2024年11月25日( 月 )

軽井沢バス転落事故、繰り返された9年前の惨事

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元記者・田辺県議レポート

 新聞記者の経験を持ち、政治家として活動する田辺一城 福岡県議会議員。就任以来、すべての定例会本会議で様々なテーマで質問に立ち、政策提案を続けている。NetIB-NEWSでは、田辺県議に、自らの取り組みも踏まえながら、随時、様々な社会課題を提起していただきます。

安全を犠牲にした「激安」

吹田バス事故の記事<

吹田バス事故の記事

 事故を起こしたバス会社は、規制緩和の波に乗って新規参入した零細業者。事故の背景を探ると、激烈な価格競争にさらされる業者や、過酷な運転を強いられている運転手の姿が浮かんできた。悪循環のなか、公共交通に必要な安全性の確保が置き去りになり、そのツケはいつか私たちが払わなければならないのではないかとの懸念を持っている――。

 私が新聞記者だった9年前の2007年2月、大阪府吹田市で起きたスキーツアーバス事故の背景を調査し、執筆した解説記事の一節です。今月15日に長野県軽井沢町で発生したスキーツアーバス事故の一報を受け、すぐにこの現場取材を思い出しました。私はこの記事をこう結んでいます。「規制緩和が激しい競争を生んでしまった以上、国の責任で対策に乗り出すべきだ。惨事が繰り返されてからでは遅い」

 惨事が繰り返された。痛恨の思いです。当時は社会事象から課題を見出し、政治・行政に対して解決を促していく新聞記者でした。そして、現在は行政とともに政策形成の主体である政治家。立場は変わりましたが、原点は同じです。私たちの社会を取り巻く課題を解決し、より生きやすい環境をつくっていくこと。

 メディアでは、今回の長野県で起きた事故で、当該バス会社が運賃基準を下回り受注していたことや、運転手の健康状態確認などでの法令違反、過労運転が疑われる事例の存在なども報じられています。本件の詳しい事故原因は今後の調査に委ねますが、「同業のバス運転手から『業界の構造的な問題が一因だ』との指摘が相次いでいる。過当な価格競争、運転手の過酷な負担、高齢化――。規制緩和による業者の急増で、運転手を取り巻く環境は厳しさが増している」(朝日新聞2016年1月19日付朝刊社会面)――といったバス業界を取り巻く社会背景についての指摘は的を射ています。

 スキーツアーバスを含む貸し切りバス事業の参入障壁が事実上撤廃されたのが2000年。規制緩和によって、免許制から許可制となり、事業者の数が増加。旅行会社は安く運行を発注できる事業者を選びます。競争が激化するなか、それぞれの事業者は経費の多くを占める人件費をターゲットにコスト削減を図ることとなり、運転手の負担が増大する悪循環が発生。ツアーの低価格化が、安全を置き去りにするリスクを顕在化させました。

 大阪の事故を受けた解説記事でも、私は「安全を犠牲にしての『激安』は本当に私たちに必要なのか。『安値信奉』思考を見つめ直す時が来ていると思う」と論じていました。この考えは今も変わっていません。

 国土交通省は中小の貸し切りバス事業者の監査に乗り出す方針ですが、日常・継続的にその実効性を担保できるでしょうか。9年前に取材した安部誠治・関西大教授(公共事業論)の言葉が思い出されます。「(事後の)監査による事業改善は、ばく大な数の公務員が必要で不可能。異常な安値に是正勧告を出し、間接的に(労働環境の)適正化を図るしかない」。さらに、私は記事のなかで、参入条件を厳しくするルールの必要性も訴えていました。共同通信の2016年1月20日の配信記事によると、今回の事故を受け、国土交通省が参入時の審査を厳しくする検討に入ったと報じられていますが、国の対応は後手に回ったと言わざるを得ません。

 惨事が繰り返されてからでは遅い――。二度と繰り返さないため、政治と行政の責任で実効性ある対策を早急に講じていかなければなりません。

<プロフィール>
tanabe_pr田辺一城(たなべ・かずき)
福岡県議会議員、民主党福岡県第4総支部幹事長
1980年5月16日生まれ。福岡県古賀市出身。県立福岡高校、慶應義塾大学法学部法律学科を卒業後、2003年に毎日新聞社記者。福井支局や大阪本社社会部に勤務し、豪雨や地震などの大規模災害や原発事故、日本人拉致問題、障がい者福祉、貧困・格差問題、高校野球やラグビーなどのスポーツ取材を経験。大阪府警本部の刑事部捜査2課や生活安全部・交通部も担当し、事件取材を重ねた。2011年4月の県議選(古賀市選挙区・定数1)で初当選し、現在2期目。民主党本部の青年委員会で副委員長も務める。(公式サイトURL:http://www.tanabe-kazuki.jp/

 

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