2024年12月23日( 月 )

米国利上げの世界経済へのインパクト(前)

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日韓ビジネスコンサルタント 劉明鎬(在日経歴20年)

 米連邦準備委員会(FRB)は昨年12月17日に、2006年6月末以来9年半ぶりに金利上げを断行した。今回の金利上げは、数カ月前から予見されたものであったが、それでも新興国では資本流出が相次いだり、金融市場は不安定になっている。米連邦準備委員会は、利上げによる市場の衝撃を少しでも緩和するため、今後、利上げは段階的に、また市場が予見できるように行っていくことを明確にしている。

 しかし、今回の金利上げに対して、相当な反対意見があったことも事実である。反対する側の主な主張は、米国の金利上げは新興国の経済に衝撃を与え、結果的に世界経済を混乱させるということだった。それだけでなく、米国の経済も実際は利上げするほど堅調ではないという意見であった。
 とくにアメリカの製造業は業績が芳しくないなかで、今回の利上げはドル高をもたらし、そのドル高によってアメリカの輸出にマイナス効果が出て、米国の経済成長を下押しする要因になると指摘していた。

 そうした状況のなか、米国はなぜ利上げを断行したのだろうか――。

money 専門家は、凋落していくドルの信認を何とか取り戻すために、アメリカは今回の利上げを実施したと指摘している。中東でのドル離れ、台頭してくる人民元への対抗手段を講じる必要などから、ドル高に誘導する必要があったということだ。
 ドル高は原油安の一要因にもなり、産油国にとっては大きな試練に遭遇している。産油国のなかで、とくにブラジル、ロシアやサウジアラビアなどでは財政圧迫が起きている。米国はドルの権威を取り戻すと同時に、基軸通貨の座を狙う中国人民元への牽制と、中東で影響力を伸ばしつつあるロシアを牽制するため、今回の利上げを実施したというのが本当の狙いである、という話だ。

 米国の利上げに対して、各国はどのような反応を示しているのか。米国が金利を上げると、他の国では資金が米国に還流するのを防ぐため、当然自国の金利も上げることになる。

 しかし今回、中国はそれとは反対の動きをしている。すなわち中国は金利を下げている。それと同時に、人民元の為替レートも切り上げることで対抗している。普通なら、米国のこのような政策に追従するのが一般的であるが、中国は抵抗をしているわけである。
 その結果、中国では年初から株価が暴落したりしているが、今のところ米国の政策に屈せず踏ん張っているわけである。

 ロシアは中東で勢力を伸ばし、ある意味、アメリカ以上の影響力を行使している。ロシアの国の収入の8割は原油から得られる収入であり、政府財政の半分は原油から得られていることになる。
 ロシアのルーブルも、基軸通貨としての地位を密かに望んでいるが、米国の利上げでルーブルは暴落している。今回の金利上げには経済的な要因だけでなく、そのような政治的な要因も絡んでいるではなかろうか。

 今までアメリカは、金利を上げることでドル高に誘導し、それによって、ドルへの信任を回復させたりしたが、今回はそれが想定通りに運んでいない感じがある。次回の利上げは3月を予定していたが、イエレン議長は利上げの見送りをにじませている。言い換えれば、シナリオ通りの展開にならず、シナリオを修正せざるを得ないかもしれないという予想外の展開だ。
 世界経済を牽引していた中国経済にかげりが見え始め、中国経済のさらなる失速が懸念されている。また、原油安はエネルギー関連企業が多いなかで、業績悪化で株式市場に悪影響を与えている。唯一の希望であった米国も、実は経済がそれほど堅調ではないことが明らかになり、世界経済の先行きに対する不安が増大している。

(つづく)

 
(後)

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