川崎老人ホーム転落殺人事件(2)~介護職員の光と影
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第2回 介護ストレスが原因で彼を殺人にまで追い込んだのか?
今月4日、2件目となる女性(当時86歳)を殺害した容疑で、「Sアミーユ川崎幸町」元職員・今井隼人容疑者を再逮捕した。容疑者本人は黙秘しているというが、すでに入所者3人の転落死事件への関与を認めている以上、3人目(当時96歳)の女性についても近いうちに逮捕されるだろう。「ベランダに高さ60センチほどのパイプ椅子が置いてあった」「今井容疑者は、任意段階の県警の事情聴取で、『椅子を用意した』といい、県警は自殺に見せかけようとした疑いがあるとみている」(「朝日新聞」3月5日)。ただし、防犯カメラなどの設置もなかったため、物的証拠に乏しいという実情もあり、公判が維持できるか疑問視する声もある。防犯カメラに関しては、施設自体が設置に前向きではないところもあるという。入所者の監視ばかりではなく、介護職員の監視という意味も込められているため、相互不信が起きやすくなるからだ。
夜間、3人の職員で80人を担当する。「ルール上は1人のヘルパーでも夜間事業は可能。また、夜勤で連続16時間働いたとしても、間に2時間の休憩が入れば、労働基準法違反にもあたらない(高齢者事業推進課)」(「週刊朝日」16年3月4日号)と国はいうが、労基法に反しなければ、過酷な状況を看過してもかまわないという姿勢にも受けとることができる。
ライン(分刻みで職員の作業を定めた業務表)に定められた業務にストレスを感じたとも報じられている。合理的だが、介護する相手が生きた人間である以上、ライン通りに作業を進めることなどできるはずがない。加えて、認知症、徘徊、弄便(ろうべん・自分の便でもてあそぶ)、異臭…。23歳と若い今井容疑者が介護上でのストレスを感じるのは当然だ。
「Sアミーユ川崎幸町」では作夏、4人の介護職員が入所者に暴言を吐き、暴力をふるう事件が起こっている。「職員の介護に対する意識の低さ、モラルの低下」を指摘する人もいるが、狭い空間で思うようにはかどらない作業。いうことを聞かない入所者。わたしも30代で母親の介護(おむつの交換なども含め)を経験してきたが、それは自分の母親だからできたのであって、他人の下の世話をすることは正直考えにくい。
介護の夢と現実を見せつけられたとき、若い職員に正常な神経を維持することは困難だろう。マスコミの多くが今回の事件を、介護ストレスの延長線上で起きたものとまとめようとしている。しかし、それなら、同様の殺人事件が他の多くの施設でも起きているはずだが、(数件の不審死は報告されているが)このような明確な殺人事件は起きていない。なぜか。そこに今回の殺人事件の特異性があると思う。介護ストレスは単なる引き金であって、真の動機は意外にも単純なものであったのではなかろうか。(つづく)
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