光を失った裏磐梯(2)クマが出た

福島自然環境研究室 千葉茂樹

 7月17日の「クマによる観光客襲撃事件」を踏まえ、今回は「クマ問題」を考える。

クマ問題①─貸し出しの鈴─

 今年7月17日、観光客がクマに襲われてケガをした。現在、遊歩道の入り口には「クマ注意」の看板が立てられ、通行は「午前9時~午後4時」に限られている(画像07)。

画像07

 また、遊歩道の売店では「クマ鈴の貸し出し」が行われている。貸し出しのクマ鈴は2種類ある。福島県貸出しのものは無料で(画像08)、裏磐梯ビジターセンター貸し出しのものは(200円+保証金1,000円)である(画像09)。

画像08

画像09

 私の見解をいえば、「2つともないよりはマシ」という代物である。まず、福島県貸し出しのものは響きが悪く、ほとんど役に立たない。裏磐梯ビジターセンター貸し出しのものは、福島県のものよりマシであるが、あまり響かない。この鈴は体に貼りつくと、音が大幅に小さくなる。これを使いこなすには、腰につけるのではなく、紐(ひも)を長くし、体に貼りつかないように垂らすしかない。

 最も有効な鈴は、「南部クマ鈴」である(クマ問題を考える(前)対策グッズ・専門家の話など)。画像を再掲載する(画像10)。この鈴は、体にぴったり貼り付けても鳴り響く。私の経験では、見通しの効く山で、約5km先の猟犬が反応した。

画像10

クマ問題②─ではどうすべきか─

 基本は、ヒトが「クマのいる環境に立ち入ることを自覚」することである。クマ問題は、ヒトがこの基本を忘れたことに起因する。さらに、食べ物の「ポイ捨て」が大きな誘因となっている。

 裏磐梯は「クマの生息地」である。すなわち「クマの住んでいる場所」をヒトは歩くのである。だから、絶えず周囲に気を配り、自分がいることをクマに知らせなければならない。

 一番良いのは「声を出す」ことである。クマ鈴よりもこちらである。通常、クマは臆病なので、ヒトの声がすれば出てこない。大きな声で連続して歌えば、クマはほとんど出てこない。

 ただし、クマは関心の高いものがあれば(たとえば食べ物)、ヒトがいようが出てくる。そうならないように、気を付けなければならない。ところがこれを無視するヒトが多すぎる。

「クマに対しての注意点」

★「みんなと一緒だから安心」というのは間違いである。他人に頼り、注意散漫になる。野生動物が接近しても、気が付かない。こういう観光客が多い。
★絶対にダメなこと。「食べ物を捨てる」こと。クマは食べ物の臭いに釣られて遊歩道に出てくる。そして、食べ物のおいしさを知ると、それをもっているヒトを襲う。

 この2つが複合すると、「食べ物の臭いに釣られたクマが、ヒトの気配がしても、食べ物欲しさにヒトを襲う」となる。

 余談である。最近、磐梯山麓では、野生動物が街の中心部に出没するようになった。このため、ついに猪苗代町の中心部にも、「イノシシ捕獲装置」が設置された(画像11)。第1号と表示されている。

画像11

 私の疑問は、「こんな銀ピカの檻(おり)に、野生動物が入るのであろうか」である。見るからに人工物で、自然のものとは違う。よっぽど間抜けな動物でない限り、入らないと思う。

※9月20日現在。このオリの周辺では、イノシシにより地面がいたるところで掘り返されている。イノシシに完全になめられている。

クマ問題③─自然は臭う─

 自然のなかでは「いろいろな臭い」がする。「植物の臭い」「動物の臭い」がする。また、臭い方は、気温・湿度、昼か夜か朝夕かで、変わる。日中は、上昇気流が起きやすく、臭いは空へ逃げる。

 たとえば、病気の樹木は、特殊な臭いを放つ。20ⅿ先でもわかる。私の経験では、「松はプロポリス」「桜はメイプルシロップ」の臭いがした。

 動物はさらに臭う。縄張りのため、マーキング(タヌキがマーキングをする理由は?)をすることが多い。猫が有名であるが、野生ではキツネもかなりきつい臭いを付ける。クマの場合、私の経験では「畜舎の臭い」がする。この臭いの変化を感じられれば、野生動物が近くにいることに気付く(クマ問題を考える(前)対策グッズ・専門家の話など)。

クマ問題④─集団は安全か─

 テレビなどでは、「クマに出会わないためには、1人で歩かず集団で歩く」と繰り返し放送されている。

 私の考えは「逆」である。私の経験では、集団行動は「みんなと一緒にいる」という「安心感」が漂い、危機意識が薄くなる。また、集団に対し「変な遠慮」が生じる。町のなかも同様の心理状態(人がいっぱいいる)で、緊張感が薄れる。まとめれば、集団行動では「メンバーに頼る」心理が生じ、「五感」が鈍る。

 私は山を1人で歩く。自然のなかでは、五感を常に鋭敏にし、危険をいち早く察知しなければならない。また、単独行動では、問題が生じた際に「すべて自分で解決」しなければならず、ある意味「常時、興奮状態」で機敏な行動ができるし、そうしなければ生きて帰れない。また、集団に対しての「変な遠慮」をしなくて済む。

 論より証拠で、私は1979年から、地質調査を「単独」で行っている。クマなどの野生動物に多数出会ったが、いまだに生きている。襲われることはなかった。死にそうになったのは、「沢での巨石の崩落」であった。このときには、約30秒前に落石を察知し、退避している(国分太一氏の会見を見て~何が真実なのか──(後))。重要なのは「五感」である。

(つづく)


<プロフィール>
千葉茂樹
(ちば・しげき)
千葉茂樹氏(福島自然環境研究室)福島自然環境研究室代表。1958年生まれ、岩手県一関市出身、福島県猪苗代町在住。専門は火山地質学。2011年の福島原発事故発生により放射性物質汚染の調査を開始。11年、原子力災害現地対策本部アドバイザー。23年、環境放射能除染学会功労賞。論文などは、京都大学名誉教授吉田英生氏のHPに掲載されている。
原発事故関係の論⽂
磐梯⼭関係の論⽂
ほか、「富士山、可視北端の福島県からの姿」など論文多数。

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