中国経済新聞 2026年6月号掲載記事にデータ・マックスで編集を行ったものです。
中国自動車大手・比亜迪(BYD)の王伝福董事長は、6月9日の定時株主総会で、力強い未来像を語った。「5年後に規模で真の世界一になれる」。中国メディアが大きく報じたこの発言は、BYDがEV市場のリーダーから、グローバル自動車産業全体の頂点を本気で目指す明確な宣言として注目を集めている。
現在、世界販売台数で6位につける同社は、トヨタ自動車やドイツのフォルクスワーゲン(VW)を射程圏内に捉え、技術革新、垂直統合、海外市場開拓を三本柱に、着実な成長軌道を描いている。
BYDの2025年新車販売台数は460万台。前年比8%増と5年連続で前年を上回ったが、伸び率は鈍化傾向にある。世界首位のトヨタは1,000万台超、2位VWも約900万台とBYDを大きく上回る水準だ。しかし、EV単独では前年比28%増の225万台を記録し、米テスラの推定164万台を大きく引き離して初の世界首位に輝いた。プラグインハイブリッド車(PHEV)を含めた新エネルギー車(NEV)全体でも堅調で、乗用車販売の約半数を占めるまでに至っている。この実績の背景には、中国国内の巨大内需を基盤としつつ、海外展開を積極的に進めた戦略がある。
海外販売は2025年に104万台(前年比2.5倍)と急拡大し、全体販売比率を約2割に引き上げた。王董事長は株主総会で、2026年の海外販売を160万台超と予想。5割以上の大幅増を掲げている。具体策として、ブラジル工場の本格稼働、タイ工場からの欧州向け輸出拡大、中南米・東南アジア市場への深耕が挙げられる。これにより、BYDは「中国企業」から「真のグローバルプレーヤー」への脱皮を加速させている。
BYDの成長軌跡と垂直統合の強み
BYDの躍進は、創業以来の垂直統合戦略に支えられている。電池、モーター、半導体、ソフトウェアまでを自社で内製する体制は、コスト競争力の源泉だ。王伝福董事長は1995年に電池メーカーとして創業し、2003年に自動車事業に参入。2010年代にEV・PHVに注力し、2022年以降は爆発的な成長を遂げた。2025年のEV販売は3年前の2022年比で2.5倍に達しており、規模の経済を生かした部品調達力と価格破壊が最大の武器となっている。
3月には車載電池を刷新し、急速充電性能を大幅に向上させた。2027年以降も新技術の発表を予定しており、王氏は「あと3~5年は成長が続く」と自信を示した。また、5月下旬に回路線幅4ナノメートルの自動運転向け先端半導体を自社開発・量産開始したことを公表。株主総会では、特定条件下での自動運転「レベル3」製品の海外展開を目指す方針を明らかにした。訓練センターを欧州、南米、東南アジアに設置し、規制環境が整えば「BYDは急速に飛躍する」と強調した。
こうした技術投資は国内市場の逆風を補う鍵だ。中国ではEV・PHV補助政策の縮小や同業他社との価格競争が激化。浙江吉利控股集団などの攻勢を受け、2025年9月には単月販売が1年7カ月ぶりに前年同月を下回った。12月期純利益は4期ぶりの減益(前年比19%減)となり、550万台目標を460万台に下方修正せざるを得なかった。王董事長は「製品と技術発展の周期的な法則」「同質化の傾向」と分析し、価格・技術面での差別化が課題となっていると認めた。
自動運転と新領域への挑戦
BYDは自動運転技術で巻き返しを図っている。運転支援機能「天神之眼」を低価格帯車両にも搭載。代表的な小型EV「海鴎」では8万元台(約189万円)から一般道対応のナビ連動自動走行・障害物回避が可能となり、事故時の1年限定自社補償も導入した。これにより、中低価格帯での差別化を狙う。北京佐思信息諮詢のデータでは、一般道運転支援の搭載率が中価格帯で急上昇しており、BYDの戦略は市場トレンドを捉えたものだ。
さらに、ヒト型ロボット(ヒューマノイド)開発にも参入を表明。執行副総裁の李柯氏は「自動車で培ったAIと生産技術を活用できる」と語り、販売店での案内役などへの応用を想定。米テスラの「オプティマス」や中国の小鵬汽車(XPeng)などとの競争が予想されるが、BYDのスケールメリットがロボット分野でも発揮される可能性が高い。
日本市場参入と日本企業への示唆
BYDの日本進出も加速している。2026年7月28日発売予定の軽EV「ラッコ」は、航続距離200~300km、スライドドア採用、先進運転支援システム(ADAS)搭載を武器に、年末までに1万台受注を目指す。価格は200万円台前半とされ、日本の軽自動車市場(セカンドカー需要が高い)との親和性が高い。2025年の日本販売台数は3,870台(前年比62%増)だったが、テスラの1万台超をベンチマークに販売網を80店舗以上に拡大する計画だ。ホンダ「N-ONE e:」、スズキの新型EVなど日本勢との競争が激化するなか、BYDの低価格・高装備戦略は大きなインパクトを与えるだろう。
日本企業にとって、BYDの躍進は脅威であると同時に、学ぶべき点も多い。トヨタは中国で合弁を通じたEV「bZ7」を投入し、2025年1~11月のEV販売を前年比8割増の9万7,600台に伸ばしたが、BYDの規模には遠くおよばない。ホンダ、日産もファーウェイやモメンタの技術を活用した現地化EVで巻き返しを図っているが、BYDの垂直統合と迅速な技術実装スピードは、日本メーカーの「ものづくり力」と信頼性を生かした新たな競争軸を迫っている。
世界的にEVシフトは「米中でデカップリング」が進む。トランプ政権下の米国はEV補助金廃止・排ガス規制緩和に転換し、フォードやGMが巨額損失を計上。EUも35年ガソリン車販売禁止目標の見直しを検討する。一方、中国市場ではNEV比率が5割を超え、BYDのような新興メーカーが優位を固めつつある。
5年後の展望と日中自動車産業の未来
王董事長の「5年後、世界一」目標が実現すれば、BYDの販売規模はトヨタを上回る可能性が高い。そのカギは海外販売のさらなる拡大と自動運転・ロボットなどの新事業だ。電池技術の優位性、4ナノ半導体の量産、グローバル生産拠点網、これらがそろえば、部品調達力と価格競争力がさらに強化される。ただし、地政学的リスク、利益率維持、製品同質化の打破が課題として残る。
BYDの挑戦は、中国EV産業の成熟と国際化を象徴する。日本企業はこれを契機に、ハイブリッド技術の強みや高付加価値サービスを生かした差別化を進め、協業の可能性も探るべきだろう。たとえば、BYDの電池技術とトヨタの信頼性プラットフォームの組み合わせは、日中自動車産業の新たな協力形態を生むかもしれない。
長期的視点でいえば、BYDの成長は「一衣帯水」の日中両国にとって、競争を通じた技術進歩と市場拡大の好機でもある。王伝福董事長の野心は、自動車産業の新時代を加速させる原動力だ。5年後、世界市場の頂点をめぐる攻防は、さらに熱を帯びることになるだろう。
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