日本の情報は誰に渡るのか~米・イスラエル防衛技術協力が問う日米情報共有の危うさ

(一社)アジア・インスティチュート
理事長 エマニュエル・パストリッチ

動き出す国家情報会議

 日本では、国家の情報機能を大幅に強化する新制度が動き出そうとしている。5月27日、国家情報会議設置法が参院本会議で可決、成立した。政府は、各省庁に分散してきた情報収集・分析機能を束ね、首相を議長とする国家情報会議を設けることで、インテリジェンスの司令塔機能を強化すると説明している。

 合わせて、内閣情報調査室を改組し、国家情報局を内閣官房に置く体制づくりも進められている。これにより、日本の情報活動は従来よりも一元化され、首相官邸のもとに集約されることになる。

情報機能強化は必要だが、統制が問われる

 日本を取り巻く安全保障環境は厳しさを増している。中国、北朝鮮、ロシアをめぐる軍事的緊張、サイバー攻撃、偽情報工作、経済安全保障上のリスクを考えれば、情報分析能力の強化そのものは必要である。国家として高度な情報収集・分析能力をもたなければ、外交判断も安全保障政策も後手に回る。

 しかし、情報機関の権限拡大は、市民的自由、プライバシー、議会統制、情報の正確性といった問題を必ずともなう。反対する法律家団体などからは、国家情報局が各省庁から情報提供を受ける法的根拠を持つ一方、収集対象や監視の範囲が曖昧になれば、プライバシー侵害や監視強化につながりかねないとの懸念も出ている。

 問題は、現在の制度設計が、こうした民主的統制を十分に備えているとは言い難い点にある。国家情報会議の創設は、ごく少数の官僚や政治指導者に秘密権限を集中させ、その運用が法律や憲法に対して十分な説明責任を負わない状態を生み出す恐れがある。秘密性だけが高まり、検証可能性が低下すれば、情報機関は国家の安全を守る組織ではなく、政策決定を密室化する装置となりかねない。

米国に渡った情報はどこへ行くのか

 国家情報会議をめぐる問題は、国内の権限集中だけにとどまらない。より大きな論点は、そこで収集・分析された情報が、日米同盟の枠組みを通じて米国側に共有される可能性である。

 日米同盟は日本の安全保障政策の中核にあり、防衛、外交、サイバー、宇宙、経済安全保障など、あらゆる分野で協力が深まっている。情報共有も、その重要な柱の1つである。しかし、情報共有とは、単に友好国同士が必要な情報を交換するという穏やかな話ではない。いったん相手国に渡った情報は、その国の制度、組織、同盟関係、軍需産業、研究機関を通じて、どこまで広がるのか把握しにくい。

 国家情報会議で収集された情報や、そこで議論された政策上の考え方が米国側に共有されるなら、その情報が米国内でどのように扱われ、どの範囲まで再共有されるのかを日本は厳密に確認しなければならない。場合によっては、国家情報会議は、独立した日本の情報機関というよりも、ワシントンから東京へ政策方針を伝達し、日本側の情報を米国の戦略体系に接続するためのプラットフォームとして機能する恐れがある。

制度化される米・イスラエル防衛技術協力

 そこで問題となるのが、米国側の制度変化である。現在、米議会で審議されている2027会計年度国防権限法案の下院案には、「米国・イスラエル防衛技術協力イニシアティブ」と呼ばれる条項が盛り込まれている。同条項は当初、第224条として示され、その後、第219条として扱われている。

 この条項は、国防総省内に米・イスラエル防衛技術協力を統括する「執行機関」を置き、防衛技術の共同開発、共同研究開発、技術評価、産業協力を促進する内容である。具体的には、イスラエル由来の技術や両国が共同開発した技術を米軍のシステムに組み込み、米国企業とイスラエル企業による合弁事業、ライセンス契約、兵器の共同生産などを後押しする仕組みが想定されている。

 協力対象には、DARPA、国防イノベーション・ユニット、ミサイル防衛局、宇宙軍司令部など、米国防総省の中核部門が含まれる。協力分野も、AI、自律システム、量子技術、ミサイル防衛、サイバー防衛、電子戦、バイオテクノロジー、防衛産業基盤の共同生産など、現代戦の中枢におよぶ。

 推進側は、この枠組みについて、米国とイスラエルの軍を統合するものではなく、米国の意思決定権をイスラエルに移譲するものでもないと説明している。しかし、批判者たちは、この条項が両国の防衛産業、研究開発、技術評価、共同生産、情報共有システムを制度的に結びつけ、米国の軍事・情報インフラにイスラエルの影響力を深く組み込むものだと警戒している。

日本の情報主権が問われている

 米国とイスラエルが協力すること自体が問題なのではない。問題は、その協力が通常の外交協定や個別の共同研究の範囲を超え、米国の軍事技術、研究開発、防衛産業基盤、情報活動の深部にまでおよぶ可能性である。しかも、この協力は国防総省だけで完結するものではなく、国務省、商務省、その他の連邦政府機関とも連携して調整されるとされる。

 日本にとって、この問題は無関係ではない。日本が米国との情報共有、共同研究、軍事技術協力を深めれば深めるほど、日本の情報や技術が、米国側の制度を通じて第三国との協力枠組みに接続される可能性は高まる。とりわけ、防衛技術、サイバー、AI、宇宙、経済安全保障の分野では、政府情報、企業情報、大学・研究機関の知見が重なり合う。米国との共同研究や情報共有を通じて得られた日本側の知見が、米国の対イスラエル協力枠組みに取り込まれるなら、その時点で日本の情報主権は大きく損なわれる。

 日本はイスラエルとの間で、日本の軍事・情報に関する機微情報を包括的に共有する条約を結んでいるわけではない。にもかかわらず、米国との協力を通じて、結果的に第三国が日本の情報にアクセスできる構造が生まれるなら、それは日本の主権に対する重大なリスクとなる。友好国であることと、情報管理上のリスクが存在しないことは同じではない。

 日本に必要なのは、米国との協力を無条件に拡大することではない。必要なのは、日米協力の範囲、情報共有の条件、第三国への再共有の禁止、技術流出の防止、議会による監視を明確に制度化することである。

 日本がいま問うべきなのは、米国との協力を続けるか否かという単純な二択ではない。日本の情報が誰に渡り、どの範囲で再共有され、誰の戦略に利用されるのか。その条件を確認しないまま情報機能を強化することこそ、主権国家として最も危うい選択である。


<PROFILE>
エマニュエル・パストリッチ

エマニュエル・パストリッチ博士1964年生まれ。アメリカ合衆国テネシー州ナッシュビル出身。イェール大学卒業、東京大学大学院修士課程修了(比較文学比較文化専攻)、ハーバード大学博士。イリノイ大学、ジョージワシントン大学、韓国・慶熙大学などで勤務。韓国で2007年にアジア・インスティチュートを創立(現・理事長)。20年の米大統領選に無所属での立候補を宣言したほか、24年の選挙でも緑の党から立候補を試みた。23年に活動の拠点を東京に移し、アメリカ政治体制の変革や日米同盟の改革を訴えている。英語、日本語、韓国語、中国語での著書多数。『沈没してゆくアメリカ号を彼岸から見て』(論創社、25年)、『USAを盗んだ男—トランプ、そして腐敗を極める輩たち』(論創社、26年)。

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