(株)アネシス
総合建設事業部 TOKUKENグループ
執行役員 丸山卓哉 氏
熊本県を中心に、新築戸建事業やリフォーム事業を展開するハウスビルダーの(株)アネシス。近年は木造非住宅(事務所や店舗、倉庫、工場など)の供給にも、積極的に取り組んでいる。特徴は、住宅事業で培ったノウハウやサプライチェーンなどのバックボーンを強みとし、注力する分野を福祉・医療に関わる事業所を中心としていることで、熊本地域における木造非住宅普及の牽引役となっている。
背景に木造の環境変化
(株)アネシスは設立から約30年、「アフターメンテナンス日本一」を旗印にし、熊本県内や福岡都市圏において戸建住宅事業(注文住宅・分譲住宅)を軸に、リフォーム・アフターメンテナンスに積極的に取り組んできた企業だ。リフォーム事業を含めた累計オーナー数は、約4,500件にのぼる。また、バリアフリー住宅や介護リフォームに特化したブランド「ひとやね」も展開。このように、これまでは一般消費者の「暮らし」を対象とした住宅メインの事業を展開してきた企業でもある。加えて、近年は法人を対象とした「非住宅建築物」の木造化という新たな領域に対し、積極的なアプローチを仕掛けている。
同社が木造非住宅の展開を強化している背景には、住宅を取り巻く劇的な環境変化が存在する。非住宅とは、店舗や事務所、倉庫、福祉施設、教育施設といった住宅以外の建築物を指すが、これらは長年、耐火性能や構造強度の観点から、鉄骨造(S造)や鉄筋コンクリート造(RC造)で建てられることが一般的だった。しかし、2019年の建築基準法改正で、耐火・準耐火建築物における技術的選択肢が大幅に拡充され、それまで法的なハードルが高かった中大規模建築の木造化を後押しする法制度の整備と規制緩和が加速。これを受けて、まずはシンボリックな公共施設などで木造化の波が広がり、現在では民間においても都市部の高層ビルを木造、あるいは木質ハイブリッド構造で建設する計画が各地で散見されるまでになっている。
ただし、こうした大規模木造建築には課題も多い。特殊な建設技術や製造工程を要するCLT、大断面集成材といった高価な木質部材を多用せねばならず、建設主体の多くは大手ゼネコンに限定されてきた。結果として、建設コストが従来のS造やRC造を下回ることは難しく、普及面では依然としてハードルが残っていた。こうした状況下で「木造化」を社会により浸透させるために注目されているのが、地域事業者が主導する「低層非住宅」の普及。アネシスが進める木造非住宅への取り組みは、地域密着型の低層木造建築の普及において代表的な事例といえるだろう。
経済的な合理性も
低層非住宅を木造で建設することには、経済的な合理性が数多く存在する。まず挙げられるのが、施工費用の削減効果。木造は、S造やRC造に比べて建物自体の重量が大幅に軽いため、地盤改良工事や基礎工事にかかる作業負担を小さく抑えることができる。さらに、プレカット技術の活用により現場での工期を短縮することが可能となり、それが直接的に人件費の圧縮につながる。とくに低層の物件においては、住宅供給で培った既存の技術ノウハウやサプライチェーンを延長線上で活用できるため、地場のビルダーや設計者にとって参入障壁が低いという側面がある。これは、地域内で資材と技術が循環する「地域完結型」の事業モデルとして、現実的かつ持続可能な選択肢だ。
加えて、脱炭素社会の実現やESG経営も追い風となっている。資材を製造・加工する際のエネルギー消費量も、鋼材やアルミニウム、コンクリートに比べて圧倒的に少ない。こうした環境価値が評価されるようになったことで、建築主となる企業側にも「木を使う建築自体が、自社の企業価値やブランドイメージを高める」という共通認識が浸透しつつあるのだ。
アネシスはこうした時代の要請に応えるべく、2023年に非住宅建築の専門部署「TOKUKEN」を立ち上げた。住宅供給において用いる一般流通材と施工技術を非住宅にも活用することで、高品質かつ低コストの低層木造建築を供給。同社が提示するコストメリットの比較【図】は、競合する他工法との差別化を明確にしている。
同社執行役員・丸山卓哉氏は、現在の市場をこう分析する。「多くの建築主は、今なお非住宅といえばRC造やS造を第一選択肢として考えられます。しかし、近年の急激な材料高騰や人件費上昇により、当初の想定予算を大幅に超過してしまう事例が後を絶ちません。そこで、コストパフォーマンスを重視して木造に目を向ける流れが確実に生まれています。しかし、木造の魅力は単なる安さだけではありません。設計の自由度の高さ、木の温もりや質感を生かした内装デザインなどは、とくに店舗や学童施設といった場所で、オーナーさまから高い評価をいただいています」。
総合建設事業部 TOKUKENグループ
執行役員 丸山卓哉 氏
非住宅の建築主は、住宅のそれとは異なり、デザイン性を重視しているわけではない。より重要なのは、事業を継続していくうえでのイニシャルコスト(建設費)とランニングコスト(維持費)のバランスであり、どれだけ効率的に機能するかという点にある。単なる「安価な木造」ではなく、「品質が担保され、将来にわたって維持管理が行われる木造」という総合力こそが、アネシスが非住宅事業を成長させている理由の1つなのだ。
金融機関に働きかけ
現在、同社の非住宅事業において中心的なニーズとなっているのが、介護・福祉関連の施設や店舗である。「介護・福祉施設の需要は底堅く、あるいは増加傾向にあり、これまで重厚なS造などで建てられていたこれらの施設を、木造へ切り替えることでコストメリットを確保しようとする事業者は多いのです」(丸山氏)。そこで構造見学会などを開催することで、医療・福祉系の法人に訴求している。
ここで大きなアドバンテージとなっているのが、前述した介護リフォームブランド「ひとやね」の存在だ。高齢者や障害を持つ人々の住環境改善に特化した同事業と、中大規模木造を手がける部署が緊密に連携することで、単なる「箱」としての建築を超えた提案が可能になる。「実際にそこで暮らし、運営する人々のリアルなニーズや現場の困りごとを、設計段階から反映できることが我々の強みです」と丸山氏は語る。グループホームなどの運営現場から吸い上げた細かな改善点やノウハウをプランニングに落とし込む姿勢は、スペック競争に陥りがちな他社との明確な差別化ポイントとなっている。
加えて、丸山氏をはじめとするメンバーは、地元の金融機関にも自ら足を運び、勉強会などを実施している。「木造非住宅でどのような建物が実現可能なのか、施主にとってのコストメリットはどこにあるのかなどの情報を丁寧に提供し続けることで、金融機関側の理解を深めています。その結果、金融機関の担当者が自身の抱えるオーナーや地主に対して、当社の木造建築という選択肢を提案していただけるようになっています」(丸山氏)。
アネシスは川下の建設だけでなく、川上の林業との関係性も重視している。同社は熊本県と「県産材の利用促進に関する協定」を締結している企業でもあり、地域の森林資源の活用を推進。林業従事者が直面する厳しい現状や、「地域の木をもっと活用してほしい」という切実な声を直接受け止め、地域産材の活用を推進してきた。こうした地産地消の取り組みは、昨今のSDGs宣言を行う企業にとっても非常に親和性が高く、構造見学会への参加呼びかけに対しても、環境意識の高い企業経営者が高い関心を示すケースが増えているという。
台湾企業のオフィス竣工
ところで現在、熊本県内では大手半導体工場の進出を契機に、台湾をはじめとする海外事業者との交流が盛んになっている。同社も台湾に現地法人を設立するなどし、台湾企業の進出をサポートしている。その具体的な成果として25年9月、熊本県菊池郡大津町に木造2階建てのシェアオフィス「趨勢ビジネスセンター熊本」を竣工、オープンさせた。このプロジェクトは、台湾のコンサルティング企業である趨勢コンサルティング合同会社をオーナーとし、1階をシェアオフィス2階をテナントオフィスとする構成だ。
設計にあたっては、住宅設計のノウハウを活用。オーナーとの対話を重ね、数多くの間取りや外観パターンを提案することで、台湾側の独自の価値観や美意識を反映させた「台湾仕様」のオフィスを実現した。開放感あふれる大きな窓、洗練されたモダンな内装、多様な働き方に対応するフレキシブルな空間設計となっている。オープニングセレモニーには、日台の金融機関や行政関係者が多数参列し、「日台交流の拠点・情報発信の場」としての大きな期待が寄せられた。
日本の住宅市場は今後、超少子高齢化社会の進展にともない、新設住宅着工戸数の減少が避けられない厳しい局面を迎える。そうしたなかで、住宅事業で培ったノウハウを武器に、参入障壁のあった非住宅分野へと果敢に挑戦するアネシスの姿勢は、他の地域ビルダーにとっても今後の事業展開について示唆するものがあるはずだ。
【田中直輝】
<COMPANY INFORMATION>
代 表:加藤龍也
所在地:熊本市東区長嶺南8-8-55
設 立:1994年7月
資本金:3,000万円
TEL:096-388-1822
URL:https://www.anesis.co.jp/
<PROFILE>
丸山卓哉(まるやま・たくや)
佐賀大学を卒業後、(株)アネシスに入社。現場監督を経て、分譲・注文住宅営業へ。その後営業マネジメントを経験し同グループの(株)リリーフへ異動。リフォームの経験を積み2024年2月より現在のアネシスの総合建設事業部へ。現在は、非住宅事業の認知・事業拡大に向けた営業活動を中心に行っている。

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