2024年11月25日( 月 )

米国による米国企業のための日本国家戦略特区!(4)

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立教大学経済学部教授 郭 洋春 氏

 ――ここで、少し話を転じます。「米韓FTA」はTPPのモデルと言われ、また米国高官は口を揃えて、「TPPは米韓FTAの貿易自由化のレベルをもっと強めたもの」と言います。では、すでに「米韓FTA」が発効された韓国では今、SEZに関してはどんなことが起きているのでしょうか。

 郭 韓国のSEZである「経済自由区域」と日本の「国家戦略特区」には多くの共通点があります。同じ米国主導で、「国家戦略特区」は「経済自由区域」の模倣ではないかと思える点が多くあります。韓国で「経済自由区域」⇒「米韓FTA」に進んだ道のりは、日本が進もうとしている「国家戦略特区」⇒「TPP」と同じと言えるかも知れません。

経済面では、マイナスの効果さえ現れています

money 韓国の「経済自由区域」は一言で言えば、外資の誘致に関しては惨憺たる状況であり、経済面ではマイナスの効果さえ現れています。それは「経済自由区域」は日本の「国家戦略特区」と同様、途上国ではなく、工業化に成功した国が外資を誘致する目的で設置したSEZだからです。世界のSEZは進出する外国企業の完全な買い手市場です。世界に3,500以上あるSEZには人件費その他の面で、韓国は全く勝てません。つまり、米韓FTA、そして「経済自由区域」は韓国の経済成長に役立っていないと言えます。

 常識的に考えれば、韓国より人件費がかなり高い日本では、こと外資誘致に関してはもっと厳しいと思います。万が一にでも、誘致に成功する場合は「先進国としての体裁を一切かなぐり捨てた途上国並みの労働環境など」、とんでもないレベルの規制緩和が実現した時になります。

有給休暇や女性の生理休暇に関する規制を撤廃した

 ――外資の誘致に失敗、経済面でも効果の薄い韓国の「経済自由区域」ですが、その一方で、自国民にとっては人権侵害に近い「規制緩和」が行われているという話を聞きました。実際にはどのようなことが進行しているのですか。

 郭 韓国の「経済自由区域」では、驚くほど過剰な「規制緩和」が行われています。経済自由区域では、すでに派遣労働に対する規制緩和が行われています。しかし、一番私が驚愕したのは、「障害者、高齢者、国家功労者などの『就業保護対象者』に対する優先採用の義務を撤廃」したことです。さらに驚くべきは、「勤労基準法」(日本の「労働基準法」に相当)があるにも拘わらず、「有給休暇や女性の生理休暇に関する規制を撤廃」したことです。
 韓国の「経済自由区域」は日本円にして約13兆円もの国費をかけて建設しましたが、外資の誘致に失敗しました。その一方で、その優遇措置は外資系企業や外国人労働者に向けたものばかりで、自国民にとっては、「人権侵害」といってもいい規制緩和が進行しているのです。

外資の営利病院第1号の認可・建設が始まった

 ――「有給休暇や女性の生理休暇に関する規制を撤廃」したとは、かなりショッキングな事実ですね。驚きました。労働関係以外にはどんなことが起こっていますか。

 郭 韓国政府は国内の民間医療機関による「経済自由区域」内での混合診療を認める方針を打ち出しています。すでに、韓国最大の財閥である、サムスングループとソウル大学病院が名乗りを上げていますが、この政策は医療制度や技術の二重化、すなわち格差を生むものと国内で問題になっています。

 しかし、それ以上にショッキングなことが、島全体が「経済自由区域」になっている済州島で、15年12月に起きました。外資(中国資本)の営利病院第1号の認可・建設が始まったのです。中国の医療ツーリズム団体を対象に、早ければ、17年3月には開業します。株式会社の営利病院なので、儲けたお金は、必ずしも病院経営に回す必要はなく、株など他のものに投資することが可能になっています。そこでは、当然、高額な保険外診療、高度医療が行われることになります。 そのため、今韓国内で、その試算数字も出て、大きな問題になっているのが、「「営利病院が増えていくと、国民の保険料負担が増額となる」という可能性です。韓国社会では、確実に医療格差が拡がっています。

韓国民が使用する薬価を韓国政府が決められない

 また、自国民が使用する薬の価格を韓国政府が主体的に決めることができなくなりました。営利を目的とする米国の多国籍企業も参加する、独立的再評価機構「第3者委員会」にその決定が委ねられることになったからです。今、医薬品分野においては米国の要求を100%近く丸のみしています。その影響で、医薬品の価格が高騰し始めているのです。

富裕層だけが通える学校になると言われている

 米韓FTAの影響で、教育についても似たような現象が起きています。12年3月に、仁川市の松島国際都市に「ニューヨーク州立大学韓国キャンパス」、14年には「ジョージ・メイソン大学、ユタ大学(以上、米国)、ゲント大学(ベルギー)」が相次いで韓国校を開校しました。これらの“外資系大学”を誘致するにあたって韓国政府は、設立の際に支援金を出し、また決算上の剰余金の一部を本国に送金できるように法令も改正しました。しかし、これらの学校の学費は韓国の名門私立の高麗大学や延世大学などの2倍、3倍以上です。結果的に、「富裕層だけが通える」学校になると言われています。

(つづく)
【金木 亮憲】

<プロフィール>
kaku_pr郭 洋春(カク・ヤンチュン)
1959年7月生まれ、立教大学経済学部教授。専門は、開発経済学、アジア経済論、平和経済学。著書として、『韓国経済の実相─IMF支配と新世界経済秩序』(柘植書房新社)
『アジア経済論』(中央経済社)、『現代アジア経済論』(法律文化社)、『開発経済学―平和のための経済学』(法律文化社)、『TPPすぐそこに迫る亡国の罠』(三交社)、『国家戦略特区の正体』(集英社新書)。共著として『環境平和学』(法律文化社)、『グローバリゼ―ションと東アジア資本主義』(日本経済評論社)、『中国市場と日中台ビジネスアライアンス』(文眞堂)、その他多数。

 
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