ヒューマノイドの普及が変える「近い未来」の住まいと暮らし

ヒューマノイドが暮らしをサポートする世界が現実味を帯び始めている
ヒューマノイドが暮らしをサポートする世界が現実味を帯び始めている

 住まいと暮らしの注目トレンドの1つに、「スマートホーム」がある。家電や住宅設備をインターネットに接続して制御し、暮らしを快適かつ便利にする技術であるが、これまでは国内外においてあまり普及していなかった。しかし、AI技術の進展を背景に、状況が変わろうとしている。なかでも、「ヒューマノイド」の普及が現実味を帯び始めており、それによってスマートホームの普及が加速するものと見られる。それは、「近い将来の住まいと暮らし」を予見させるものであるため、ここでこれまでの経緯や最新の動向を確認したい。

スマートホームの普及が加速する公算

 2026年1月6日から9日にかけて、米国ネバダ州ラスベガスで「CES(コンシューマー・エレクトロニクス・ショー)2026」が開催された。50年以上の歴史をもつCESは、かつてはテレビやオーディオ、白物家電といった家電製品の世界最大規模の見本市として知られてきたが、現在ではその枠組みを大きく超えている。IT、自動車、ヘルスケア、エネルギー、セキュリティ、都市インフラまで、あらゆる産業が交差する「未来社会の縮図」としての性格を年々強めている。

 CES2026において、とりわけ注目を集めた分野の1つが「スマートホーム」であった。ただし、その焦点は従来の延長線上にある家電のIoT化やアプリ連携といった話題にとどまらない。より重要なのは、住まいと暮らしのなかにヒューマノイド(人型ロボット)が入り込む可能性が、現実的な技術として示された点である。

 スマートホームとは、家電や住宅設備をインターネットに接続し、スマートフォンやタブレット、スマートスピーカーなどを通じて制御・管理する仕組みを指す。照明やエアコン、給湯器、玄関錠、防犯カメラなどを一元的に操作できることが売り文句であり、2010年代には大きな期待を集めた。とくに転機となったのが、スマートスピーカーの普及である。音声アシスタントの登場により、「声で家電を操作する」という体験が一気に身近なものとなった。

 しかし、その後の普及は当初の期待ほど進まなかった。最大の理由は、導入および運用の煩雑さにある。家電や設備ごとにアプリや設定方法が異なり、Wi-Fi接続や初期設定をユーザー自身が行う必要がある。場合によっては専門業者への依頼が必要となり、結果としてコストもかさむ。こうしたハードルの高さから、日常的に活用される機能は、防犯や見守り用途などの一部に限定されてきた。

スマートホーム化のためにはセンサーなど専用機器が必要だった
スマートホーム化のためには
センサーなど専用機器が必要だった

    もう1つの要因が、「できること」と「やりたいこと」の乖離である。スマートフォンで照明を操作できても、壁のスイッチを押すほうが早い。外出先からエアコンを操作できる利便性は評価されるものの、生活全体を変えるほどのインパクトには至らなかった。スマートホームは技術的には着実に進化してきたが、生活者の実感としては「なくても困らない存在」にとどまっていたのである。

「なくてはならない」存在になる

 こうした停滞感を打ち破る存在として浮上したのが、ヒューマノイドである。CES2026の会場では、単なるデモンストレーションの域を超え、家庭内での具体的な役割を想定した展示が目立った。ヒューマノイドが注目される理由は、シンプルだ。住宅そのものが、人間の身体構造と動作を前提に設計されているという事実にある。ドアノブの高さ、スイッチの位置、家具の寸法、調理台の高さといった住空間の構成要素は、すべて人間基準でつくられている。

 これまでのロボットは、特定の用途に特化したものが中心だった。掃除ロボットは床上しか動けず、ロボットアームは工場内での作業に限定される。一方、ヒューマノイドは人間と同じ形状をもつことで、既存の住環境を大きく改修することなく活用できる点が最大の特徴である。たとえば、スマートホームには以前からカーテンを自動開閉するという発想があったが、その機能を導入するには専用機器の設置が必要で、高額な費用がかかるケースが多かった。ヒューマノイドであれば、人間と同じようにカーテンを開け閉めするだけで済み、専用器具は不要となる。

カーテンの開閉をスマホで操作する様子
カーテンの開閉をスマホで操作する様子

    ヒューマノイドは、従来以上に高度なAI技術を前提とする。音声アシスタント機能も包含するが、「あれを取って」といった曖昧な指示に対し、ユーザーの視線や指差した方向、過去の行動パターンなどを統合的に解析し、「テーブルの上の青い薬瓶をもってくる」といった具体的な行動へと落とし込む。もはや決まった呼びかけを必要とせず、AIがカメラなどを通じて住人の意図を先読みできる点に、大きな進化がある。

数百万円の導入価格も
インパクトの1つ

 CES2026では、ヒューマノイドとスマートホームの具体像も示された。LG(LG Electronics)は「LG CLOiD」を公開し、「Zero Labor Home(家事ゼロ)」構想の中核として位置付けた。洗濯機への投入から乾燥後の畳み、積み上げまでを含む洗濯工程の自動化や、冷蔵庫整理・キッチン補助、同社のスマートホーム基盤「ThinQ」と連動した家電横断型の家事実行などを想定している。一方、SwitchBotは「Onero H1」を披露。つまみ作業によるコーヒーマシンの操作や洗濯物の整理といった家事に加え、既存のエコシステムと組み合わせることで、カーテンやロック、空調制御など操作対象を拡張する構想を示した。

 両者に共通するのが、洗濯に関わる作業である。とくに洗濯後の「畳む」「積み上げる」といった工程は、時間と手間がかかるうえ自動化が難しく、家事の時短が進みにくい分野とされてきた。ヒューマノイドは、人間と同様の動作でこれらを担うことができるため、作業効率化の効果は大きい。かつて日本では「三種の神器」が暮らしの効率を大きく高めたように、ヒューマノイドの普及はそれに匹敵、あるいはそれ以上のインパクトをもたらす可能性がある。

洗濯物を畳むヒューマノイドのイメージ
洗濯物を畳むヒューマノイドのイメージ

 なお、TeslaはCES2026には出展していなかったものの、会期中、イーロン・マスク氏がSNS上で積極的に発信し、ロボット革命やAGI(汎用人工知能)の爆発的普及において2026年を「元年」と位置付ける発言を行っていた。とくに「Tesla Optimus Gen 3」の量産開始を予告し、価格を2~3万ドル程度に抑える目標を示した点は注目される。SwitchBotも1万ドル未満の価格構想を打ち出しており、日本円で数百万円規模での供給が視野に入ってきたことが、今後の普及を後押しする要因となりそうだ。

ヒューマノイドと
共存する住宅の必要性

 ヒューマノイドの普及は、住宅産業にも大きな影響をおよぼす可能性がある。これまでハウスメーカーや設備メーカーは、「人が操作しやすい住宅」を追求してきた。しかし今後は、「人と新たな技術が共存しやすい住宅」という設計思想も求められることになる。住宅内部では、ヒューマノイドの動線を前提とした設計が重要となる。段差のない床構成や廊下幅、開口部寸法の標準化は、バリアフリーの延長線上にありながら、機械が安定して動作するための合理的構造でもある。家具配置や収納についても、人の使いやすさだけでなく、ロボットによる把持や運搬、清掃を前提に再設計される可能性が高い。

 さらに、物流分野の人材不足を背景に、今後はドローンによる配達が本格化すると見られる。これにより、住宅の敷地や建物の形状、配置にも影響がおよぶ可能性がある。屋根やバルコニー、外壁には、配達や点検、災害時支援を想定した離着陸スペースや誘導設備が組み込まれ、住宅は単なる私的空間から、地域インフラとしての性格を強めていく。郵便受けや宅配ボックスも、地上設置型から立体的・空中接続型へと進化することが考えられる。

 加えて重要なのが、住宅が「情報を扱う建築」へと変貌する点である。ヒューマノイドやドローンを制御する通信環境、各種センサー、エネルギー管理は、構造や設備と不可分の要素となる。住宅は完成時点で完結する商品ではなく、ソフトウェア更新や機能追加を前提とした拡張可能な器へと変わっていく。最先端技術の導入は利便性向上にとどまらず、人間中心主義から人と機械が共存する環境設計への転換を迫り、住宅の思想そのものを問い直す契機となる。

● ● ●

 スマートホームという概念が一般化し始めて約10年。ヒューマノイドが単なる未来技術ではないことが示されたことで、スマートホームの次の主役となる現実味が急速に高まっている。これまで断片的に存在していたスマート家電や住宅設備を、人型ロボットが束ねることで、初めて「暮らし全体」を変える力が生まれつつある。スマートホームの本質は、機器の高度化ではなく、生活体験の変革にある。その意味で、ヒューマノイドの登場は、長らく停滞していたスマートハウス市場を動かす起点となるだろう。家のなかにロボットがいる風景は、もはやSFとして距離を置いて語られる時代ではなくなりつつある。

【田中直輝】

月刊まちづくりに記事を書きませんか?

福岡のまちに関すること、建設・不動産業界に関すること、再開発に関することなどをテーマにオリジナル記事を執筆いただける方を募集しております。

記事の内容は、インタビュー、エリア紹介、業界の課題、統計情報の分析などです。詳しくは掲載実績をご参照ください。

記事の企画から取材、写真撮影、執筆までできる方を募集しております。また、こちらから内容をオーダーすることもございます。報酬は別途ご相談。
現在、業界に身を置いている方や趣味で建築、土木、設計、再開発に興味がある方なども大歓迎です。
また、業界経験のある方や研究者の方であれば、例えば下記のような記事企画も募集しております。
・よりよい建物をつくるために不要な法令
・まちの景観を美しくするために必要な規制
・芸術と都市開発の歴史
・日本の土木工事の歴史(連載企画)

ご応募いただける場合は、こちらまで。不明点ございましたらお気軽にお問い合わせください。
(返信にお時間いただく可能性がございます)

関連記事