【トップインタビュー】福岡を代表するクラブへ アリーナを核に新たな経済圏を
ライジングゼファーフクオカ(株)
代表取締役社長 高木潔 氏
ライジングゼファーフクオカ(株)は今年6月、高木潔氏を代表取締役社長に迎え、新たな経営体制を始動させた。2029年3月の開業を目指す新アリーナとB.PREMIER参入を見据え、競技力の向上に加え、演出やサービス、グッズ、顧客データを活用したマーケティングを総合的に強化する。観客とコートの近さを生かしたバスケットボール独自の体験価値をどう高め、野球やサッカーなど多くのプロスポーツがひしめく福岡で選ばれる存在になるのか。さらに、アリーナ、ホテル、商業施設を結び、アイランドシティ全体に人と消費を呼び込む構想について聞いた。
(聞き手:(株)データ・マックス 代表取締役社長 緒方克美)
ハウステンボス再建から
アイランドシティへ
──今年6月、ライジングゼファーフクオカ(株)の代表に就任されました。もともと(株)エイチ・アイ・エス(HIS)に在籍し、長崎県のハウステンボスの再建にも携わったと聞いています。これまでの経歴を教えてください。
代表取締役社長 高木潔 氏
高木潔氏(以下、高木) HISには32年在籍していました。ハウステンボスの経営が厳しくなり、HISが買収することになった際、創業者の澤田秀雄会長が立て直しに入ることになりました。当時、私はHISで役員を務めていましたが、創業者でハウステンボス社長を兼任していた澤田会長からお声がけいただき、4年間、ハウステンボスに住み込みで仕事をしました。
その後はHIS本社に戻り、2017年に会社を設立しました。その際、ハウステンボス時代から存じ上げていた(株)やずやの矢頭美世子会長、矢頭徹社長から、当時まだ開発途上だったアイランドシティで、ホテルの建設、運営を手伝ってほしいとお誘いいただいたのが、アイランドアイの開発に関わるきっかけでした。ホテルをどのようにつくるか、どう集客するかといったことを含め、アイランドアイのホテル運営を中心に、8年以上サポートしてきました。その流れのなかで今回、ライジングゼファーフクオカとのご縁をいただきました。まさか自分がバスケットボールクラブの社長になるとは思っていませんでしたが、アイランドアイの開発、ホテル運営、集客に携わってきた経験の延長線上に、今回の就任があったと考えています。
新体制で迎える「次のフェーズ」
──ライジングゼファーフクオカの現状をどのように捉え、今後どのようなクラブを目指しますか。
高木 前任社長の尽力によって、クラブの土台はここまでしっかりと築かれました。昨季はホームゲームで約12万5,000人のお客さまに来場いただき、2029-30シーズンのB.PREMIER参入に向けた初年度の平均入場者数基準を達成することができました。
ただ、ここから先は次のフェーズです。29年3月の開業を目指して新アリーナの建設も予定されています。そこに向けて、クラブとしてもう一段階フェーズアップしなければなりません。新しいアリーナをつくっても、クラブがB.PREMIERでしっかり評価される存在にならなければ、アリーナの運営も成り立ちません。福岡市は人口160万人を超え、バスケットボール王国と呼べる土壌もあります。そのなかで、ライジングゼファーフクオカが「福岡を代表するクラブ」になっていくことを目指したいと考えています。
──6月には、釜渕俊彦氏も副社長に就任しました。新体制では、どのように役割を分担しますか。
高木 釜渕は、経営における定量的な部分、数値を追う部分に加え、リーグ制度やクラブ経営の実務に強みがあります。滋賀レイクスで長くクラブ運営に携わり、社長も務めた経験があるため、B.LEAGUEの制度や実務を非常によく理解しています。
私はどちらかというと、定性的な部分を担います。クラブの経営力や認知度をどう高めるか、地域とどう密着するか、どのような体験価値をつくるかという領域です。
目指すは有料で埋まるクラブ
──B.PREMIER参入も見据えるなか、集客と収益の関係をどのように考えていますか。
高木 2026-27シーズンからはB.ONEで戦い、その先にB.PREMIER参入を目指します。B.LEAGUEは、売上高、平均入場者数、アリーナの収容人数などについて一定の条件を示しています(※)。そうした条件を満たすためにも、まず会場の席を埋める努力が必要です。
その過程では、招待などを通じて、まず試合会場に足を運んでもらうきっかけをつくることも必要だと考えています。ただし、安定したクラブ運営を確立するためには、将来的にチケット収入を売上の柱にしていかなければなりません。
B.LEAGUE全体を見渡しても、オーナー企業による補てんに頼っているクラブは少なくありませんが、できるだけ早く、そこから脱却したいと考えています。招待によって入場者数を確保するだけでなく、最終的には「年間シートで埋まるクラブ」を目指さなければなりません。
有料で来場していただくためには、単にチケットを販売すればよいという話ではありません。チームが強くなること、サービスが良くなること、演出が観客の熱狂を生むものになること、そして買いたくなるグッズがあること。それらがすべて噛み合って、初めて「お金を払ってでも見たい」と思っていただけます。
たとえばB.PREMIERに参入し、千葉ジェッツが福岡に来る、日本を代表する渡邊雄太選手や富樫勇樹選手が来るとなれば、それだけで見たいと思う人は増えるでしょう。だからこそ、私たち自身も早く、そのレベルに肩を並べるところまで行かなければならないと思っています。
──現状ではスポンサー収入の比重が大きく、チケットやグッズ収入にはまだ伸びしろがあるように見えます。スポンサーにとって魅力あるクラブになるには、何が必要でしょうか。
高木 スポンサーは慈善事業ではありません。企業側にもメリットがなければ、スポンサーにはなってもらえません。ハウステンボスでは、東京の企業にも数多くスポンサーになっていただきました。それは、ハウステンボスを九州でのテストマーケティングの場として活用できたからです。年間300万人規模のお客さまが来るので、新商品を試してもらったり、ブランドの認知を広げたりすることができました。
ライジングゼファーフクオカも、最終的には企業から「スポンサーをさせてください」と言っていただけるクラブにならなければなりません。東京の企業ももちろん大歓迎ですが、まずはクラブ自体の魅力と価値を高めることが先決です。
その一方で、クラブは地元や九州の企業に支えられる存在でありたいとも考えています。また、福岡ソフトバンクホークスもそうだと思いますが、地域に根づいて支えられることは絶対に大事で、福岡や九州出身の選手が入団したくなるチームを目指します。
※2029-30シーズンのB.PREMIER新規参入については、2025-26シーズンに平均入場者数4,000人、売上高12億円、2026-27シーズンに平均入場者数3,000人、売上高9億円を達成し、B.PREMIER仕様のアリーナを確保することなどが条件として示されている。
バスケットボールならではの
観戦体験を提供する
──野球やサッカーと比べ、バスケットボールは観客とコートの距離が近く、選手の動きや音を間近で感じられます。エンターテインメントとして、どのような可能性を感じていますか。
高木 まさに、そこがバスケットボールの大きな可能性だと思います。私はバスケットボール経験者ではありませんが、スポーツを見ることが好きで、日本各地のB.LEAGUEやアメリカのNBAの試合も見てきました。バスケットボールは試合時間が比較的読みやすく、屋内競技なので天候にも左右されません。しかも、観客とコートとの距離が近く、選手のシューズの音が聞こえるほどの迫力があります。三世代で来場しやすく、男女を問わず競技経験者が多いため、競技そのものに親しみを持つ人も少なくありません。
一方、福岡は都市の規模が大きく、さまざまなプロスポーツがあるからこその難しさがあります。だからこそ、マーケティングによって差別化しなければなりません。人気のあるクラブ、強いクラブは、演出にもマーケティングにも投資しています。顧客データやCRMを活用し、ファンクラブを増やし、何度も来たくなる仕組みをつくっています。季節や客層、タイミングに応じて打ち出し方を変え、再び来場する理由をつくる。こうした取り組みは、ハウステンボスで行ってきたこととも共通しています。そのノウハウをスポーツの文脈で再構成していく必要があります。
もちろん、チームの強さは重要です。ただし、プロスポーツは競技力だけでは説明できません。福岡ソフトバンクホークスのように、強さだけでは説明できない熱量をもつ一流のプロスポーツ組織もあります。歴史や文化、地域性、観客の一体感、体験価値を総合して、クラブの魅力をつくらなければなりません。
立地を言い訳にせず
アリーナを核に新経済圏を
──アイランドシティには鉄道がなく、アクセス面を不安視する声もあります。
高木 アクセスについては本当によく言われます。電車がない、交通が弱いという指摘です。その立地とは付き合っていくしかありませんし、シャトルバスなどの工夫は検討中です。しかし、立地を言い訳にはできません。結局のところ、コンテンツが強ければ人は来ます。それはハウステンボスで痛感しました。大都市圏から離れた立地でも、私が携わっていた時期には、年間300万人規模のお客さまに来ていただきました。B.LEAGUEでも、交通アクセスが完璧ではなくても多くの観客を集めている事例があります。重要なのは、コンテンツの強さと、そこでしか得られない体験価値です。
ハウステンボスも、最初からアジアまでを商圏として見ていた部分があり、単にアクセスの良い場所を狙っていたわけではありません。旅行会社に勤務していたころから、「まだ人が行っていない場所をどう売るか」を考え続けてきました。そのノウハウは、ライジングゼファーフクオカでも生かせると思っています。
──29年の開業を目指す新アリーナを含め、アイランドシティ全体でどのような滞在体験や経済圏をつくろうと考えていますか。
高木 最終的には、ホテルがあり、イベントホールがあり、シアターがあり、アリーナがあるという、一体型の開発になっていくと思います。ホーム、アウェー双方の観客がホテルに泊まり、買い物や食事を楽しみ、試合を見て帰る。家族で来て、それぞれが異なる楽しみ方をする。そういうワンストップの経済圏ができれば、地域にもお金が落ち、街としての魅力も高まります。
ライジングゼファーフクオカだけが盛り上がればよいわけではありません。地域全体が潤うかたちにならなければ意味がないと思っています。そのなかで、ライジングゼファーフクオカが、アイランドシティのスポーツコンテンツとして核の1つにならなければならないと考えています。福岡のライジングゼファーフクオカであると同時に、アイランドシティのライジングゼファーフクオカでもある。街の個性を強める存在になりたいと思っています。
バスケット王国・福岡
地域との循環をつくる
──福岡には福岡第一高等学校や福岡大学附属大濠高等学校など、全国屈指の強豪校があります。こうした地域のバスケットボールの土壌を、クラブの成長にどうつなげますか。
高木 福岡がもつバスケットボールの基盤は、大きな強みです。本来であれば、地域の子どもたちが「いつかライジングゼファーフクオカでプレーしたい」と思える流れをつくらなければなりません。現在は、まだその流れが十分にできているとはいえません。子どもたちの目標となるためには、クラブとしての魅力、経営基盤、競技力のすべてが問われます。クラブとしてナンバーワンを目指すことと、チームが強くなることをセットで実現しなければならないと考えています。
──ホームタウン活動や、地域の子どもたちとの関係づくりについては、どのように考えていますか。
高木 現在、福岡県内の13自治体とフレンドリータウン協定を結び、バスケットボール教室や子どもたちとの交流、市民招待などに取り組んでいます。認知度を高めるためには、こうした草の根の活動を続けなければなりません。地道な取り組みですが、クラブにとって非常に大事な部分です。
また、アイランドシティでは、児童・生徒数の増加にともなって新しい小学校が開校し、新設中学校の整備も計画されています。街の子どもたちが親に連れられて試合を見にきて、「いつか自分もここでプレーしたい」と思う。そうした循環をつくっていきたいと思っています。
【文・構成:寺村朋輝】
<COMPANY INFORMATION>
代 表:高木潔ほか1名
所在地:福岡市東区香椎照葉6-6-10
設 立:2007年5月
資本金:2億1,800万円
売上高:(25/6)11億925万円
<プロフィール>
高木潔(たかぎ・きよし)
1986年に(株)エイチ・アイ・エスへ入社し、2012年に常務取締役に就任。13年からはハウステンボス(株)専務取締役。17年より(株)FirstK代表取締役として観光・地域開発事業を展開するほか、福岡市東区・照葉のアイランドアイを中心とするエリア開発やホテル運営にも立ち上げ当初から携わる。26年6月、ライジングゼファーフクオカ(株)代表取締役社長に就任。









