武雄アジア大学の事業継続性を問う(2)学生確保費用が左右する旭学園の資金繰り
前回記事では、(学)旭学園(佐賀市、溝上泰弘理事長)が7月3日に公開した2025年度(26年3月期)決算を分析した。同年度の決算が示していたのは、既存校が留学生の増加を主要因として増収したものの、武雄アジア大学の開学準備にともなうとみられる費用が重荷になったこと、運営費として使うことができる積立資産をほぼ使い切り、今後、運営費に機動的に充てられる資金が現金預金6億3,541万円を中心とする流動資産に限られたことである。
今回記事では、今後の旭学園ならびに武雄アジア大学の事業継続性を検討するために、過去記事『武雄アジア大学の収支計画が明らかに(4)旭学園の資金繰りと事業継続性を試算する』で作成した旭学園の収支試算表を、25年度決算に基づいて補正し、あらためて試算表を作成し分析を行う。
今回の再試算で見えてくるのは、旭学園の資金繰りが前回試算より改善して見える一方、その改善はかなり楽観的な前提に依存しているということだ。既存校の学生数回復が維持され、武雄アジア大学の追加的な広報・募集費用を見込まなければ、一定の学生数回復によって資金繰りは保たれるようにも見える。しかし、入学者37人から巻き返すには、相応の学生確保費用が必要になる。問題は、旭学園にその費用を捻出する余力があるのかである。
では実際に今回の試算の作成を行おう。
旭学園の試算表を作成するにあたっては、過去記事で作成した武雄アジア大学の収支モデルを再度利用する。
当初計画A:毎年140名が入学する。文科省に提出された収支計画
当初計画B:毎年120名が入学する。想定される採算ライン
モデルA:初年度37名、2年目以降は定員140名が入学する
モデルB:初年度37名、2年目以降は120名が入学する
モデル2:初年度37名、以降は入学生が35名ずつ増加する(便宜的に2年目は70名とする)
モデル3:初年度37名、2年目以降は入学生が70名となる
モデル4:2年目以降も入学生が初年度と同じ37名にとどまる
初年度の37名(青マーク)は5つのモデルすべてで同じだが、2年目以降の入学生数(黄色マーク)はモデルごとに異なる。
転載元:『武雄アジア大学の収支計画が明らかに(3)懸念された旭学園の財務体質と、新設大学の採算ライン』
この試算表は文部科学省の大学設置室がホームページにて公開した、旭学園の寄附行為認可申請書類を基に作成している。
https://www.dsecchi.mext.go.jp/2508nsecchi/document_2508n1.html
再試算の前提──既存校は順調推移を仮定
次に旭学園の今後の収支試算表を、25年度決算を基に補正していく。補正にあたって、26年度以降の既存校分の未確定収支については、次のような想定を置いた。
①教育活動収入は25年度の実績が継続されるものと想定する
②教育活動支出以下は、武雄アジア大学分の関連支出を除いた想定値にする
既存校分については、25年度に回復した教育活動収入が26年度以降も維持されると仮定した。一方、支出については、武雄アジア大学開学準備にともなうとみられる25年度の一時的増加分を、そのまま将来に引き延ばさず、過年度平均を参考に既存校分の支出を置いた。つまり、既存校が25年度の学生数回復を維持し、かつ開学準備費用を除けばどの程度の収支力をもつかを見る、やや楽観的な試算である。
これで既存校分とみなした事業活動収支と活動区分資金収支を算出し、そこに武雄アジア大学の収支モデルを合算して、旭学園の各収支の試算表を作成する。
既存校は基本金組入前では黒字化、ただし留学生依存
まずは経営状況を確認するために、事業活動収支の試算から見てみる。
凡例(各色説明)
オレンジ:既存校の学生数の持ち直しが維持されるものと仮定して25年度の教育活動収入を採用
グレー:既存校だけの収支の参考値として2015~23年度までの9年間の平均値を採用
紫:既存校のみの累積赤字(参考値)
緑:【表7】のモデルごとの武雄アジア大学分の教育活動収支差額
黄:モデルごとの旭学園全体の累積赤字の推移
この試算で注目すべきことは、既存校分の基本金組入前当年度収支差額が毎年7,587万円の黒字になっていることだ。これは学生数の増加による学費収入と経常費補助金収入の増収によるものが大きい。既存校分は、基本金組入前当年度収支差額では黒字を確保する試算となる。
ただし、この黒字化は、前回記事で指摘したように佐賀女子短期大学の新入生の留学生率40%超に大きく依存している。かつての佐賀女子短大とは学生構造が大きく変化したことによる黒字化の達成であり、短大の性質そのものが従来と大きく変化していることに留意が必要だ。
黄色マークの旭学園全体の累積赤字は、決算発表前の試算と比較すると、既存校分の増収の影響で29年度には各モデルで4億円程度ずつ累積赤字が少ない見込みとなっている。しかし、それでも累積赤字が膨らみ続ける試算となっている。
累積赤字が膨らんでも、いずれ黒字化できる見込みがあればよい。問題は、黒字化できる見込みが立つまで資金がもつかどうかである。
既存校単体なら資金収支はプラス
では、旭学園にとって喫緊の課題である資金繰りはどうなるのか。活動区分資金収支の試算を見てみる。
凡例(各色説明)
オレンジ:既存校の学生数の持ち直しが維持されるものと仮定して、2015~23年度までの9年間の平均値に25年度の増収額を加算した。
グレー:既存校だけの収支の参考値として2015~23年度までの9年間の平均値を採用した。
紫:既存校のみの資金収支差額。(参考値)
水色:武雄アジア大学の計画支出に含まれない関連経費、主に広報・募集費用。
薄い緑:【表7】のモデルごとの武雄アジア大学分の教育活動ベースの資金収支差額。
黄:モデルごとの旭学園全体の資金収支差額。
試算表の性質
旭学園が追加借入、資産売却、追加補助、抜本的な支出削減などを行わない場合に、公開資料上の前提から期末資金がどのように推移するかを試算した。通常、資金の動きには波があり、資金繰りが厳しくなるほど平準化から遠のくが、ここでは試算を行うため、便宜的に平準化している。
なお、資金収支には未収入金、未払金、前受金などによる年度間の期ズレが含まれる。本試算では、これらを個別に将来予測するのではなく、過年度の活動区分資金収支差額の平均値を用いることで、期ズレを平準化して扱っている。
まず既存校分について見る。25年度に積立資産を取り崩して現金化したこともあるが、なにより教育活動収入の増収が効いている。毎年、25年度に達成された学生数の水準が維持されれば、既存校のみなら資金面で黒字化するからだ。毎年1億円超の資金収支のプラスになっている。
ただし、これをもって既存校の経営が学校法人として優良経営に転換したということはできない。なぜなら、教育環境の充実のために必要な、施設や設備更新のための積み立てを旭学園はまったく行っていないからだ。そして過去の積み立て分については、前回記事で言及したように、退職給与引当特定資産9,090万円以外はすべて取り崩したのが25年度決算の内容である。
旭学園は積立金を利用した計画的な設備更新などを行える状態にはなく、つねに運営費との相談で設備更新費用の捻出を検討しなくてはならない。旭学園の既存校はそのような状況にある。よって旭学園が既存校の教育環境の持続性を十分に担保した経営を行っているというためには、本来であれば、今回の資金収支から一定の積立額を差し引いて考える必要がある。だが、ここでは積立金についてはいったん置いておく。
楽観試算で見える事業継続ライン
既存校の資金収支に武雄アジア大学のモデル別の資金収支(薄い緑)を組み合わせた結果、旭学園全体の資金収支は黄色マークの通りになる。一見すると、決算発表前の試算と比べて改善しているように見えるかもしれない。4年間のうちに資金ショートが発生するのは、モデル3(初年度37名、2年目以降は入学生が70名となる)と、モデル4(2年目以降も入学生が初年度と同じ37名にとどまる)だけだ。モデル2は4年目でぎりぎりとなるが、同モデルでは4年目で入学生が140名に達しているという想定なので、5年目以降、在学生数の積み上がりにより収支改善が見込まれる。
つまり、この試算を楽観的に見れば、既存校の学生数回復が維持され、武雄アジア大学の学生数が早期に大きく回復すれば、旭学園全体としては一定期間、資金を回すことができるようにも見える。ただし、固定的に70人程度へ回復するだけでは不十分であり、少なくとも70人を超えて年々上積みするか、早期に120人規模へ近づけることが必要になる、という読み方ができる。
学生確保費用が資金繰りを左右する
しかし、この楽観的な読みには大きな留保がある。この試算では、入学者37人から学生数を回復させるために追加的に必要となる広報・募集費用(水色マーク)を見込んでいないからだ。これは武雄アジア大学関連の支出であり、具体的には広報、募集、外部委託などの学生確保関連費用である。
つまり、この試算表を悲観的に見ると、追加的な広報・募集費用を見込まなくても、武雄アジア大学の学生数がモデル3、4になった場合、旭学園は資金繰りを維持することが難しくなるということだ。
旭学園は経営を維持するために、武雄アジア大学の学生数として、モデル2(初年度37名、以降は入学生が35名ずつ増加する)あるいはモデルA、B(2年目以降は定員140名あるいは120名が入学する)を実現しなくてはならない。しかし、それを実現するためには、相応の広報・募集費用が必要になる。はたして、旭学園がどれだけの広報・募集費用を捻出できるのか。そのことが、今後の旭学園の経営持続性を左右する要因である。
地域からの信頼を左右する武雄市の説明責任
この問題は、単に旭学園の募集努力だけに帰すべきものではない。武雄アジア大学は、佐賀県西部地域における高等教育機会の創出、とりわけ地域の若者に新たな進学先を提供することを大きな目的の1つとして誘致された大学だ。そうであれば本来、140名の入学定員のうち一定割合については、武雄市や周辺地域からの進学者を見込むかたちで募集活動を展開できるはずだった。
しかし、地域から学生を集めるには、大学そのものへの信頼だけでなく、その大学を誘致し、19.5億円もの補助金交付を決定した自治体への信頼も不可欠だ。本件、武雄アジア大学構想について地域との信頼を構築するために、はたして武雄市はこれまで説明責任をまっとうしてきただろうか。旭学園の財務基盤や武雄アジア大学の事業継続性に不安が残るなかで、武雄市がどこまで実態を確認し、どのように市民や受験生に説明してきたのか。この説明責任に対する武雄市の姿勢は、「地域の大学」として武雄アジア大学が学生を確保するうえで、信頼を左右する重大な論点となる。
次回記事では、本件構想における武雄市の姿勢が、武雄アジア大学の学生確保ならびに旭学園の経営持続性、そして武雄アジア大学に入学する学生たちにとってどのようなリスク要因となっているのかについて分析する。
(つづく)
【寺村朋輝】











