ポテンシャル再注目の吉塚エリア(中)

鉄道網整備と県庁移転
近年は多文化共生エリアに

 歴史をさかのぼると、吉塚エリアの発展は、やはり吉塚駅と密接なつながりがあることがわかる。

 同エリアにはもともと「千代の松原」と呼ばれる白砂青松の松原が広がっていたほか、農地が広がる地域であった。また、江戸期には唐津街道の一部である「箱崎道」が通るほか、篠栗・飯塚方面に伸びる金出道(篠栗道)も通っており、交通の分岐点でもあったようだ。明治期に入ると太政官布告に基づいて、千代の松原の一部が公園地とされ、1876(明治9)年10月に福岡県内で初となる県営公園「東松原公園」(1900年に東公園へと改称)が開園した。その後、公園周辺の開発が進行することで、白砂青松の景観は次第に失われていったが、洋風劇場「博多座」や「御大典記念福岡市動植物園」ができるなど、公園を中心に文化・娯楽施設が集積していった。

 一方で、1904(明治37)年6月に吉塚~篠栗駅間(篠栗線の前身)の開通にともない、九州鉄道(初代)(現在の鹿児島本線)の博多~箱崎駅間に「吉塚停車場」(吉塚駅)が開業した(07年7月に国鉄化)。19(大正8)年5月には糟屋炭田から産出される石炭輸送および宇美八幡宮参詣客の輸送のために、「筑前参宮鉄道」(後の国鉄・勝田線)が乗り入れるようになり、吉塚駅がその起点となった。さらに、12年1月には路面電車である博多電気軌道(後の西鉄福岡市内線)の千代町~吉塚駅前~三角間が開業し、国鉄・吉塚駅前には、その名も「吉塚駅前」という路面電車の停留場が設置。国鉄・吉塚駅の周辺は交通結節点の様相を帯びていくとともに、糟屋炭田および筑豊炭田からの石炭を運ぶ重要な物流拠点としても機能し始め、駅周辺には鉄道関連施設や倉庫などが集積していった。これが、現在の吉塚エリアの性格を決定づけた一因だろう。なお、戦後になると西鉄福岡市内線(吉塚線)が73年1月に廃止となり、85年4月には国鉄・勝田線が全線廃止となるなど、2路線の鉄道路線が廃止となった。

 次にエリアにおける転換点となったのが、戦後の高度経済成長期を経たうえで、東公園の隣接地に福岡県庁が移転してきたことだろう。この県庁の移転にともない、福岡県警察本部や行政関連のビル、各種団体、士業事務所などが次々と進出。これにより、吉塚エリアは「石炭輸送の物流拠点」「住宅と商店の街」から「福岡県の中枢を担う行政街」へと発展していった。

 さらに90年代以降は、吉塚駅付近のJR鹿児島本線と篠栗線の高架化工事が進行。それまで線路によって東西が分断されていた吉塚エリアでも、多くの踏切が廃止され、東西をスムーズに行き来できるようになった。さらに高架化完了後には、駅直結の商業施設が誕生したほか、駅前整備も進み、周辺の利便性が飛躍的に向上した。

東公園/福岡県庁/吉塚市場リトルアジアマーケット

 近年では、都心(博多・天神)に近い立地から居住エリアとしての人気も高まり、大規模マンションの開発が進行。また、古くからの「吉塚商店街」が、周辺に住む多くの外国人住民(技能実習生など)との共生を掲げ、アジア各国の料理や文化が楽しめるスポットとしてリニューアル。2020年に「吉塚市場リトルアジアマーケット」として生まれ変わり、吉塚エリアに「多文化共生」という新たな息吹を吹き込んだ。

 こうして吉塚エリアは、かつての石炭輸送の要衝から、県庁移転にともない行政街として、そして現在は多様な文化が混ざり合う利便性の高い居住地へと、時代に合わせてその役割を柔軟に変え続けながら、現在に至っている。

高い利便性が再評価
初の「住みたい街」TOP10入り

 実は吉塚エリアは近年、その高い利便性を背景とした住みやすさが再評価されつつある。(株)リクルートが福岡県内居住者を対象に実施し、25年6月に集計結果を公表した「SUUMO住みたい街ランキング2025福岡県版/福岡市版」の「住みたい街(駅)ランキング」では、10位に「吉塚」がランクイン。前々回(20年)の圏外、前回(23年)の13位から着実に順位を上げ、今回は初のTOP10入りとなった。

 リクルートでは、同ランキングのなかで「吉塚」を注目エリアとしてピックアップ。「吉塚」のライフステージ別得票シェアでは、「夫婦+子ども世帯(共働き)」の層から34.4%の支持を得ており、前回調査(23年)と比べてシェア率が10ポイント以上伸びているが、これについて「博多駅からわずか1駅という高い利便性をもちながら、福岡市内で供給されるマンションとしては価格に割安感があり、コストパフォーマンスやタイムパフォーマンスを重視する子育て世代の支持が高まったと考えられる」と分析。また、吉塚駅周辺にフィットネスジムやピラティススタジオがあるほか、駅から徒歩圏内に市内唯一の常設スケートリンク「オーヴィジョンアイスアリーナ福岡」があることで、「魅力的な運動施設が充実している」という評価や、博多駅から1駅という立地でありながら駅周辺に庶民派スーパーが充実していることで、「物価が安いと感じる」という評価を得ていることも、支持を得た要因としている。

JR吉塚駅周辺

 同ランキングでは「吉塚」のことを、「都心の利便性と落ち着いた住環境が共存するエリア」と評価している。博多駅から1駅という立地で、エリア内には地下鉄駅もあり、通勤や通学、買い物など、どこに行く/何をするにも便利なほか、エリア内にはスーパーマーケットやドラッグストア、飲食店などの商業店舗も豊富で、生活利便性が非常に高い。一方で、緑豊かで広大な東公園があることで、都心でありながら日常的に自然・緑に触れることも可能だ。また、市民病院や九州大学病院だけでなく、エリア内には医療機関が充実しており、医療面での安心感も高い。さらに、県庁や県警本部をはじめとした公的機関・公共施設が集積していることで、行政サービスにおける利便性も高い。まさに至れり尽くせりのエリアといったところだ。

 ただし吉塚エリアは、さまざまな機能が集積した市内でもかなり重要なエリアだと思われる一方で、実は福岡市の「第10次基本計画」においては、「広域拠点」や「地域拠点」「魅力・活力創造拠点」などの重要な拠点としては位置付けられていない。もちろん天神・博多などの都心部としても位置付けられておらず、基本計画上では現状、宙ぶらりんな“空白地”となっている。

 なお、福岡市の住民基本台帳に基づく公称町別の人口および世帯数では、吉塚エリア(吉塚1~8丁目、千代1~5丁目、東公園、吉塚本町、堅粕1~4丁目、馬出1~6丁目)は25年12月末現在で、人口4万6,450人・3万1,140世帯となっている。単純計算で1世帯あたり1.49人となっており、エリア内では単身者の割合がかなり多いようだ。過去のデータから比較すると、10年前の15年12月末時点では人口4万2,814人・2万6,307世帯、20年前の05年12月末時点では人口3万6,336人・2万742世帯となっており、この20年間で人口および世帯数とも約1万人/世帯ずつ増加していることになる。ただし、この人口および世帯数は日本人を対象にしたもので、外国人を公称町別に集計したデータはない。そのため外国人を含めれば、吉塚エリアはさらに相当数の人口・世帯数を抱えていることになる。

【坂田憲治】

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