政治経済学者 植草一秀
安倍元首相暗殺から4年の時間が経過した。銃殺犯とされた山上徹也氏に対する公判が開かれ、本年1月21日に奈良地方裁判所は無期懲役の判決を示した。山上氏側は判決を不服として控訴した。
控訴審は裁判員裁判ではなく3人の裁判官による合議制で行われる。年内にも初公判が開かれる可能性がある。
刑事訴訟法には次の定めがある。
第三百三十六条 被告事件が罪とならないとき、又は被告事件について犯罪の証明がないときは、判決で無罪の言渡をしなければならない。
山上氏を有罪とするには「犯罪の証明」が必要である。一審で「犯罪の証明」がなされたとは考えられない。山上氏が所持した手製の銃砲によって安倍氏が殺害されたことについて合理的な疑いが存在するからだ。
安倍氏が殺害されたのは2022年7月8日。事件が発生したのは同日午前11時31分。奈良市消防局が公開した救急隊員らの活動報告書によると、11時32分に救急車の出動要請があり、11時37分に先発の救急隊が現場に到着した。救急車が到着した時点で安倍氏は心肺停止の状態であったという。
11時43分に安倍氏を救急車に収容し、救急車は11時54分に現場を出発した。救急車はドクターヘリの着陸先である平城宮跡歴史公園に向かい、午後0時9分に安倍氏はドクターヘリに収容され、同ヘリは0時13分に離陸。0時20分に橿原市所在の奈良県立医科大学附属病院高度救命救急センターに搬送された。輸血ならびに蘇生措置が講じられたが午後5時3分に死亡が確認された。
同日午後6時頃から記者会見が開かれた。説明したのは奈良県立医大病院の福島英賢教授。会見の模様を撮影した動画は現在も公開されている。
https://www.youtube.com/watch?v=WnFjLFXS8x4
会見の質疑応答を文字起こしした記事がネット上に公開されていたが、現在は確認できない。公開されていた会見の文字起こし記事から一部を引用する。
福島教授は次のように述べた。
冒頭説明(一部)
「来られた際に頸部2か所銃創がありまして、心臓および大血管の損傷による心肺停止と考えられます。」
質疑(一部)
――首の傷は大きさやどのあたりとか具体的に教えてください
「場所はですね、真ん中のところと少し右の2か所です。大きさは非常に小さい」
――銃で撃たれたということだが、傷の深さは?
「深さというのは心臓にまで到達する深さというふうに理解いただいたらと思います」
――その傷によって出血してお亡くなりに?
「その傷が、先ほどお伝えしたように、胸部に心臓大血管にたどり着いたため、その心臓大血管が損傷したために出血をされたということです」
――2発のところは胸部ですか?頸部ですか?
「頸部です」
――頸部に2発?
「頸部に2つの銃創があったということです」
――心臓が損傷してたと?
「方向がそっち方向に向かっていたんだという」
――体に2か所銃創があり、心臓と胸部の大血管に損傷があったという言い方で間違いないでしょうか?
「はい、その通りです」
安倍氏は当日、山上氏の前方に前を向いて演説していた。銃砲の発射音が響き、左回りに後ろを振り返る途上で倒れた。左回りに体を振り向けて、前方より左に45度程度体を捻じ曲げた時点で倒れている。福島教授の検死結果が正しければ、銃弾は安倍氏の左斜め前の上方から撃ち込まれたと考えるのが妥当である。
安倍氏が立っていた左斜め前に地上7階のサンワシティ西大寺というビルがある。福島教授の説明を踏まえると銃弾はサンワシティ西大寺ビルの上方から飛来したと考えるのが自然だ。そうなると、山上氏は安倍氏殺害の実行犯ではないということになる。
実は、安倍氏の検死結果が二つ存在する。二つの検死結果はまったく異なる。事件が発生した当日に救命治療に当たった奈良県立医大の福島英賢教授らによる検死結果と、翌日の7月9日の奈良県警の司法解剖による検死結果である。
以下に二つの検死結果を表示する。
A.奈良県立医科大学附属病院福島英賢教授会見(7月8日)
1.安倍氏の銃創は首の真ん中のところと少し右の2か所
2.傷は前頸部にあり、後ろに傷はなし
3.銃弾が銃創から入って心臓にまで到達
心臓大血管が損傷して出血して死亡
B.奈良県警司法解剖による検死結果(7月9日)
1.首の右側1か所と左上腕部1か所に銃創
2.心臓には銃撃による穴はなし
3.死因は左上腕部射創による左右鎖骨下動脈損傷に基づく失血死
二つの検死結果はまったく違う。事件当日に救命治療を行い、検死を行った奈良県立医大の福島英賢教授らの検死結果が正しいとするなら、既述のとおり、銃弾は安倍氏が演説していた場所の、安倍氏が当初向いていた方向に対して、左斜め前の上方から飛来したと考えるのが妥当である。
この推察と整合的であるのは、安倍氏が演説していた場所の左斜め前に地上7階建てのサンワシティ西大寺ビルが存在していること。

安倍氏が演説していた当日、サンワシティ西大寺ビルの5階には空室があったと見られている。
サンワシティ西大寺ビル上層階から銃弾が撃ち込まれた可能性が高いということになる。また、銃弾のなかには、体内で溶けて消滅するものもあると指摘されている。
7月8日の福島英賢教授による記者会見のやり取りをさらに紹介する。
――弾は体内に残っていたのでしょうか?
「手術しているときに弾丸は確認できませんでした。その後はちょっとまだ、今後の経過でわかることがあるかもしれませんが、手術中にはわかっていません」
――報道等で2発発射されたということになっているが、このうちどちらが致命傷になったのか、2つ傷があるということですが?
「それはちょっとわかりかねます。わかっているのは銃創と思われる傷が2つあったということだけです。
――その頸部というのはどこら辺なのでしょうか?…首の右元?なるほど。そこに2か所と心臓部分というのはどういうことなのでしょう?
「この下はすぐ大血管になっていますので、心臓は割と近いところにありますから」
――死亡につながった要因は、今回はどういうふうにお考えですか?
「失血死でいいと思います」
――臓器の損傷、内部の損傷は激しかった?
「心臓の傷自体は大きいものがありました」
――具体的にその傷というのはどういった形?
「たぶん、弾丸による心損傷、大きな穴ですね。心臓の壁に空いた穴です」
――2つの傷はかなり近いところにあった?
「距離的には5cmぐらい」
――今回撃たれた現場で即死したというふうに理解していいのでしょうか?
「撃たれた現場で心肺停止状態になったというふうな表現になるかと思います」
――背後から銃撃を受けたという話があるが、傷は前側に付いていた?
「はい、前頸部です。後ろに傷はありませんでした」
――確認だが、安倍元総理の首の前部に傷があり、首の後ろ側には傷はなくて、肩に射出口とみられる傷があった、こういう理解でよろしいですか?
「今の時点ではそういうふうに理解しています」
福島教授は、「弾丸による心損傷で心臓の壁に大きな穴が空いていた」と会見で述べたが、奈良県警の検死は「心臓には銃撃による穴はなし」とした。決定的な矛盾である。
最大の問題は山上氏の公判廷で、福島教授の証人尋問が行われなかったこと。証人尋問は奈良県警の検死医に対してしか行われていない。弁護団はなぜ福島教授に対する証人申請を行わなかったのか。
福島教授の証言がなければ安倍元首相暗殺の真相解明は完結しない。重大疑惑は現時点でまったく解消されていないのである。銃殺の瞬間を捉えた動画の徹底検証が必要だ。
https://vimeo.com/728521636?fl=pl&fe=vl
https://vimeo.com/730332651?fl=pl&fe=vl
<プロフィール>
植草一秀(うえくさ・かずひで)
1960年、東京都生まれ。東京大学経済学部卒。大蔵事務官、京都大学助教授、米スタンフォード大学フーバー研究所客員フェロー、早稲田大学大学院教授などを経て、現在、スリーネーションズリサーチ(株)代表取締役、ガーベラの風(オールジャパン平和と共生)運営委員。事実無根の冤罪事案による人物破壊工作にひるむことなく言論活動を継続。経済金融情勢分析情報誌刊行の傍ら「誰もが笑顔で生きてゆける社会」を実現する『ガーベラ革命』を提唱。人気政治ブログ&メルマガ「植草一秀の『知られざる真実』」で多数の読者を獲得している。1998年日本経済新聞社アナリストランキング・エコノミスト部門第1位。2002年度第23回石橋湛山賞(『現代日本経済政策論』岩波書店)受賞。著書多数。
HP:https://uekusa-tri.co.jp
ブ ロ グ「植草一秀の『知られざる真実』」
メルマガ版「植草一秀の『知られざる真実』」








