中国で自動車が「FMCG」(日用消費財)化

中国経済新聞 2026年6月号掲載記事にデータ・マックスで編集を行ったものです。

 中国の自動車界は近年、驚くべき変化が進んでいる。モデルチェンジの速さがスマートフォンに匹敵するほどになり、「自動車がFMCG(ファストムービング消費財)化している」との声が盛んに聞かれる。情報工業化省が発表する新車リストについて、2026年5月は発売間近の乗用車が52車種だったが、6月は約65車種であった。1~5月で計71車種が発売され、これまでにない新車ラッシュに沸いている。

 中国自動車流通協会専門家会の李顔偉氏によると、2023年以降にデビューし調査期間が10カ月以上、累計販売台数が1万台以上の新エネルギー車は169車種に上り、このうち40.8%が「発売後すぐにピークを迎え、その後急落する」パターンだった。発売間隔の短さや技術スペックの急速な追随、利用者の注意力サイクルの短さが、「独占ウィンドウ」を極端に狭めている。

 この背景として、新エネルギー車時代特有の競争環境が挙げられる。乗用車連合会秘書長・崔東樹氏は、「新規発売の新エネ車はほぼ全量が国内ブランドであり、外資系各社がPHEV(プラグインハイブリッド)やEREV(レンジエクステンダー)に注力するなか、各社は『多産多競争』の局面に突入した」と指摘する。マッキンゼーのレポートでは、燃料車時代に約60カ月だった国内の新車開発間隔が約24カ月に大きく短縮したという。なかには18カ月という超短納期のプロジェクトも存在する。

 新エネ車メーカーを初め多数のメーカーが、「年に少なくとも1車種の新型車(新型車、年間モデルチェンジ、マイナーチェンジ)を導入する」との認識に至っている。新鮮さを維持し購入意欲を刺激する狙いだ。マッキンゼー中国圏で自動車コンサルを担当する管鳴宇氏は、「消費者はもはやトレンドの受け手ではなく、創造者となった。買い替えの期間や価格、期待を自ら形成している」と分析する。

 この現象は、自動車の「FMCG」化をもたらしている。まずは開発のスピード化であり、ソフトウェアとハードウェアのデカップリングにより、分散型電子制御ユニット数百個という従来のかたちから集中型電子機器アーキテクチャへ移行した。ソフトウェアのクロスモデル再利用やOTAアップデートが容易になった。バッテリーパック、電動ドライブアセンブリ、熱管理モジュールなどの主要部位も複数モデルで共用が可能だ。

 さらに、シミュレーション技術の活用で組み立て金型の製造を設計凍結前に前倒ししている。「ソフト工装」を用いた小ロットの試作や一体化大型ダイカストによる部品数の削減など、効率化が進んだ。マーケティングも電子機器に似たものとなり、デジタル評論家が自動車をレビューする姿が日常的となった。発売イベントもスマホの新製品発表と同時開催するケースが増えている。

 結果として、買い替えサイクルが3~5年に短縮した。長城汽車の魏建軍会長は、「自動車は決してFMCGではない。家庭における住宅に次ぐ大きな出費だ」と繰り返し強調する一方で、「更新しなければ死ぬ」とのジレンマも訴えた。モデルチェンジ版は低コストであり、バッテリー容量拡大や運転支援機能の強化などで「新車感」をもたらせるが、魅力は新型車に劣るという。

 嵐図汽車(VOYAH)の盧放会長は、「FMCG化は明らかだが、本末転倒はいけない。基準の厳しい自動車用規格を守るべきだ」と警告した。蓮花汽車(Lotus Cars)CEOの馮擎峰氏も、「FMCGのような製造では良いクルマがつくれない。大規模なR&Dが必要で、スマホのように毎年新製品を導入するのは不適切だ」と指摘する。吉利汽車(Geely)の李書福会長は重慶の自動車フォーラムで、「人の生命に関わる製品に『短・平・快』という理念を当てはめてはならない」と厳しく戒めた。

 新車ラッシュの代償は大きい。今年第1四半期、自動車業界の利益率は過去最低の3.2%にとどまり、中国全体の一定規模の工業各社平均である4.9%を大きく下回った。売上高も微減し、「販売・収益・利益」ともに不振に陥っている。中国貿易促進会の自動車業界委員長である王侠氏は、「史所罕見(前例のない)状況」と表現した。

 またJ.D.パワーの調査では2026年、中国の自動車の品質問題について、件数は引き続き増加しているものの伸び幅は鈍化している。故障関連は横ばいだが、設計に関する苦情が約7割を占め、改善の余地がある。情報工業化省は今年初めに業界への参入基準を改定し、従来の新エネルギー車(NEV)は走行3万km以上の信頼性を検証し、新エネ車は現行の定格試験実施を義務付けるなど、安全関連の検証が短縮化を防ぐ姿勢を示した。

 外資系メーカーもこの波に巻き込まれている。日産自動車CEOのイヴァン・エスピノーサ氏は、「中国メーカーの経験を学び、開発期間を半減する。新車の評価でAIや姉妹車の同期開発を活用し、2026年冬には新型車について55カ月から2年超に短縮する」と発表した。ホンダなども同様の動きを見せている。

 管氏は、「機能の更新の速さと製品のライフサイクルを混同している」と指摘する。車は電動化により機械としての性能より電子機器やソフトウェアのアップグレードが中心となり、使い勝手がスマホに近いものになった。燃料油の高騰でEVの優位性が際立つ中、消費者は新しい機能に敏感だ。しかし自動車は本来、大衆向け耐用消費財であり、安全規格が電子製品とは根本的に異なる。

 蔚来汽車(NIO)のCEOである李斌氏は、「乗用車の保有台数が3億7,000万台という量の時代に入り、うち85%が消費の格上げによるものだ。新規購入が減少し既存ユーザーの奪い合いが激化している」と指摘している。こうしたなかで購入者に対し、「毎年新車」で期待感を高め、逆に「古いモデルはすぐ陳腐化」との認識を植え付けてしまった側面はあるという。

 中国の自動車産業は今、勝負を決する激動の状態にある。新車ラッシュは技術革新を促すポジティブな力となるか、それとも業界の疲弊を招くか。その分岐点に立たされている。長城汽車の魏建軍会長の言葉を借りれば、「更新しなければならないが、畏敬の心を忘れてはならない」となる。このバランス感覚は、中国発の自動車が世界で真の競争力を発揮するための条件だ。


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