
男子も座りはじめた。 PhotoAC
「座ってするなんかできるか、男の沽券にかかわる」なんて時代じゃない。まさか男がそんな情けない恰好など…と、意固地になっているおじさんはいないですよね?座ることの効果が高いんだったら、そちらを選んでいくのが今の日本人―だけど、座ることによる精神面への影響が少し気になる。
男子のトイレ事情
日本では、温水洗浄便座がおよそ7割の家庭に普及しているという。「トイレ先進国」といわれるほど、世界的にトイレ評価が高いのが日本だ。世界のトイレをのぞいてみると、さまざまな文化や行動の違いが見えてきて面白い。
たとえばドイツでは、“トイレで座ってください”というサインがわざわざ表示されているのだとか。「スワリション」大国とされるドイツの場合、日本とは異なる圧力のようなものも働いているようだ。ドイツには、自動車の窓ガラスに良く見かける「Kids in car(子どもが乗車しています)」のような感じのデザインで、「座ってしてください」と訴えるトイレ用のサインが存在する。そのサインを家庭やシェアハウスのトイレに掲示して、住まいを共にする男性陣やゲストに座ってするようにお願いしている。フランス、オーストラリア、スウェーデン、デンマーク、カナダなども、座る派の男性は多いと聞く。
「男が座って小便するのは女々しい?」「座っておしっこすることは男らしくない?」──そんなことで、男らしさが損なわれるはずもない。「そもそも男らしさって?」、そんな声が聞こえてきそうだが…。男性がおしっこをするときのスタイルといえば、「立ちション」という言葉が闊歩していたように、それが当たり前だった。しかし近年は、「座りション」が主流に変わってきている。40代未満だけでなく、60代や70代でも、時として妻から「座ってやってよ!周囲にはねて…、掃除をするのは私なんだからね」と、叱られているとかいないとか。自宅で座って小便をする男性は、確実に多いようだ。座って排尿する人のなかに、「結婚している」人の割合が多いという傾向もあるから、夫婦の力関係の実態も影響ありそうだ。私の周りにも、「絶対に座りションに変えたくない」や「なるべく座りションでしたくない」という人がいた。「立ち」姿勢にこだわる男性も、一定数いることはたしか。便器が汚れそうだと妻の顔色をうかがうために座る?女性ファーストな時代ゆえの男性の意識の屈折なのか。では、自分で掃除すればいいじゃないかと手を挙げそうだが、それでも老若を問わず男の「座って排尿」派が増えていることは間違いない(ちなみに筆者宅での便座掃除は私が7割担当している)。
座れば問題ない?
トイレ使用時の水はね、俗にいう「おつり」は、洋便器の底に水が張ってあることが原因とされる。汚物のかたちや量などによっては、水がはねかえってくることがあるが、この水たまりには下水からの臭気を遮断する「封水」という大切な役目があるため、なくすことができない。汚物の形状は一定でなく、また個人差によって使われ方は千差万別。完全にはなくせないのが、現行トイレの運命だろう。
女性には理解がおよばない世界かもしれないが、男子のトイレ事情は近年で結構変わってきている。すべての男性に突きつけられる「立ってするか、座ってするか問題」。外出時に利用する公衆トイレにおける小便器のほとんどは「立ってする」前提のつくりなので迷うことは少ないが、家庭用便器はその限りではない。個々人の判断に委ねられているわけだが、実際のところ“立ちション派”と、“座りション派”、どちらが多いのだろうか?
ある統計によると、日本人男性の7割が座ってトイレをするという。かつては冒頭にあったような、昔ながらの考え方も一般的であっただろうが、今はまったく事情が変わってきている。なぜ洋式トイレに座る男性が増えたのだろうか?
生活用品メーカーのライオン(株)が2021年に実施した「小用スタイル」に関する実態調査(1,500人の男性を対象に調査)では、その6割が「座る」と回答された。ある20代男性/「コンビニでは立ってすることが多い。便座が、やはり気になる」、30代男性/「飲食店とかは座ってやれない。誰か座ったところにあまり座りたくない。でも、もし自分が汚したとしたら絶対に拭きます」など。ある飲食店では、男女共用のトイレのドアに、男性に向けて座って利用するよう呼びかけるステッカーを貼ったという。「立って用を足す時代は、平成で終わっています」(飲食店主)。
妻に言われて、家族に言われて、強制的に座っている人が多いのかと思いきや、意外と上位に挙がっているのは、自分から『汚れるから座る』みたいな人が多いという。男性自身の意識も変わってきている。その大きな理由が「立ってすると汚れるから」という。では、座れば問題ないのだろうか。
座る派が主流となるなか、実は座っておしっこをした場合でも、便器の内側に尿はねして、水で流しても便座のフチやウラに汚れが残ることがわかっている。トイレのフチや便座の裏は、掃除をするときもなかなか気づかない盲点で、毎回掃除をするのは大変だが、週に1回程度、トイレ用の洗浄スプレーで拭きあげることくらいはできるだろう。時代とともに変わりゆく男性のトイレ事情。少しの心意気とマナーが、周囲を幸せにする。
男の精神は大丈夫か
男体の構造的には、座って排尿するほうが尿道内に尿が残りにくいため、追っかけモレ(排尿後尿滴下)を軽減できる。また、座ることで骨盤の筋肉が緩みやすくなり、腹圧もかけやすくなるので、尿が出にくい症状が緩和されるという効果もあるという。比較的高齢になるにつれ、理にかなった行為にスライドしていく傾向か。今後、「座って排尿」派が主流になるとすれば、乳幼児期のトイレトレーニングの方法や、学校・職場・公共スペースにおける男子トイレの在り方を考え直さないといけないかもしれない。
しかし、男性の「立つ」→「座る」という動物的姿勢の変化に、男の精神への影響はないのだろうか?意識的、活動的、社会的…に男への悪影響がないことを祈るが、一方で変化が良い傾向を生み出すのだとしたら、それは次代のトランスフォーメーションとして受け入れていかなければならない「種の進化」なのかもしれない。
女性トイレが混んで行列になるというのは日常的な風景だが、最近では男性の行列も頻繁に見られるようになった。駅でもショッピングモールでも、男子トイレに男たちが行列をつくって待っている。自宅での便座派が増えているのはわかる。しかし、公共の場所でも便座でなければできない、それでないと気持ちが悪いというほどまでに、体は“座”を求め始めているのだろうか?だって小便器は空いているのに…。都市のトイレ風景もこれから大きく変わっていきそうだ。
<プロフィール>
松岡秀樹(まつおか・ひでき)
インテリアデザイナー/ディレクター
1978年、山口県生まれ。大学の建築学科を卒業後、店舗設計・商品開発・ブランディングを通して商業デザインを学ぶ。大手内装設計施工会社で全国の商業施設の店舗デザインを手がけ、現在は住空間デザインを中心に福岡市で活動中。メインテーマは「教育」「デザイン」「ビジネス」。21年12月には丹青社が主催する「次世代アイデアコンテスト2021」で最優秀賞を受賞した。

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