
筆者イメージ作成
2026年秋、「踊る大捜査線」が映画で帰ってくる。“やつら”が刑を決め、人を裁いていく…、どうやらAIの台頭が描かれるようだ。これまで人がやっていた仕事をAIが代替する。今後、あらゆる仕事のなかで同様のシチュエーションが想像されるところだが、テクノロジーに指揮や判断を任せられるかどうか。現場の人間臭い苦悶が、青島刑事を通じて描かれていくようだ。1997年に始まったドラマで久しぶりの登場。人気の隆盛を筆者も目の当たりにしてきた世代だが、時代の偏重のなかでどのような感情が行き交い、変化はどこに向かっていくのか…、30年の時を経て、社会環境や仕事の変遷、人の感情をあの頃と比べてみられる点で、今から楽しみにしている。1月にはクリスト・プラット主演の映画『MERCY/マーシー AI裁判』でも同様のストーリーが描かれていた。
重厚長大企業に注目
AIでは代替できない資産や技術を持つ企業として、「HALO銘柄」が注目されている。2026年2月にアメリカの投資運用会社が提唱、3月に大手投資銀行が投資家向け資料で取り上げ話題となった。“HALO(ヘイロー)”とは「Heavy Asset Low Obsolescence」の頭文字からとった造語で、価値の高い資産(Heavy Asset)をもち、事業の陳腐化リスクが低い(Low Obsolescence)企業のことを指す。石油・鉱山や工場、産業機械、店舗・物流網など、実物資産を保有する企業が代表格だ。
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AIは、膨大なデータの高速処理やパターン認識、自動化などの分野で強みが発揮される。ソフトウエアサービス関連企業などは、主に業務効率化を目的にAIを活用してきたが、技術の急速な進化で、最終的にAI自体がソフト企業の業務を代替してしまうという副産物を生んだ。一方、巨大な工場や産業設備/店舗は、経済や生活に直接的に必要なインフラである。これらかたちある資産を保有する業態は、AI時代でもその魅力を損なわず、むしろその進化は自社の業務を後押してくれる。これがHALO銘柄の特徴であり、強みだ。AI時代の今、改めて重厚長大企業が注目されている。
人間らしさを実装する?
これまでの仕事のやり方が、いきなり無価値になるわけではないだろう。しかし、AIが入ることで、相対的な価値が下がるのは明白。これから頭脳労働は危うく、現場労働が代替されにくくなると叫ばれるかもしれない。私たち“人”に問われてくるのは、データになっていない現場の生の情報を取ってくる力、相手と関わっていく力、つまり“現場で気づき、決行すること”だろう(詳しくは本誌94号/26年3月末発刊「ホワイトかブルーか/道具箱か教科書か」を参照されたい)。
ただ実際の会社や現場では、まだまだ割り切れない。客ごとに事情は違い、現場に例外は付き物。「システム上はこうでも、実際はこう運用している」という話はザラだ。もちろんAIネイティブ化に、標準化やデータ化は必要だろう。しかし、すべての例外を切り捨て、組織を自動販売機にすればいいわけではない。クライアントや現場のために、人間がカバーしなければならない領域は必ず在るはずだ。
たとえば、本当に良い医者は、診断や治療が正確なだけではなく、データに表れない情報も引き出し、総合的に判断する。耳の痛いことも含めて伝えてくれる。人と接触する現場も同じだ。クライアントを思って踏み込み、いうべきことはいう。嫌われても、面倒でも、本当に相手のためになるなら、おせっかいでもやる。そういう胆力が大事になる。むしろ標準化できる仕事がAIに移るほど、そうした人間的な部分の価値は高まっていくだろう。AIがそれっぽい答えをいくらでも出せるようになるからこそ、より人間らしさ、人間臭さが恋しくなる。
AIは心地良いのか…
これまでホワイトカラーの仕事の多くは、作業、確認、承認、引き渡しという業務フローのなかに、人間が入ることで成立していた。そこにAIエージェントが入ると、一連の流れは彼らで処理できるようになる。人間は1つひとつの作業ではなく、流れを上から見て設計・監督し、アクシデントやイレギュラーに対応する側に回る。人間の仕事はフローのなかでの「作業」から、その上段へと移っていくのだ。
AIで心地良いと感じられるときは、反対側で“より人間らしさを出せているか”という過程を実装することになるだろう。だから、今までの仕事が消えるというよりは、仕事の輪郭が変わり、組み替えられていくような社会。そのなかで人間は、より現場や客に近いところで価値を出す方向へ向かっていくだろう。だから「AIで仕事がなくなる」と心配するより、「AIで仕事をどう変えるか」に目を向けたほうが良い。彼らは、きれいな資料を一瞬で量産してくれる。でも、営業部長と開発部長の積年の因縁を汲み取って、会議の前にそっと話を通しておくなんて芸当はできない。むしろ、そういう“人間臭い仕事”こそが、最後まで残るかもしれない。最近は、そんな気さえしてくる。
“AIが怖い”
時代を象徴するような印象的なニュース。アメリカの大学の卒業式で、Google元CEOのエリック・シュミット氏がAIについて語ったところ、学生たちからブーイングが起きたという。彼らにとってAIは、便利な道具でも明るい未来をつくる技術でもない。むしろ、これから得られるはずだった仕事や報酬機会を奪っていく、脅威として見られているようだった。大人たちは最先端のテクノロジーに魅了され、次代のためにと可能性を拡げるAI開発に夢中になる一方、労働市場にまだ入ってきていない若者たちには恐怖として映っているのかもしれない。
25年11月のある調査によると、生成AIの普及後、AIの影響を最も受けやすい職種に就く22~25歳の労働者は、企業の雇用判断に影響し得るほかの要因を制御したうえでも、雇用が相対的に16%減少したという報告書があがった(スタンフォード・デジタル・エコノミー・ラボによる報告書)。同じ職種でも、経験豊富な労働者は同様の減少を被っていない。懸念はあくまで、AIの影響に晒されているキャリア初期の職種に限定されている。現段階でAIは仕事全体を脅かしているのではなく、まずはキャリアの第一歩を踏み出す若者の入口を奪おうとしている。
しかし若い労働者の価値は、業績に直結する数字の部分だけではないはずだ。学習、スキル形成、組織の継続、何より将来の生産性にある。新卒の採用は単なる費用ではなく、将来への投資だということも理解しなければならない。でなければ、短期的に効率化した結果、社会は長期的に能力を失っていくことになる。
“─人気の中高一貫校に入り、名門大学を経て、良い企業に就職する─“。AIが社会を変革するなか、日本で鉄板とされてきた成功ルートが崩れつつある。「良い大学」を卒業しても、経験の少ない若者は就職できなくなってきているのだ。AIが普及すればするほど、これまで日本人が信じてきた「良い大学、良い会社に入れば、人生安泰」という考え方が揺らぎ、稼げる仕事/必要なスキルは根本的に変化する。これまで成功を導いてきた法則が、影をひそめる。「お受験」「偏差値」の見方も変わってくるかもしれない。
労働市場に参入しようとしている若者の、育成・準備・支援の在り方を変えなければならないだろう。AIが補完する労働力の時代に向けて、教育機関も“それ”を前提にした教育方針へ転換する必要がある。企業がキャリア初期の労働者を採用・育成しやすいような土壌づくりを、政府も講じなければならない。我々はAIに精通した長期的な労働力を育成することの重要性を認識し、学生自身もまたAIに習熟するだけでなく、その知識をさまざまな分野に応用できる術を身につける必要がある。
スキルを見直す必要性
多くのビジネスパーソンも、スキルセットの見直しが必要だと感じている(「AI時代のキャリア観」調査より引用_ビズリーチ調べ)。自身が強みとしてきたスキルや専門性が、生成AIによって代替・侵食されているかという問いに対して、全体では「感じる(強く感じる・ある程度感じる)」と回答した人の割合は56.8%におよぶのだという。生成AIによる代替・侵食が進んでいる/または今後進むと思うスキルに対しては、専門スキルでは「データ分析、予測モデリング(55.1%)」「翻訳・言語処理(50.5%)」「専門的な文書作成・執筆(47.1%)」が、汎用スキルでは「情報の収集・整理・集計(58.5%)」「定型的な文章作成・ドキュメンテーション(58.1%)」「計画立案・タスク管理(49.4%)」が上位に挙がった。生成AIの普及を踏まえて、自身のキャリアプランを「見直した/見直す必要性を感じる(全体的に見直した/一部見直した/1年以内に見直す予定/必要性は感じているが時期は未定)」と回答した割合は、79.2%にのぼった。
頼り過ぎもほどほどに
一人暮らしを始めると、朝クローゼットを開けても「今日は何を着ればいいんだろう」と、毎日のように立ちすくんでしまう大学生がいるという。雨の日は何を羽織ればいいのだろう…、少し肌寒い日は半袖でいいのか…長袖にすべきなのか…。判断に迷うたびに、母親へLINEで「今日って何を着ればいい?」と聞いてしまうのだと。どうやら子どものころから、母親が次の日に着る服をベッドの上に並べてくれていたようだ。そのときは当たり前過ぎて気づかないが、親が手を差し伸べることをそのまま聞いていればよかったので、自分で考える必要がなかった。親が先回りしてしまえば、その日は困らずに済む。でも、その小さな「困る経験」を積み重ねる機会こそが将来、自分で考えて行動できる力につながっていくのではないか。「今日は何を着よう」と考えることも、小さな自立の一歩になる。
親に守られ過ぎた子どもが小さな自立で躓くように、親が先回りし過ぎた子どもの末路を憂いてしまう。今後、AIが親の代わりに守ってくれるだろう。的確な助言もあることだろう。しかし親同様に、AIに守られ過ぎることで失うものも、少なからずありそうだ。何事もほどほどに、頼り過ぎは自分を見失ってしまう。
話題の映画『キングダム~魂の決戦~』は、ご覧になっただろうか?劇中、漢臭い酒飲みシーンがあった。自らを鼓舞する言葉を交わし、酒を注ぐ将軍…
“もっとうまい酒を飲ませてくれるだと?”
“……”
“それは、楽しみじゃのう”
フムフム、なかなか趣深い。命を懸けて戦う漢たちの重みある一言に、人知れず涙した。気持ちと気持ちがむき出しにぶつかる荒々しさ。人間臭さとは、このようなことをいうのだろうか。
今はまだ、AI浸水の入口に立っているにすぎない。“AIは心地良いもの”になっているだろうか?…この懐疑的な感覚も、忘れないように持ち続けたい。良いものを取り入れることと、良いものかどうかをちゃんと判断できる分別を以て、新しい時代へ突入する。新たな荒波にある新・航海をどのように漕ぎわたっていくか。あなたはこの新世界の入口で、どのような準備を始めているだろうか。
<プロフィール>
松岡秀樹(まつおか・ひでき)
インテリアデザイナー/ディレクター
1978年、山口県生まれ。大学の建築学科を卒業後、店舗設計・商品開発・ブランディングを通して商業デザインを学ぶ。大手内装設計施工会社で全国の商業施設の店舗デザインを手がけ、現在は住空間デザインを中心に福岡市で活動中。メインテーマは「教育」「デザイン」「ビジネス」。21年12月には丹青社が主催する「次世代アイデアコンテスト2021」で最優秀賞を受賞した。

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