【特集】西部ガスHD傘下の九州八重洲 告発文書が表面化させた社内体制の混乱

 西部ガスホールディングス(株)(以下、西部ガスHD)が事業多角化の一環としてグループに迎え入れた企業の1社に、九州八重洲(株)がある。現在の九州八重洲は、経営陣を弾劾する告発文書が外部に流出するなど、社内体制の混乱が表面化している。

地場老舗ハウスビルダー

 九州八重洲(株)の母体は、東京都江東区に本社を構える八重洲興業(株)。1965年、福岡第1号となる住宅分譲事業に着手して以降、同社は福岡都市圏での住宅供給を積み重ねてきた。その流れのなかで、77年に九州八重洲興業(株)として分離独立し、福岡エリアに特化した事業体制を固めた。2008年にはM&Aによって西部ガスグループ入りした。

 福岡進出後の事業が60年超におよぶため、「地場老舗ハウスビルダー」と位置づけられる。事業内容は戸建事業(注文・分譲)を柱に、賃貸マンション事業、さらにはフィリピンでの海外事業へと広がっている。なかでも戸建事業は、年間供給棟数を約50棟にあえて限定し、顧客ニーズや満足度を重視した質の高い住まいづくりとアフターサービスを強みとしてきた。こうした姿からは、「大量供給よりも品質と顧客との関係性を重んじるハウスビルダー」というイメージが定着している。

 告発文書は、25年12月4日付で当社データ・マックスに郵送され、その後26年1月8日には第2便も届いている。発信者名は「九州八重洲有志一同」、宛名は親会社である西部ガスHDの「代表取締役会長 道長幸典様、代表取締役社長 加藤卓二様」となっており、現経営陣と企業の持続可能性に対する強い危機感がにじむ内容だ。文書の主たる主張は「深刻な人材流出」「組織の弱体化」「経営陣のビジョンの欠如」に集約される。

告発文書の冒頭ページ
告発文書の冒頭ページ

3分の1の社員が退職

 まず人材流出について、同社は社員数40名弱の中小規模企業だが、直近で退職(予定を含む)している人数は14名におよぶとされる。内訳は国内9名、海外5人で、全員が20~30代の若手社員だという。退職理由として文書は、「社長や取締役についていけない」「九州八重洲に将来性がない」「ビジョンがない」「八重洲のよいところが改悪され働きがいがない」などとしている。単純計算で全社員の約3分の1が退職する規模であり、これは組織運営に深刻な影響を与えかねない数字だ。告発文書は、この人材流出がそのまま「組織の弱体化」につながっていると指摘する。

 文書は九州八重洲の強みとして、①「戸建用地の仕入力」、②「裁判や瑕疵につながる住宅を建てない施工力(クレームの少なさ)」、③「上場企業の子会社でありながら、独自路線でアットホームかつ迅速な対応ができる社員」の3点を挙げつつ、「①と③はすでに崩壊し、この1年間で建築部員の半数が退職するため②も風前の灯火です」と危機感を露わにしている。さらに文書は、「経営陣にビジョンが欠如している」と強く批判する。25年には組織変更が3度行われたが、部署変更は社員のモチベーション向上に結びつかず、結果として社内の風通しや意思決定のスピードを悪化させたとされる。土地仕入れや商品企画力、販売目標の設定などもずさんになり、業績低迷につながっていると指摘している。

 ここで九州八重洲の既往業績を確認しておく。まず、23年3月期(以下すべて3月期)には大規模な土地販売があったことで売上高が一時的に拡大した。また、24年期に大幅な当期赤字となったのは、棚卸資産の見直しにともなう特別損失4億3,000万円を計上したためである。このような特殊要因がなかった21年期、22年期は売上高が40億円規模であったが、25年期に売上高が33億円まで落ち込み、当期利益は5,265万円にとどまるなど収益力が低下しつつある状況が見て取れる。

 告発文書では、このほか施工を担当する協力会社へのしわ寄せや、経営陣のコンプライアンス、さらには西部ガスHDによるガバナンスの在り方などについても、生々しい記述が続く。すべてを紹介することはできないが、「九州八重洲有志一同」と名乗る社員らの切実さと危機感が凝縮された文書となっている。

業績

重く受け止める園田社長

 当社は告発文書の入手を受け、九州八重洲の園田一史社長に話を聞いた。園田氏は西部ガスHDの事業開発部長を経て、24年4月1日付で同社の代表取締役社長に就任している。まず告発文書の存在について聞いたところ、「内容を重く受け止めており、自らのコミュニケーション不足やビジョンの発信不足を反省している」と述べたうえで、「文書を受けてホールディングスが全社員へのヒアリングを実施しており、そのフィードバックを踏まえ改善を進める」としている。

 人材流出については、「直近1年間で14名もの社員が離職(予定含む)しているのは事実で、社員数30~40名規模の会社としては非常に大きな数字」と認めた。そのうえで、「離職理由には独立や結婚など個々の事情もあるが、経営陣としてもっと深く対話していれば引き止められた可能性もあった」と語り、自身のマネジメントについても反省を示した。ただし、「過去にも1年で10名以上が辞めた年があり、昨年だけが飛び抜けて多いとは考えていない」とも述べ、今回の流出を「特異な異常事態」とまでは位置づけていない。

 大量離職が業績悪化を招いているのではないか、という問いに対しては、「23年期の売上高65億円は特殊な土地取引によるもので、社長就任前は20~30億円程度だった。就任1年目の25年期は33億円で、26年期も34~35億円を見込んでおり、業績が著しく低迷しているとの認識はない」と反論。また、年間の引き渡し戸数は就任前の36戸から、25・26年期ともに40戸超を見込んでいるとして、「厳しい状況下でもメンバーはよく頑張っている」と現場を評価している。一方で、「社員との対話を通じて“辞めない会社”を目指していたなかでの出来事であり、衝撃を受けている」「残った社員や現場には過度な負荷がかかっており、早急な体制整備が必要」とも語り、組織面の課題の大きさは認めざるを得ない状況だ。

市場縮減傾向のなかでの
親会社のビジョン

園田一史社長
園田一史社長

    住宅市場の構造変化もある。同社は従来、注文住宅(売建)を中心に、顧客の細かな要望に応える住まいづくりを行ってきた。しかし現在は、コストパフォーマンスを重視した分譲住宅(建売)へ、事業の軸足を移そうとしている。告発文書では、このシフトが顧客や協力会社を大切にしてきた企業風土を失わせつつあると批判されている。結果として、九州八重洲の強みの喪失につながり、「経営ビジョンが欠けている」との受け止めが生じているというわけだ。

 これに対し園田社長は、「福岡の市場が縮小傾向にあることを受けた戦略的な判断」と説明する。土地価格や建築費の上昇により、顧客は価格だけでなくタイムパフォーマンスも重視するようになり、そのニーズに応えるかたちで、デザインや性能に力を入れた建売住宅へのシフトを進めているとする。「土地仕入力の低下」への懸念についても、「今期の土地仕入目標に対しては、ほぼ達成できる見込み」としている。また、25年に3度行われた組織変更については、「住宅市場は大きく変化しており、そのなかで失敗を恐れず挑戦する精神で組織づくりをしている」と説明。「今後は自らのミッションを明確に発信し、社員との対話をより重視して取り組みたい」と話している。

新社名決定プロセスに見る
親会社とプロパーの溝

 27年に設立50周年(九州八重洲興業の設立年がベース)を迎える九州八重洲は、この節目に向けて社名変更を検討している。告発文書によれば、新社名はすでに決定済みで、西部ガスグループであることを強く印象づける名称になる予定だという。しかし、文書によると問題はその決め方にある。新社名は社内公募というかたちを取りつつも、実態としては「事前に用意された候補のなかから選ばせる方式」であり、あらかじめ上層部で決めていた社名に誘導する仕組みだったとされる。社員の意見を広く反映したプロセスとは言い難く、「形だけの公募」であったとの不満がにじむ。

 なぜ上層部はこのような手法に至ったのか。その背景には、縮小が見込まれる住宅市場のなかで、グループ名を冠したブランディングを強化したいという狙いがある。西部ガスHDという知名度の高いブランドを前面に出すことで、消費者の関心や信頼を得やすくする―経営側がこうした効果を期待するのは自然な発想といえる。しかし、現場のプロパー社員の受け止めは複雑だ。社名変更自体に反対しているわけではなく、「ブランディング強化の重要性は理解できる」が、その一方で「それに注力するあまり、これまで培ってきた自社の強みを軽視し、失おうとしているのではないか」という懸念が強い。八重洲の名に誇りと愛着をもって働いてきた社員ほど、その危機感は大きいだろう。

 社名変更はあくまで1つの象徴的事例に過ぎない。しかし、社員との十分な対話や共感の醸成を欠いたまま進められる各種施策が、事業のあちこちで混乱を誘発している構図が浮かび上がる。そこにあるのは、「親会社出身の経営陣」と「プロパー社員」との間に横たわる、価値観と視点のズレである。

協力会社も抱く懸念
意思疎通を円滑化できるか

 告発文書では、良質な住まいづくりの根幹となる施工体制への影響も懸念されている。退職者のなかには施工監理者や自社大工も含まれており、現場力の低下が避けられないとの指摘だ。文書の真偽をたしかめるため、ある施工協力会社の関係者に話を聞くと、「親しく仕事をしてきた社員の退職で、作業の段取りがうまく進まないなど、業務にも少なからず影響が出ている」との声が寄せられた。「長年付き合いのある会社で、今後も取引を続けたいが、若い退職者が多いことも含め、将来が心配だ」と懸念を示している。

 住宅会社にとって、協力会社を含めた施工体制は供給する住宅の品質や顧客満足度を支える屋台骨である。現在、多くの住宅事業者は優秀な施工人材や協力会社の確保に躍起になっており、一度失った施工力を取り戻すのは容易ではない。ブランディング強化の重要性は否定できないが、その裏で強みであった施工力が損なわれるのであれば懸念すべき状況だ。

 九州八重洲の混乱の本質は、社内コミュニケーション不足と風通しの悪さにある。その背景には、西部ガスHD出身で親会社の意向を汲もうとする園田氏ら経営陣と、従来から会社を支えてきたプロパー社員が、別々の方向を向いていたことがある。今回の出来事を会社上層部と社員、さらにはホールディングスの関係者の意思疎通を円滑にする契機とできるか。それは九州八重洲にとってはもちろん、西部ガスグループ全体が持続的な成長を目指すうえの試金石になるはずだ。協力会社の関係者や顧客も含めた幅広いステークホルダーを巻き込むことができればなおのこと良い。

【特別取材班】

当社では現在「西部ガスホールディングス研究」を連載している。
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