武雄アジア大学の事業継続性を問う(3)学生確保の前に問われる武雄市の行政倫理

 前回までの記事では、(学)旭学園(佐賀市、溝上泰弘理事長)の2025年度(26年3月期)決算と、今後の収支試算を基に、武雄アジア大学の事業継続性を検討した。

 第1回記事で見た25年度決算は、旭学園の資金繰りがただちに行き詰まる状況を示したものではなかった。佐賀女子短期大学を中心に既存校の学生数が持ち直し、教育活動収入は改善した。しかし、その中身は手放しで安心できるものではない。旭学園は、運営費などに充て得る積立資産をほぼ使い切り、機動的に使える中長期の財務余力は大きく削られた。

 第2回記事では、25年度決算を踏まえて今後の資金繰りを再試算した。その結果、既存校の学生数回復が維持され、武雄アジア大学の学生数が早期に大きく回復すれば、旭学園全体として一定期間は資金を回せるようにも見えた。しかし、それは武雄アジア大学の学生確保に必要な広報・募集費用を織り込まない楽観的な前提に立つものだった。入学者37人から巻き返すには相応の学生確保費用が必要だが、問題は、旭学園にその費用を捻出する余力がどこまであるのかである。

財務確認に踏み込まなかった武雄市

 ここで問われるのが、武雄市の姿勢だ。

 武雄アジア大学は、旭学園が設置・運営する私立大学だ。したがって、大学運営の第一義的責任が旭学園にあることはいうまでもない。しかし、武雄市はこの大学誘致を佐賀県西部地域における高等教育機会の創出や「大学を生かしたまちづくり」の柱として位置づけ、総事業費36億円のうち、19.5億円(武雄市負担分13億円、佐賀県負担分6.5億円)を補助金として交付する決定をしてきた。よって武雄市には、大学開学を後押しするだけでなく、その運営主体である旭学園の財務状況や、武雄アジア大学の事業継続性を積極的に確認し、市民に説明する責任があったはずだ。

 ところが、6月定例会での答弁を見る限り、小松政武雄市長ならびに武雄市は、その点に十分踏み込んできたとは言い難い。

 6月12日、朝長勇議員は、旭学園の理事長が溝上泰弘氏に交代したことを踏まえ、小松市長と新理事長との間で財務状況やリスク管理について話をしたのかを問うた。これに対し、小松市長は、溝上理事長に対して学生確保を再三強く求めたと説明した一方で、「具体的なリスク管理については、その場では話していません」と答弁した。

 さらに朝長議員は、武雄アジア大学の初年度入学者が37人にとどまったことで、資金計画がすでに崩れているのではないかと指摘し、旭学園から財務資料を取り寄せてチェックすべきだと求めた。これに対し、小松市長は「大学を生かしたまちづくりを進めていきたい」と述べ、リスク管理については旭学園と連携しながら意見交換し市としていうべきことは伝えていくと答えたのみで、具体的に財務資料をどう確認し、どのように評価するのかについて方針を示したわけではなかった。

 また6月15日の豊村貴司議員の質疑でも、財務確認の問題は正面から問われた。豊村議員は、市が多額の補助を行った立場として、旭学園が継続的に大学を運営できる財務状況にあるのかを確認する必要があると指摘した。これに対して企画部長は、旭学園が短大や高校、こども園などを複合的に運営しているため、年度途中に財政状況を確認することは難しいと述べたうえで、財務面に限っての協議は行っていないと答弁した。

 これらの答弁から見えるのは、武雄市が旭学園に対して学生確保を強く求める一方で、その前提となる財務状況の確認には十分に踏み込んでいないという構図だ。

学生募集の負担は旭学園全体に及ぶ

 もちろん、学生確保を求めること自体は、大学運営上当然の要請であり、武雄アジア大学の入学者が37人にとどまった以上、翌年度以降の学生募集が最重要課題となることも理解できる。しかし、問題は、旭学園の財務余力が限られるなかで、武雄市が「次年度学生の確保」を求めることが、武雄アジア大学を超えて旭学園の既存校などに対してどのような影響を与えるかだ。旭学園は、既存校として佐賀女子短期大学、佐賀女子高等学校、こども園などを運営しており、それぞれの地域ならびに学生たちに対して教育機会を提供している。そのなかで佐賀女子短期大学は、25年度の留学生の増加によって、学費収入と補助金収入を持ち直した。

 しかし武雄アジア大学の入学生数を37人から大きく回復させるには、通常の学生募集だけでは足りない可能性が高い。高校訪問、進学相談会、地域向け説明会、広告宣伝、外部委託、留学生募集、さらには地域で揺らいだ信頼の回復・構築など、多方面での取り組みが必要になる。そこには当然、費用と人的資源が必要になる。武雄アジア大学の初年度学費収入が十分なものでなかった以上、こうした学生確保費用は、旭学園全体の資金繰りのなかで捻出されることになる。それは、既存校の教育環境、設備更新、教職員体制、留学生支援などに回すべき資金や人的資源を圧迫する可能性がある。

 前回記事で見た通り、旭学園はすでに運営費などに充て得る積立資産をほぼ使い切っている。しかも旭学園は既存校の将来の設備更新や教育環境の維持のための十分な積立を行っていない。その状況で武雄アジア大学の学生確保のために、旭学園が余裕のない財務のなかから必要な費用を捻出しようとすれば、結果として、既存校の教育環境に何らかの犠牲を強いることになりかねない。

政策リスクを誰が負うのか、行政倫理上の懸念

 6月定例会で豊村議員は、武雄アジア大学の問題が旭学園の既存校などへ影響することがあってはならないと指摘した。それに対して小松市長は、市の役割として「大学を生かしたまちづくり」を前面に出し、大学誘致は市の将来にとって必要な政策であり、その政策効果を実現するために責任をもって取り組むと述べた。そして、学生確保については法人が主体であるとしつつ、市として確実な学生確保を強く促し、働きかけていくと答弁した。

 ここに、今回の問題の核心がある。

 武雄市が大学誘致をまちづくり政策として推進することは、自治体の政策判断であり、それ自体を否定するものではない。しかし、その政策効果を実現するために旭学園へ学生確保を求めるのであれば、その学生を受け入れる法人の財務基盤と、入学後の学生保護策を確認する責任も、武雄市は同時に負うのではないか。旭学園はそもそも財務的に余裕がある学校法人ではなかったからだ。だが武雄市は今までその点を曖昧にしたまま、旭学園に対して学生確保を求めてきた。

 武雄市にとっては、学生数が増えれば「大学を生かしたまちづくり」の前提が整う。だが、学生確保のために旭学園の資金余力が削られ、既存校に影響が及び、あるいは入学した学生の教育環境に不確実性が生じるのであれば、そのリスクを負うのは武雄市ではなく、旭学園と学生たちである。この構図は、武雄市の政策推進に行政倫理上の懸念が生じつつあることを意味する。

武雄市は旭学園に収支計画の提出を求め、市民に説明を

 武雄市が本当に武雄アジア大学の学生確保を後押しするのであれば、旭学園に学生募集の努力を求めるだけでは不十分だ。少なくとも、武雄市は旭学園に対して、25年度決算を踏まえた今後4年以上の収支計画の提出を求めるべきである。武雄アジア大学の学生数が計画を下回った場合、どのように運営費を確保するのか。追加的な広報・募集費用は誰が負担するのか。既存校の教育環境や設備更新に影響は及ばないのか。学生数が回復しなかった場合、在学生の教育継続をどう担保するのか。これらを確認し、市民と議会に説明する必要がある。

 また、学生募集は、単に定員を埋める行為ではない。入学した学生の4年間を引き受ける行為だ。とくに新設大学の場合、学生は大学の実績が十分に見えないなかで進学先を選ぶ。だからこそ、設置者である旭学園だけでなく、誘致を主導し多額の公費を投じた武雄市にも、学生が安心して学び続けられる条件を確認し、説明する責任がある。旭学園の財務状況を見る限り、現状で学生確保を求めることは、同時に学生を守る仕組みを示さなければならない段階にきているのではないか。大学誘致を「教育機会の創出」として進めてきた武雄市の責任として、検討すべきことであろう。

「地域の大学」に必要な説明責任

 武雄市が問われているのは、旭学園に学生確保を求めること自体ではない。問われているのは、学生確保を求める前提として、旭学園の財務状況、武雄アジア大学の事業継続性、既存校への影響、そして入学する学生の保護策をどこまで確認し、説明してきたのかだ。

 小松市長が「大学を生かしたまちづくり」を依然として掲げるのであれば、その前提としてまず、その大学を選ぶ学生と、既存校で学ぶ学生たちの教育環境は守られなければならない。武雄アジア大学が本当に「地域の大学」として信頼を得るためには、学生を集める前に、学生を守る説明が必要である。その説明責任を果たせるかどうかが、いま武雄市に問われている。

住民監査請求が問う補助金交付の判断過程

 7月10日、武雄市民3人が武雄市監査委員に住民監査請求を提出した。請求は、武雄市を通じて旭学園に交付された補助金19.5億円について、補助金交付決定に至る判断過程が合理性を欠き、裁量権の逸脱・濫用にあたる違法・不当な支出だったなどと主張し、市長及び財務会計責任者に対し、旭学園に対する補助金返還請求を行うよう勧告することなどを求めるものだ。

 次回は、武雄アジア大学をめぐる住民監査請求を手がかりに、補助金19.5億円の交付決定に至る過程で、武雄市の検証と説明が十分だったのかをあらためて考える。

(つづく)

【寺村朋輝】

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