肝臓は手術で4分の3を切除しても約4カ月で元の大きさに戻るほど、驚異的な再生能力をもつ臓器です。「肝に銘じる」「肝腎要」といったことわざが示すように、昔から生命活動の要として認識されてきました。この重要な臓器の健康を支えるカギが、実は毎日の「咀嚼」にあることをご存知でしょうか。連載最終回となる今回は、よく噛むことで舌圧が上がり、肝臓の機能が蘇るメカニズムをご紹介します。
舌が肝臓を蘇らせる
肝臓の機能は、舌のストレッチによって舌圧が上がると蘇ります。舌が食べ物を歯列のテーブルに効率よく運ぶことで、噛む回数が自然と増え、食べ物を小さく咀嚼できるようになります。しかし、むし歯や歯周病、歯列不正、歯数不足があると、うまく咀嚼することができません。
よく噛むことによって、唾液の分泌量も促進されます。咀嚼によって消化器系全体が活性化し、なかでも肝臓の働きが良くなります。食べ物が胃から十二指腸に移動する際、肝臓で生成された胆汁が分泌され、消化吸収が効率的に行われるのです。
胃腸の調子が悪いと、肝臓の機能も自ずと低下します。消化器官は相互に連携して働いているため、口腔から始まる咀嚼という行為が、消化器全体、とくに肝臓の健康を左右するのです。
咀嚼が内臓を強くする
咀嚼には内臓を強くする力があります。つまり、舌を強くすることによって、体幹を指す内臓が健康になるということです。消化器に属する肝臓の働きは、そのなかでもとくに重要になってきます。
肝臓が健康である要因の大きな1つに、咀嚼によって改善できるという事実があります。入り口である口腔内の舌の状態が、健口から健康につながる第一歩なのです。舌の可動域を広げ、舌圧を高めることで、肝臓をはじめとする内臓全体の機能が向上します。
肝臓は500以上もの機能を担う、体内最大の臓器です。代謝、解毒、胆汁の生成という重要な役割を担い、その再生能力の高さは生命維持にどれほど重要かを物語っています。この肝臓の力を最大限に引き出すために、毎日の咀嚼が欠かせません。
健口から健康へ
連載第4回で紹介した指のストレッチを覚えていらっしゃるでしょうか。舌圧と握力には深い関係があり、ともに可動域を広げることが重要です。
手足の末端である指のストレッチは、舌ストレッチと同様に、筋肉を伸ばすことにより解剖学的機能を生かす運動です。舌という内臓の筋肉を鍛えることで、全身の筋力バランスが整い、内臓機能も向上します。これは単なる局所的なトレーニングではなく、全身の健康につながる包括的なアプローチなのです。
日常生活に舌ストレッチと意識的な咀嚼を取り入れ、日々健康的にイキイキ過ごしましょう。食事の際には一口30回を目安によく噛むこと、食前や就寝前に舌回しなどの舌ストレッチを行うこと。こうした小さな習慣の積み重ねが、肝臓をはじめとする内臓全体を支え、全身の健康につながります。
この連載を通じてお伝えしてきたように、口腔の健康は全身の健康の入り口です。舌を鍛え、よく噛み、口腔内を清潔に保つこと。それが「健口」から「健康」へのたしかな道となります。毎日のケアで、体が本来もつ驚異的な力を最大限に引き出しましょう。
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歯科医師 大村豊(おおむら・ゆたか)
1964年3月23日福岡県柳川市生まれ。福岡歯科大学卒業後、大学院で舌の発生学を研究。2002年10月に福岡市百道浜で大村歯科クリニックを開業し、予防歯学を重視した診療を展開。オーラルフレイルに早期から着目し、独自の口腔機能向上プログラムを通じて患者の生活の質向上を図る。現在も「口の健康が全身を支える」という信念のもと、研究と臨床の両面から口腔ケアの重要性を訴え続けている。








