弱だといえます。サプライチェーン強靭化やリダンダンシー確保の観点からも、下関市と北九州市中心部を結ぶ「下関北九州道路(下北道路)」の早期実現が重要だと考えています。

 観光戦略面では、九州地域戦略会議で策定した「第三期九州観光戦略(2024~2030)」がすでに動き出しています。九州観光機構を中心に、各地と連携しながらリピーター獲得に向けた魅力づくりを進めていきます。

子ども・若者を軸にした
共生・共感・共創アイランド九州

 ──人口減少の克服や共生社会づくりについてのビジョンは。

 池辺 人口減少は九州にとって最大級の課題であり、単に「働く場」をつくるだけでなく、働き方改革を通じて生産性を高めつつ、女性や若者に「ここで働きたい」と選ばれる地域にしていくことが重要だと考えています。キーワードは「働きやすい/暮らしやすい/生きやすい/自己実現ができる九州」です。「九州将来ビジョン2030」にも、「新たな時代の成長エンジン」「心の豊かさを成長につなぐ幸せコミュニティ」「自立型広域連携アイランド」の3つのありたい姿を描き、経済成長だけでなく豊かな社会実現の両立を目指しています。

 九州地域戦略会議でも24年に「こどもまんなか九州宣言」を採択し、①結婚・出産・子育ての希望実現、②子どもの成長・挑戦支援、③若い世代の所得向上と柔軟な働き方、④女性が安心して働ける職場づくり、⑤男性の家事・育児参加の定着を重点施策に掲げています。さらに第3期九州創生アクションプランのQXプロジェクトでは「子育てランド九州プロジェクト」を通じ、社会全体で子育てを支え、結婚から子育てまでの希望がかなう九州づくりを具体的に進めています。

地方創生2.0とQXプロジェクト
広域リージョン連携の先行モデル

 ──国の「地方創生2.0」などとの関係をどう見ますか。

 池辺 政府は25年6月に「地方創生2.0基本構想」を閣議決定し、その5つの柱の1つとして「広域リージョン連携」という新たな枠組みを掲げています。複数都道府県の地方公共団体と経済団体などが連携して、複数のプロジェクトに取り組む構成体を「広域リージョン」と位置づけ、そこに対して省庁横断で支援していくという考え方です。

 これは、地域が自らモデルをつくり、国がそれを支援するという仕組みだといえます。九州地域戦略会議で取り組んでいるQXプロジェクトは、この枠組みに該当する可能性が高く、25年10月には広域リージョン連携宣言を公表しました。九州から具体的な提案ができるよう、準備を進めていきます。

【文・構成:寺村朋輝】

▼関連記事
【新会長インタビュー】
人口減少時代の広域連携と九州の新産業飛躍ではたす役割

(2025年9月1日掲載)


<プロフィール>
池辺和弘
(いけべ・かずひろ)
1958年生まれ。大分県出身。81年東京大学法学部を卒業後、九州電力(株)入社。同社発電本部部長、経営企画本部部長、執行役員、常務を経て、2018年代表取締役社長、25年代表取締役会長に就任。20~24年電気事業連合会会長。25年(一社)九州経済連合会会長に就任。

関連記事