高浜原発差し止め決定の2つの衝撃、渦巻く歓迎と憎悪(前)
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稼働中の原発の運転を差し止めた司法判断に対する2つの衝撃が続いている。関西電力高浜原発3、4号機の運転を差し止めた大津地裁(山本善彦裁判長)の決定だ。高裁で取り消されると思っている人は多い。しかし、稼働中の原発を裁判所が止めた事実、関電を相手に、高浜原発の運転差し止めを命じる決定が2回にわたって、それも別の裁判官から出た事実は重い。
特異な裁判官の特異な考えではなかった
衝撃の1つは、「原発の運転差し止めを命じる裁判官が他にいたのか」という驚きである。原発を止める裁判官が樋口英明判事以外にいたということだ。樋口判事は福井地裁裁判長として、2014年5月に大飯原発3、4号機の運転差し止めを命じる判決を言い渡し、15年4月には高浜原発3、4号機の運転差し止めを命じる仮処分決定を出した裁判官だ。
「原発なくそう!九州玄海訴訟」弁護団幹事長の東島浩幸弁護士は「樋口裁判官だけが原発の危険を指摘してくれるのではなく、違う裁判官でも止める決定が出たことは、広がりに確信が持てた」と指摘する。別の言い方をすれば、今回の決定が特異な裁判官の特異な司法判断ではないという見方になる。裁判官は原発の運転を差し止めていいのだという流れが生まれるかもしれない。同訴訟は、原告数が1万人を超えるマンモス訴訟に広がっており、さらに脱原発の取り組みの攻勢を掛ける考えだ。
「玄海原発プルサーマルと全基をみんなで止める裁判の会」の石丸初美代表は、原発再稼働が相次ぎ、「この国はだめだ」と、気持ちが折れそうな中、希望を感じた。「福島のような原発事故が起きるかもしれないのに、命と電気とどちらが大事か。私たちも裁判の最中なので、司法に期待したい」と話す。逆に、「裁判官は国策に楯突かない」という“司法神話”に浸かっていた原発推進派にとって、精神的な意味では、過酷事故が起きたのと似たような衝撃だった。
大津地裁の決定に対して、電力会社や原発推進の識者からは憎悪を剥き出しにした批判が起きている。
関電は、「当社の主張を踏まえないものであって、極めて遺憾であり、到底承服できない」として、決定の取り消しを求めて、不服申し立てをした。
産経新聞や読売新聞など大手メディア、識者らのブログなどが大津地裁決定を批判している中心点は、「最高裁判例を逸脱している」「新規制基準を否定している」「高度な専門性が求められる安全性の判断に、素人である裁判官が疑問をはさむな」という内容だ。最高裁判例というのは、伊方原発訴訟最高裁判決のことで、行政訴訟への判決だが、(1)安全審査の目的は原子力災害を万が一にも起こさないようにするため、(2)科学的専門技術的意見の尊重、(3)看過しがたい過誤があれば違法、(4)資料をすべて保持している国がまず立証責任を負い、その主張立証を尽くさない場合には、判断に不合理な点があると推認される--という判断(注)である。
読売新聞社説などの論評は、同判決のうち2番目にふれているが、それ以外を欠落している。大津地裁の決定は、原発が一次冷却水喪失によって炉心が損傷し放射能を放出する一般的な危険性があるのに加え、福島第一原発事故を体験した現段階では、電力会社が、規制が具体的にどう強化され、どう応えたのかの主張と証拠提出を尽くさない限り、人格権侵害のおそれが高いにもかかわらず、福島の事故を踏まえた過酷事故対策についての設計思想や、外部電源喪失時の対応策、基準地震動策定に危惧があり、津波対策や避難計画にも疑問が残るとして、安全性の確保の主張と証拠説明が尽くされていないと判断した。
決定は、立証責任についての最高裁判決の判断枠組みが今回の仮処分でもおおむね当てはまるとして、関電が依拠した根拠、資料等を明らかにすべきで、その主張立証が尽くされない場合には、電力会社の判断に不合理な点があると事実上推認されるとしている。新規制基準の制定過程における重要な議論や、議論を踏まえた改善点、原発審査で問題となった点について、「道筋や考え方」を主張し、「重要な事実に関する資料について基礎データ」を提供することが必要だと求めた。
決定の立場は、安全だというなら規制委員会が適合証明を出したことだけでは済まず、みずから安全だという資料や証拠を提出して、説明しなさいというに過ぎない。関電はそれが十分でなかったと判断されたわけだ。
最高裁の判断と変わるところはないように思える。変わったとすれば、最高裁判決後の11年3月に、福島第一原発事故が起きたということだ。(つづく)
【山本 弘之】(注)伊方原発最高裁判決は、次のような判断を示した。(1)安全審査の目的は、周辺住民等の生命身体に重大な危害及ぼし周辺環境を放射能によって汚染するなど深刻な災害を万が一にも起こらないようにするため安全性に科学的専門技術的見地から審査するもの、(2)安全基準への適合性については、原子力委員会の科学的・専門技術的意見を尊重して行う首相の合理的な判断にゆだねる趣旨と解するのが相当、(3)訴訟時点の科学技術水準に照らし、審査審議と判断過程に看過しがたい過誤、欠落がある場合には原子炉設置許可処分は違法、(3)安全審査に関する資料をすべて国が保持していることを考慮すると、まず国が判断に不合理な点がないことを相当の根拠、資料に基づき主張立証する必要があり、その主張立証を尽くさない場合には、判断に不合理な点があると事実上推認されるべきである。
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