九州・福岡は国内外に例がない木造建築物普及のポテンシャル

福岡県木造建築フォーラム2026

 「福岡県木造建築フォーラム2026」が1月13日、開催された。ゼネコンやデベロッパー、製材、金融機関、団体、行政において、最前線で木造模建築物(木造非住宅)の普及に取り組んでいる関係者が一堂に参集。それぞれの立場から最新動向が紹介され、普及の可能性に関する意見が交わされた。そのなかで指摘されたのは、川上(林業など)、川中(製材業など)、川下(建設事業者、消費者など)を通じた九州・福岡のポテンシャルの高さで、これまでにない新たな構想も披露された。

環境負荷低減と
資源循環を両立がカギ

 フォーラムは昨年に続く2回目で、今回は会場とオンラインでの開催となった。テーマは「木材利用の最新動向と九州における木造ビルの普及」。中高層建築で主流となりつつある、CLTによる建築物の普及が中心的な議題となった。冒頭で挨拶した服部誠太郎・福岡県知事は、「我々はカーボンニュートラルの実現に向け、さまざまな取り組みを展開しております。『建築物の木造化』は、環境負荷の低減と地域資源の循環を両立させる極めて重要なカギとなり、木材の地産地消、林業振興、森林保全の観点から非常に意義深いと考えております」と述べた。

林業の振興につなげられるかも課題の1つだ
林業の振興につなげられるかも課題の1つだ

    その後、基調講演が行われ、第1弾として「大規模建築物での木材利用の最新動向」というテーマで、三菱地所(株)の関連事業推進部長兼木造木質化事業推進室長である松本晃氏と、そのグループ会社でMEC Industry(株)(鹿児島県姶良郡湧水町)の代表取締役社長・森下喜隆氏が登壇した。松本氏は、「建設業界では、脱炭素社会の実現に向けた木造・木質化が大きな潮流となっています。大規模再開発を数多く手がける三菱地所グループは、都市部における木材利用を戦略的に推進しており、その最前線には川上(原木調達)から川下(建築・運営)までを一気通貫で担う独自の体制があります」と述べた。

 2027年5月に開業予定の「(仮称)天神1-7計画(イムズビル建替計画)」についても言及。事業計画に加え、外装材に九州産材から製造したCLTルーバー材を約466m3を使用することなどに言及した。ルーバーはMEC Industryが供給するもの。森下氏は「大径木(スギ・ヒノキ)を使用し、約1,300本におよぶルーバーは1本ごとに角度や厚みが異なる緻密な設計となっています。これにより、日射量を約40%低減すると同時に、都市のなかに樹皮のような有機的な表情を生み出し、アルミ材のルーバーと比較して製造・運搬時のCO₂排出量を約10分の1に抑える計画です」などと語った。

 基調講演の第2弾では、銘建工業(株)(岡山県真庭市)の代表取締役社長・中島浩一郎氏が「脱炭素社会時代における木造建築の可能性」というテーマで講演した。(一社)日本CLT協会代表理事でもある中島氏はCLTの特徴として、①短工期、②高強度と軽量の両立、③耐震性の高さ、④難燃性、⑤保温・調湿性、⑥炭素固定量の多さなどを挙げた。そのうえで、中島氏は「木造建築は、大気中の二酸化炭素を固定したまま都市に貯蔵する都市の森林としての役割をはたすと同時に、製造工程で出る端材や皮を木質バイオマス発電の燃料として活用することで、無駄のないエネルギー循環を実現できる」と述べた。

 加えて、「岡山県真庭市で当社と地域が共同で取り組んでいるバイオマス発電事業では、地域内の木材を発電燃料として買い取ることで、年間約4億円が山側に還元されています。これまで産業廃棄物として扱われてきた端材に価値がつくことで、森林整備を進め、地域経済が活性化する経済と環境の循環こそが、脱炭素社会の基盤となるのではないでしょうか」と述べた。

超近接型の利点生かす「ウッドシティ」構想

 その後のパネルディスカッションは、「九州における中高層建築物の木造化の実現に向けて」というテーマで行われた。パネリストは、(株)竹中工務店・参与で木造木質建築統括(日本ウッドデザイン協会代表理事)の松崎裕之氏、(株)大匠建設・代表取締役社長・井上真一氏、(株)佐賀銀行・地域支援部副部長・稲富英夫氏、(一社)九州経済連合会地域共創部担当部長・西山宏人氏、福岡県農林水産部林業振興課長・奈須敏雄氏であった。

 中大規模木造建築物の普及状況について、竹中工務店の松崎氏は「当社では現在工事中のものを含め、主要な木造プロジェクトはすでに40件以上に達しています。数年前までは木造ビルといえば特殊な実験的試みという印象がありましたが、今や用途も規模も多様化し、完全に実用期に入ったといえます。とくに当社の物件に多いRC造・鉄骨造とのハイブリッド構造は、適材適所に木材を配置することで、コストと性能(耐火・耐震)のバランスを確保することに適しています」などと述べた。

 また、九州の優位性について、「全国有数の林産地でありながら、福岡というアジアの玄関口となる大消費地を抱え、森と都市がこれほど近接しているエリアは、世界的に見ても稀。この超近接型の利点を生かせば、輸送コストやCO₂排出を最小限に抑えた、圧倒的に効率の良いバリューチェーンが構築できます。九州独自の循環モデルを構築し、国内外に日本の木造技術を訴求する生きたショールームをつくることが可能です。このことから、福岡を『ウッドシティ』という一種の特区と位置づけ、街全体で木造化を推進するプロジェクトを展開し、最新の木造建築が立ち並ぶエリアを実現することで、世界中から視察が訪れるまちにできるのではないか」との構想を披露した。

竹中工務店の「警固竹友寮」(福岡市中央区)
竹中工務店の「警固竹友寮」(福岡市中央区)

LCCの観点から木材には優位性がある

 大匠建設の井上氏は、「当社はCLT工法に17年から取り組み、自社ビル(3階建、那珂川市)は福岡県におけるCLT工法の第1号です。私が木造にこだわる理由は、2011年の東日本大震災を経て、環境経営の重要性を痛感したからです。温暖化対策はもはや避けて通れない課題」と述べ、本社や工場の電力はすべて再生可能エネルギーで賄い、営業車もすべて電気自動車に切り替えていることを紹介した。加えて、17年の九州北部豪雨では、朝倉市の現場で伐採適期を過ぎた高経年の人工林が流木となり大被害を出したことに触れ、「山が適切に管理され、循環していないことが災害を助長していますが、そうした状況でありながら、住宅産業全体の国産材利用率は4割程度に過ぎず、多くを輸入材に頼っています。この歪な構造を変えるには、大規模な非住宅建築で大量の木材を使う出口をつくらなければなりません。川上から川下まで木材がスムーズに流れる仕組みをつくること。それにより環境を破壊するのではなく、再生する業界へと進化すべきです」と語った。

 また、井上氏はコスト面についても言及。「今、鉄やコンクリートの価格は世界的に高騰しています。対して国産材の活用は、LCC(ライフサイクルコスト)の観点で見れば、非常に有利です。RC造の解体には莫大なコストと廃棄物が発生しますが、木造はチップにしてエネルギーに変えられます。当社では、施主に必ずCLT建築物の解体手順書を渡すようにしていますが、これは100年後、自分たちの孫の代に、この建物がどう価値を引き継ぐのか、壊すときのことまで配慮するためです」とも付け加えていた。

法定耐用年数の壁をどう克服するか

 木造建築物の普及には、融資の促進など金融機関の役割に期待が寄せられる。佐賀銀行の稲富氏は「我々は2年前から、ESG地域金融の観点で地域の木材サプライチェーン構築支援に取り組んでいます。実際にサプライチェーンに関わる方々へ聞き取りを行ってわかったのは、九州、とくに佐賀の森林資源の圧倒的なポテンシャルです。たとえば佐賀県の人工林蓄積率は全国1位であり、まさに宝の山を抱えている状態です」と語った。その一方で、銀行融資という実務の場では、「法定耐用年数」の壁が立ちはだかっていることを指摘。「木造ビルの法定耐用年数は22年。RC造の47年に比べると、半分以下です。銀行は基本的に耐用年数内で融資期間を設定するため、返済期間が短くなり、事業者のキャッシュフローを圧迫してしまう可能性があり、これが木造化を阻む大きな要因」と話した。

 ただ、「国交省が経済的耐用年数を客観的に評価するガイドラインを出したことで、風向きは変わりつつあります。耐用年数が22年であっても、適切にメンテナンスされた木造ビルの資産価値はもっと長く維持される。金融機関側も、法定耐用年数に縛られるのではなく、建物の実質的な耐久性や、その建物が生み出す環境価値を評価する方向にシフトしなければなりません」と述べた。そのうえで「佐賀銀行では2030年までに3,000億円というサステナブルファイナンスの目標を掲げています。当行でも箱崎支店の建替えや研修所の新設において、CLTを全面的に採用した木造化を計画しています。北部九州にもCLT工場を誘致し、一大循環拠点をつくる構想がありますが、これを金融の立場から支援していきたいと考えています」と話した。

建設支援チームを発足し普及を推進

 九州経済連合会は、九経連加盟企業約1,000社に対し、「モクビル研究会」の活動などを通じて木造化の啓蒙活動を行っている。西山氏は現状について、「企業オーナーは総論としては木造化に賛成されますが、いざ自社ビルとなると、『強度は大丈夫なのか』『コスト(費用対効果)はどうなっているのか』『メンテナンス上の問題点はないのか』といった不安が先行しているのが現状で、この心理的な壁を壊すのが私たちの役割です。九州の木材生産量は日本の約4割を占めており、この豊かな資源を使わない手はありません、事業主の不安を払拭するための相談支援チームを組織しており、どこに頼めばいいかわからない、などという声に応え、設計から調達、金融までをつなぐハブとしての役割を担っています」と報告した。加えて、高層ビルなどと並行して、低層(平屋~3階建程度)の事務所、店舗、倉庫といった裾野の広い非住宅を木造化していく努力が必要とも指摘。「地元の木を、地元の工務店が使い、地元の銀行が支える。この当たり前の循環を九州から全国へ、そして世界へ発信していきたい」と強調した。

 福岡県林業振興課の奈須氏は、福岡県は人工林率が64%と全国2位の規模を誇り、スギやヒノキが、今まさに「使い時」であることを紹介。「住宅分野での木造率はすでに8割を超えていますが、4階建以上の中高層建築物は1%にも満たない、ほぼゼロに近い状態です。人口減少にともない、住宅市場が縮小していくのは避けられません。林業を維持し、山を守るためには、この中高層・非住宅という未開拓市場に木材を送り込むことが不可欠です」と述べた。そのうえで、製材工場の設備近代化を支援し、中高層ビルに使える強度のある木材の安定供給体制を整備。木造ビルの設計には、高度な耐火・構造計算の知識が必要となることから、県では専門の養成講座を開設し、この3年間で130名の一級建築士を「木造ビルのスペシャリスト」として輩出してきたことを挙げ、今後は県境を越えた流通網の整備や、制度面での後押しをさらに加速させることを表明した。

【図】用途・階層別・構造別の新築着工建築物の床面積

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 銘建工業の中島氏は、「大阪万博は1970年開催時、木造建築物は1棟のみ(ブリティッシュ・コロンビア州館)だったが、25年開催のそれでは日本館を含め多くの建物が木造となり、このことから時代の変化を強く感じた」と感慨深げに述べていた。つい10年ほど前には、「木造建築物でビルを建てる」ことに多くの人々が懐疑的だったが、フォーラムで語られているように、それは当たり前のこととして認識されるようになった。それを表すように、フォーラム会場には定員いっぱいに聴衆が集い、講師の話に熱心に耳を傾ける様子が印象的だった。木造建築物の普及は、これまで首都圏を中心に進んできたが、いよいよ九州・福岡県においても本格的に動き出すという、そんな機運が感じられた。

【田中直輝】

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