中国経済新聞 2026年6月号掲載記事にデータ・マックスで編集を行ったものです。
15年前、10年前でさえ、「抹茶」といえば多くの中国人にとって「日本」「日本文化」の象徴だった。日本を訪れて本場の抹茶を味わい、抹茶アイスクリームを食べ、あるいは国内の日本料理店で初めてその独特の苦味と香りに出会ったという人が大半を占めていた。しかし、6月5日に日本のフジテレビが放送した特集は、多くの日本人を「破防」(ショック)させた。中国で抹茶が急速に台頭し、その本場である中国が世界的な「抹茶ブーム」を商機に変えつつある現実が、克明に報じられたからだ。
フジテレビの記者一行は、中国浙江省杭州市余杭区・径山地区を取材した。「広大な茶園が深い緑に染まっている。ここは日本ではない」。そう語るレポーターの声とともに映し出されたのは、中国が大規模投資で抹茶生産を強化し、世界に広がる抹茶熱を捉えようとする活気ある現場だった。径山寺は唐代天宝年間に創建され、1200年以上の歴史を持つ禅宗五山の筆頭。日本の茶道文化の源流であり、日本寺院建築や禅林文化に多大な影響を与えた聖地だ。まさに「千年抹茶の故郷」への回帰が、今、現実のものとなっている。
中国抹茶の生産拡大と品質向上
中国は浙江省だけでなく、貴州省、安徽省、雲南省、湖北省など広範な地域で抹茶生産を推進している。特に貴州省銅仁市江口県は「中国抹茶之都」の称号を持ち、2018年に授与されて以来、抹茶生産量・輸出量で国内トップを走る。2025年には全国抹茶生産量の25%を占め、世界の高品質抹茶の約5杯に1杯がここから供給されるほどだ。梵浄山の豊かな自然環境を生かしたEU基準認証茶園14万畝を整備し、10万人の茶農家を支える「貴茶聯盟」モデルは、中国抹茶産業の象徴となっている。
浙江省杭州市余杭区の「抹茶村」(最大手企業)は、さらに驚異的な数字を示す。同社総経理の王雨春氏は、今年の収穫状況が良好で、原料となる「碾茶」の生産量が8,000tを超える見通しだと語った。日本全国の碾茶生産量は2025年に6,278t程度と予想されるが、「抹茶村」単独でこれを上回る。数年前の3倍に急増した背景には、グローバルな抹茶需要の高まりがある。中国産抹茶の価格は日本の半額以下でありながら、品質は遜色ないと評価され始めている。京都では抹茶原料価格が前年比の2.7倍に高騰するなか、中国産はコスト優位性を発揮し、数十カ国に輸出されている。日本企業からの引き合いも急増中だ。
中国抹茶の強みは、伝統技術の継承と現代的革新の融合にある。収穫前の遮光栽培で渋みを抑え旨味を高める手法は日本と同じだが、中国企業は大規模生産体制と自動化で効率化を進めている。貴州では独自の大葉種茶樹を活用した新技術開発が進み、風味の安定化を実現。貴州の貴茶グループは世界最大級の「抹茶スーパーファクトリー」を擁し、全工程の品質トレーサビリティを確立。国家標準GB/T34778-2017の制定以降、中国は国際基準形成にも影響力を及ぼし始めている。
三大リーディングブランドの活躍
中国抹茶を牽引する代表企業・ブランドとして、貴茶グループ、展芸烘焙(ベイキング)、御茶村が挙げられる。
貴茶グループは貴州を拠点に全国抹茶生産の25%を占め、40カ国以上に輸出。EU基準認証を取得し、日本を含む高級市場で原料供給を拡大している。高山茶園(海抜1,200m以上)の豊かなテロワールと厳格な品質管理が強みで、烘焙用から飲用まで幅広いラインナップを展開する。
展芸烘焙は市場の王者だ。年商1万件超、ユーザー満足度96%以上を誇り、小包装から有機認証品まで幅広い選択肢を提供。日常のスイーツづくりを通じて抹茶を身近な存在に変え、中国国内需要を爆発的に拡大している。
御茶村茶業は、イノベーションの旗手である。日式清香、国風高香、花香調和の3シリーズを展開し、特に花香とのブレンドは新感覚の味わいを提供。新茶飲料やコーヒーとの融合、抹茶文化ワークショップを通じて、若い世代に抹茶文化を浸透させている。
これら企業の活躍により、中国抹茶は単なる原料供給から、完成品・ブランド力の構築へとシフト。2025年現在、中国抹茶総生産量は5,000tを超え、2030年には市場規模300億元(約6,000億円)突破の見通しだ。
日中抹茶の共存と未来展望
流通経済大学の児玉徹教授はフジテレビの取材に対し、「中国産抹茶の品質向上は著しく、日本にとって強力な競争相手となった」と指摘する。一方、日本には長年の文化・ブランドの蓄積がある。中国は規模・スピード・新製品開発で優位に立ち、日本は高品質・文化的価値で差別化する構図が生まれつつある。
実際、日本は中国産抹茶を大量輸入するようになり、2025年初頭には貴州銅仁産の初の大規模輸出が実現。横浜港や清水港に到着した貨物は、日本の大手飲食企業に供給され、「反向輸出」の象徴となった。中国抹茶は価格優位性と安定供給で、日本市場の需要ギャップを埋める存在となっている。
抹茶の起源は中国隋唐期に遡り、宋代に最盛期を迎えた。9世紀に日本へ伝わり、独自の茶道文化として花開いた。今、中国での復興は「千年抹茶の故郷回帰」だ。径山寺の禅文化が育んだ伝統が、現代の産業力と結びつき、新たなグローバルスタンダードを生み出そうとしている。
中国抹茶の台頭の背景には、原料産地の優位性(広大な高山茶園)、技術革新(石臼から連続生産ラインへ)、巨大な国内市場と健康志向の高まりがある。将来的には、抹茶飲料、食品、化粧品など多角的な展開が予想され、国際市場での存在感をさらに高めていく。
日本企業にとっては、伝統の維持と革新の両立が問われる局面だ。中国の低価格攻勢を受けつつ、自らの文化ストーリーを生かした差別化がカギとなる。一方、中国にとっては、品質のさらなる向上とブランド力強化が次の課題だ。
フジテレビの報道は、日本人に「抹茶の故郷」を再認識させる機会となった。中国抹茶の強力な台頭は、日中文化交流の新たな象徴であり、世界の食文化を豊かにする動きでもある。千年を超える歴史が、現代の産業革命のなかで再び輝きを放つ──それが、中国抹茶が語る壮大な物語である。
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