(株)サンエーテクノ
代表取締役 秋永正信 氏

建設業界で職人不足が深刻化するなか、専門性の高い鉄筋継手工事でも、人材の確保と定着が大きな課題となっている。(株)サンエーテクノでは、月給制や週休2日制、評価制度の整備に加え、外国人材の育成や社員寮の整備など、働き続けやすい環境づくりを進めてきた。同社代表取締役・秋永正信氏に、職人不足への対応と業界の課題、今後の人材戦略について聞いた。
仲間4人で創業、職人を守る経営
──まず、会社設立の経緯を教えてください。
秋永 当社は2011年7月に創業し、12年4月に法人化しました。現在は社員が20人で、そのうち現場で働く職人が16人です。私自身、もともとは鉄筋継手の職人でした。独立を決意した直接のきっかけは、当時一緒に働いていた仲間の1人が、この業界を辞めようとしていたことです。私はその上司だったのですが、「この仕事を辞めるぐらいなら、自分たちでやってみよう」と話したことが始まりでした。
創業時は、私を含めて4人でした。仕事のあても十分にはなく、最初は本当に大変でした。それでも皆で一緒になって仕事を続け、少しずつ取引先を増やしてきました。
当時の目標は、本当に身近なものでした。「今日、仕事が終わったら皆で焼き肉を食べに行こうと思ったときに行ける会社にしよう」とか、「寿司を食べたいと思ったら食べに行ける会社にしよう」とか。そういうところから1つひとつ目標をつくり、実現してきました。
人を採り、人を育てる
──現在、建設業界では、少子高齢化による職人不足が大きな問題になっています。御社の採用状況はいかがですか。
秋永 新卒採用は非常に厳しいですね。今年は久しぶりに1人入社しましたが、この10年ほどで新卒採用できたのは数人程度です。
九州各地の高校約30校を回り、会社や仕事について説明しています。社員の母校を訪問することもあります。卒業生である社員を一緒に連れていくと、先生方にも「頑張っているな」と声をかけてもらえますし、後輩にも仕事を身近に感じてもらいやすい。そういうつながりを少しずつつくっています。
高校生向けの企業説明会にも参加しています。福岡だけでなく、熊本の会場にも出展しています。すぐ採用につながるわけではありませんが、会社見学にきてくれる高校生も出てきました。まずは、会社や仕事を知ってもらうことから始めるしかありません。
──せっかく採用しても、若い人が定着しないという問題もあります。
秋永 今は「入ってもらうこと」と同じくらい、「続けてもらうこと」が大事だと思っています。入社してもすぐ辞めてしまえば、採用活動をどれだけ続けても人は増えません。
今年入った社員についても、「安心して働き続けてもらうこと」を社内のテーマにしています。とくに夏場は現場が非常に暑いので、毎日現場に出すのではなく、たとえば月曜と火曜は現場、水曜は事務所で座学、木曜と金曜は再び現場、土日は休ませる、といったかたちで負担を調整しています。
以前であれば、新人でも半年から1年程度で一人前にしようという感覚がありましたし、先輩も厳しく指導していました。しかし、今の若い人たちに、昔と同じやり方を求めるのは難しい。2年、3年という長い期間で育てるくらいの考え方が必要だと思っています。昔からいる社員からすると、「自分たちのころとは扱いが違う」という思いもあるでしょう。ただ、時代が変わっています。会社側も変わらなければ、人を育てることはできません。
──働き方についても、かなり早い段階から改善を進めてきたそうですね。
秋永 創業したときから月給制です。私自身が10代からこの仕事をしてきましたが、昔は高齢になっても仕事を辞められない先輩職人をたくさん見てきました。年金や社会保険などが十分でなく、年齢を重ねても生活のために現場へ出続けなければならない。長年1つの技術を磨いてきた職人が、そういう働き方を続けなければならないことに、疑問を感じていました。ですので、創業時から社員として雇用し、月給制にしました。会社にお金がなかった時期ですから、経営的には大変でしたが、そこは最初から決めていました。
その後、社員が続けて退職した時期があり、このままでは会社が維持できないという危機感から、週休2日制や給与の評価制度も導入しました。誰が何をできれば、どのように評価され、給与に反映されるのかを、できるだけわかりやすいかたちにしています。
──外国人材も積極的に採用されています。
秋永 現在、外国人社員は6人です。導入したのはコロナ禍より前で、鉄筋圧接の業界では比較的早かったと思います。日本人社員の待遇や評価制度を見直したとき、外国人社員についても同じ制度に変えました。すると、当社で採用した人だけでなく、他社で働いていた外国人にも「サンエーテクノは待遇が良い」と伝わるようになり、転職してきた人もいます。大事なのは、日本人と外国人を分けて考えないことだと思っています。
資格を取れば評価する。日本語を勉強してコミュニケーション能力を高める。そして、将来的には現場を任せられる人材になってもらう。特定技能2号を取得している社員もいます。外国人材を単なる人手不足の穴埋めとして見るのではなく、将来の現場を担う人材として育てていかなければならないと思っています。
──社員寮も整備されていますが、これも人材確保策の1つでしょうか。
秋永 そうですね。もともとは県外から入社した新卒社員の住まいを確保するため、別の建物を社宅として借りたのが始まりです。その後、社員も取引先も増え、本社を移転・新築することになりました。その際、「どうせなら社員が住める寮も一緒につくろう」と考え、社屋の2階に寮を整備しました。社員の通勤負担を減らせますし、県外から入社する社員や外国人社員にとって、住む場所を会社が用意できることは安心材料になります。
現在は、日本人社員と外国人社員とで寮を分けていますが、こうした受け入れ環境を用意しておくことも、人を採用するうえで重要になっていると思います。
品質支える技術者集団
──自社の強みをどのように捉えていますか。
秋永 創業メンバーが、今も会社の中核を担っていることです。会社を立ち上げたとき、一緒に苦労したメンバーが現在も中心にいます。そのため、創業時から大事にしてきた考え方が、会社のなかに根付いています。
当社は100人、200人という規模の会社ではありません。毎月、社員が集まって会議を行っていますし、私がお客さまや業界から得た情報も、比較的早く社員全体に伝えることができます。経営側の考えや会社の方向性を共有しやすいことは、小規模な会社だからこその強みだと思います。
また、品質面についても力を入れてきました。創業当初は何の認定もありませんでしたが、「技術だけでなく、品質管理もしっかりやっていこう」と考え、第三者認定の取得を進めてきました。現在では、日本鉄筋継手協会から「優良圧接施工会社」「優良A級溶接施工会社」「A級圧接施工会社」の認定を受けています。
もちろん、認定を取得して終わりではありません。社内でも技術研修を継続的に行い、若い職人が高い技術水準のなかで学び、技術を身につけられる環境づくりに取り組んでいます。個々の職人の技量だけに頼るのではなく、会社全体として一定以上の品質を維持できる「技術者集団」でありたいと考えています。
大型工事時代に生き残る条件
──鉄筋継手業界の現状を、どのようにみられていますか。
秋永 最近感じるのは、工事そのものが大型化していることです。大手ゼネコンが受注する工事では、数百億円規模の案件も珍しくなくなりました。大きな工事が始まれば一気に人手が必要になる一方、それが終わると次の案件まで仕事量が落ち込む。繁忙期と閑散期の波が、以前より大きくなっていると思います。
一方で、職人そのものは長期的に減っています。新しく入ってくる人が少ない一方で、ベテラン職人は高齢化している。仕事が少ない時期には「人が余っている」と感じても、大型工事が始まった途端に「人がまったく足りない」となる。各社が抱えている職人の数自体が減っていますから、繁閑差への対応は以前より難しくなっています。そうしたなかでも、福岡は全国的に見れば仕事が多く、恵まれている地域だと思います。
──そうした繁閑差に、どのように対応していますか。
秋永 私は「機動力」が大事だと思っています。社員を雇用している以上、仕事が少ない時期でも給与を払い続けなければなりません。だから、福岡で仕事が少なければ、ほかの地域へ行ける体制をつくる必要があります。実際に、県外の大型工事へ社員を送り出したこともあります。社員ですから、出張費なども会社が負担します。それでも、人材を維持し、技術者として育て続けていくには、仕事がある地域へ動ける体制が必要です。
これまでの専門工事業は、仕事が増えれば人を集め、仕事がなくなれば職人側が耐えるという面もあったと思います。しかし、これからはそれでは人が集まりません。社員化を進め、一定数の職人を自社で抱え、その人たちを必要な地域へ動かせる会社になる。そうした機動力がなければ、これからの時代に雇用を維持していくのは難しいと思います。
──そのためには、適正な工事単価も必要になります。
秋永 そこは非常に重要です。職人を雇用し、新しい人材を採用して、2年、3年かけて育てる。その期間だけを見れば、会社にとってはすぐ利益につながらないコストです。
しかし、「無駄だからやらない」と考えてしまえば、5年後、10年後には仕事をする人自体がいなくなります。将来にわたってお客さまへ技術を提供するためには、若手を育成するコストも含めて価格を考えてもらう必要があります。
材料価格の上昇については比較的理解していただけるのですが、人件費の上昇については、まだ厳しい反応もあります。しかし、材料ももちろん重要ですが、現場で施工する人がいなければ建物はできません。人を育て、雇用し続けるために必要な価格について、我々専門工事業者も、元請企業(委託事業者)にしっかり説明していく必要があります。
──元請企業側の理解にも、変化は感じますか。
秋永 以前とは変わってきたと思います。鉄筋関係の団体活動でゼネコン各社を訪問する機会がありますが、数年前は単価の話をしても、「そんな金額は出せない」という反応がほとんどでした。ですが今は、「職人が減っている」「高齢化している」という現状について、ゼネコン側にもかなり認識が広がっています。
私たち専門工事業者は、建築主に直接訴えることはなかなかできません。ですから、ゼネコンに我々の状況を理解してもらい、一緒になって発注者へ伝えてもらうことが重要です。まだ十分とはいえませんが、「このままでは職人がいなくなる」という危機感は共有され始めていると思います。
働きたいと思う会社へ
──最後に、サンエーテクノをどのような会社にしていきたいですか。
秋永 最終的には、働いている社員の満足度で、他業界やほかの建設職種に負けない会社にしたいですね。建設現場には、型枠、大工、鉄筋、とびなど、多くの職種があります。私たち鉄筋継手の職人は、1つの現場に入る人数だけを見れば決して多くありません。
しかし、人数が少ないからといって、その仕事の価値が低いわけではありません。優れた技術をもった職長や職人であれば、ほかの主要職種と比べても遜色のない待遇を受けられる業界でなければ、若い人は入ってきません。
だからこそ、技術力や品質、会社としての管理能力を高め、その価値をお客さまに理解してもらう。そして、そこで働く社員が「この会社で働いていて良かった」と思える待遇や環境をつくっていきたい。給与だけではありません。休日や福利厚生、働きやすさ、仕事への誇りも含めて、社員満足度で他社や他職種に負けない会社にする。それが、私が目指しているサンエーテクノの姿です。
鉄筋継手は一般にはあまり知られていない仕事ですが、建物を支えるうえで欠かせない専門技術です。だからこそ、若い人にも「これだけ貴重で、大切な技術を身につけられる仕事なんだ」ということを伝えていきたいですね。
【内山義之】
<COMPANY INFORMATION>
代 表:秋永正信
所在地:福岡県糟屋郡宇美町障子岳南3-10-19
設 立:2012年4月
資本金:1,000万円
URL:https://www.three-a-techno.com
<プロフィール>
秋永正信(あきなが・まさのぶ)
1980年3月生まれ、飯塚市出身。社会人となり鉄筋継手工事会社勤務を経て、2011年7月創業、12年4月に(株)サンエーテクノを設立し代表取締役に就任。西日本圧接業協同組合の理事、全国圧接業協同組合連合会の監事を務める。趣味はゴルフ、料理。

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