安心して「経口補水液」を購入できる環境整う~“トイレが近い”男女のための機能性表示食品が誕生へ

2025年は、食品・サプリメントをめぐる制度が大きく動いた年となった。無許可の「経口補水液」が市場から排除され、消費者は国の基準に基づく製品を安心して選べる環境が整った。一方で、機能性表示食品では男女の「トイレが近い」という悩みに初めて正面から応える商品が登場。さらに紅麹問題を受け、サプリメント全般を横断的に規制する新制度の検討も進む。健康食品市場はいま、信頼性と分かりやすさを軸に大きな転換点を迎えている。
無許可の経口補水液を排除
2025年のトピックスの1つに、6月1日から「経口補水液」の規制がスタートしたことがある。経口補水液は、脱水症や熱中症の症状が出たときに利用する。ドラッグストアやスーパーなどで販売されているほか、インターネット通販でも購入できる。
脱水症や熱中症に効果をもたらすためには、ナトリウム・カリウム・ブドウ糖などの配合量をはじめ、ナトリウムと糖の比率、浸透圧が、国の基準を満たす必要がある。成分配合量や浸透圧などが不適切な場合、期待する効果を得られない。ところが、これまで基準を満たさないにもかかわらず、経口補水液とうたったスポーツドリンクなどが出回っていた。消費者にとっては“当たりはずれ”があったわけだ。
そうした状況を改善するため、消費者庁は特別用途食品制度を改正し、23年5月、許可基準型病者用食品に経口補水液を追加。昨年6月1日から、国の許可を得ずに経口補水液とうたった商品の取り締まりがスタートした。現在、問題のある商品は出回っていないとみられる。これにより、消費者にとってはドラッグストアやインターネット通販などで、安心して経口補水液を購入できる環境が整った。
ただし、経口補水液には、大きく分けて2種類ある点に留意しなければならない。許可基準型病者用食品の経口補水液と、個別評価型病者用食品の経口補水液だ。許可基準型は国があらかじめ基準と表示内容を定め、許可を得たうえで商品パッケージに記載できる仕組み。具体的には「感染性胃腸炎による下痢・嘔吐の脱水状態に適する」旨を表示する。
一方、個別評価型では、国の審査を経て、企業が望む表示内容を記載できる。熱中症への対応をうたう経口補水液は、個別評価型のカテゴリーに入る。一例を挙げると、「熱中症、過度の発汗による軽度の脱水時の水・電解質補給に適している」といった表示がある。
商品によって適応できる症状がやや異なるため、購入時には商品パッケージの表示を確認することが大切となる。
大手企業が参入
熱中症、脱水症に対応
現在、どのような経口補水液が販売されているのだろうか。「感染性胃腸炎による下痢・嘔吐の脱水状態に適する」と表示する許可基準型では、(株)明治の「明治アクアサポート」、サントリー食品インターナショナル(株)の「DAKARA経口補水液」、大正製薬(株)の「大正 経口補水液」などがある。「熱中症」や「脱水症」への対応をうたう個別評価型としては、味の素(株)の「アクアソリタ」、日本コカ・コーラ(株)の「アクエリアス経口補水液 ORS」、(株)大塚製薬工場の「オーエスワン(OS-1)」などがあり、アサヒグループ食品(株)は乳幼児用の「アクアライトオーアールエス」を販売している。
このように製造・販売は、大手メーカーや病者用食品で豊富な実績のあるメーカーが手がけ、さらに国の審査を経て市場に出ることから、品質面の信頼性も高い。
経口補水液は熱中症や脱水症で一定の効果が期待できるが、実際に使用した消費者の評価はどうか。関連市場でひと際存在感を示す「OS-1」シリーズを展開している大塚製薬工場に話を聞いた。取材に対し、同社では「脱水症や熱中症を疑う症状が出た際にご利用いただき、役に立ったとお喜びの声をいただいています」(OS-1事業部マーケティング部)と話している。
利用者からは「万博で炎天下に1時間くらい並んでいたところ、脱水症を疑う症状が現れ、その際にOS-1ゼリーが役立った」、「旅先で腹痛、おう吐、下痢をともなう胃腸炎を発症した際、OS-1は口にすることができて助かった」などの声が寄せられているという。
消防庁の発表によると、昨年5月~9月に熱中症によって救急搬送された人は累計で10万人を超えた。調査を開始した08年以降、最多を記録した。前述の通り、現在、国の許可を得ずに経口補水液とうたった商品は市場から排除されている。熱中症や脱水症の症状が出た場合は、医療機関を受診するとともに、ドラッグストアなどですぐに手に入る経口補水液の利用も有効手段となる。今後、消費者間の認知が進むにつれ、経口補水液の市場が拡大すると予想される。
機能性表示食品で初「トイレが近い」男女に朗報
紅麹問題を機に、規制が強化された機能性表示食品。ネガティブな報道が続いてきたが、25年には久しぶりの“朗報”がもたらされた。昨年9月、中高年男女の「トイレが近い」という悩みを緩和する機能性表示食品の届出が公表された。
この八幡物産㈱のサプリメント「やわた ノコギリヤシ」は、男性も対象とした初の排尿関連商品となった。「トイレが近いと感じている中高年男女の日常生活における排尿に行くわずらわしさを緩和する機能がある」と表示できる。
同商品の登場は、業界で大きな話題となった。その理由として、潜在市場の大きさがある。これに加え、機能性表示食品制度がスタートしてからの過去10年間、どの企業も届出で成功しなかったことが挙げられる。
2026年の早い段階で販売開始
まず、潜在市場についてはどうか。(一社)日本排尿機能学会が24年4月に公表した疫学調査の結果から、20~90代の男女(男性3,122人、女性3,088人)の約8割が尿に関する症状を訴えていることがわかった。一番困っている症状として、男女ともに「夜間頻尿」が最多だった。
また、クラシエ薬品㈱が23年11月に発表した「尿トラブルに関する意識調査」(50~70代以上の男女600人)の結果によると、全体の約4割が頻尿を自覚し、年齢が上がるにつれて増加する傾向にあった。これらの調査結果が物語るように、「トイレが近い」というわずらわしさは、今や国民的な悩みの1つで、潜在ニーズの大きさがうかがえる。
次に、どの企業も届出で成功しなかった要因を考察する。これまでに、「トイレが近い」というわずらわしさの緩和をうたう機能性表示食品は販売されてきたが、女性に向けた商品しかなかった。この背景として、男性に対して効果があるというための科学的根拠が不足していたことと、医薬品医療機器等法(薬機法)の“壁”があったという見方がある。
「トイレが近い」という症状は、過活動膀胱の特徴でもあり、女性は加齢が原因となるが、男性の場合、過活動膀胱の原因は前立腺肥大症のケースが大半を占める。疾病のイメージがつきまとうため、とくに男性を対象とした商品は、届出のハードルが高かったと考えられる。
機能性表示食品については、機能性文言の許容範囲を徐々に拡大してきた経緯があり、排尿関連の表示もその1つ。制度がスタートした当初、消費者庁が水面下で業界団体に示したリストで、「疾病の治療効果または予防効果を暗示する表示のため対象外」とされていた。つまり、門前払いの状況にあったわけだ。しかし、20年度に入り、女性向け商品で初めて届出が公表され、今回、男女に向けた商品が登場することになった。
初の男女向け商品となった「やわた ノコギリヤシ」の発売について、取材に対し、同社は「(一般的な健康食品として販売中の)既存商品はすべて機能性表示食品に切り替える」と説明。今年の早い段階で、販売を開始する予定だ。商品コンセプトが「お客さまにわかりやすくなり、広告でも明確になる」と期待を寄せている。
業界では、「免疫機能の維持」の表示が登場して以来の明るい話題となった。中高年男性にとっても、「トイレが近い」という悩みに対応する機能性表示食品の発売は“朗報”となりそうだ。
すべてのサプリメントを横断的に規制
今年の注目点として、サプリメントを対象とした新たな規制の導入がある。紅麹問題を受けて、機能性表示食品と特定保健用食品(トクホ)については、事業者に健康被害情報の報告を義務づけた。これに加え、GMP(適正製造規範)を要件化した。しかし、その他のサプリメント(いわゆる健康食品)については、従来のままで、どの事業者がどの商品を製造・販売しているのかさえも国は把握できずにいる。そうした状況を改善するため、厚生労働省と消費者庁は、機能性表示食品、トクホ、いわゆる健康食品の各サプリメントを横断的に規制する方針だ。
サプリメント全般に対する規制強化は、紅麹問題への対応として、24年5月に関係閣僚会合が取りまとめた報告書に盛り込まれた施策の1つ。これを踏まえ、両省庁は具体策の検討に乗り出した。検討作業のゴールは、(1)事業者による健康被害情報の報告の義務化、(2)GMPの要件化、(3)営業許可・届出制度への位置づけ。健康被害情報の報告の義務化と営業許可・届出制度への位置づけは、厚労省の所管。GMPの要件化は消費者庁が所管している。このため、両省庁が連携して取り組む。
新たな規制を導入するうえで、その対象とするサプリメントとは“何か”を決めることが必要となる。錠剤・カプセル形状の商品は基本的にサプリメントに該当するが、グミ、キャンディー、飲料などはどうか。対象範囲を定めるため、消費者庁は昨年11月27日、新開発食品調査部会を開き、サプリメントの定義について検討を開始した。
業界団体はグミなどを除外するよう求めたが、調査部会の各委員からは「グミ・キャンディー・ゼリーであっても、成分を濃縮したものを入れている場合は注意が必要となる。範囲を小さくしない方がよい」という意見が寄せられた。このため、形状に加え、使用目的、有効性、健康被害発生の可能性も含めたトータルな視点に立ち、検討が進められている。
厚労省も食品衛生監視部会で、事業者による健康被害情報の報告の義務化と、サプリメントの製造や販売の営業許可・届出制度への位置づけについて検討を進めている。
栄養機能食品制度の改正にも注目
栄養機能食品制度の改正も注目される。消費者庁は昨年10月8日、「栄養機能食品に関する検討会」をスタートさせた。今回の改正では、同制度の創設以来、初めて表示内容を見直す。
栄養機能食品は、1日に必要な栄養成分が不足しがちな場合に補給目的で利用する食品。国があらかじめ、栄養成分の配合量(下限値・上限値)と、表示する機能を定めている。届出や許可は不要で、事業者の任意で表示できる。対象成分はビタミン13種類、ミネラル6種類、脂肪酸1種類。たとえば、カルシウムの場合は「カルシウムは、骨や歯の形成に必要な栄養素です」と表示できる。
改正の方向性を見ると、現行の表示内容に「ビタミンCは、腸管での鉄の吸収を助ける栄養素」「ビタミンKは、骨をつくるのを助ける栄養素の1つ」などを追加する案が挙がっている。
栄養機能食品は、外食が多い、食生活が乱れているといった場合に、不足気味の栄養成分を手軽に補給できることから、幅広い層の消費者が利用している。今回の改正で、消費者にとってわかりやすい表示内容になるとみられ、現行よりも利用しやすくなると期待される。
【木村祐作】








